06-15
「あの子達。話をしていると、何だか複雑な事情を抱えているみたいだけど」
「……母さん、二人から聞いたのか?」
「勘よ、勘。大丈夫、詮索はしないから。とにかく我が家では変に遠慮させないこと。寛いでもらうこと。それから圭太のお友達なんだから、圭太がちゃんとお世話すること。気遣ってあげること。分かった?」
「はーい」
「あ、圭太。明日は母さん、朝から出掛けないといけないから。明日も泊まるなら、母さん、夕方過ぎに帰って来るからって二人に伝えててもらえる? 何か食べたいものがあったらメールで教えて。買い物はしてくるから。それと朝食は圭太がしてあげて。棚にパンが入っているから」
顎で棚をしゃくる母さんに肯定の返事を返して、俺は二人の待つ自室へと向かう。
その際、母さんに紙パックのミックスジュースを手渡された。俺は紙パックを手土産に自室に入る。二人は敷布団の上で胡坐を掻いて携帯弄りながら駄弁っていた。
「ごめんごめん」
俺は布団を敷かせてしまった詫びを口にし、ミックスジュースを手渡す。
「布団敷かせちまってごめん。二人がしてくれたんだって?」
「おばちゃんが部屋に来てさ。布団持ってきてくれたから、それを適当に敷いただけだ。大したことしてねぇよ」
「ケイの…おばちゃん……良い人でユーモアあるな」
……ユーモア、ですと?
もしかして我が母は俺がいない間に二人に何かしたのか?
恐る恐る尋ねれば、シズが「口説かれそうになった」爆弾発言投下。
話を聞けば布団を敷く際、母さんが二人の顔をジロジロと見つめて、「十年若ければね。お誘いするんだけどね。口説くんだけどね」おばさん定番の台詞を二人に言ったらしい。
更に「此処で寝ようかしら。両手に花、両手に庸一くんと静馬くん」なんて阿呆発言したとか。
俺は額に手を当てて肩を落とす。
何、いい歳こいて十代の青年に言ってくれちゃってるの母さん……頼むから友達に恥ずかしいこと言わないでくれよ。頭痛がしてくるってマジで。
気を取り直して、俺は母さんから受け取った言付けを二人に報告する。
「明日は母さん、朝から夕方過ぎまで家にいないって。明日も泊まるなら夕飯のリクエストを遠慮なくどうぞ、だってさ」
「ケイのおばちゃんってつくづく良い人だな。夕飯のリクエストって……普通そこまでしねぇって」
「言ったろ? 泊まりに厳しい家もありゃ、甘い家もあるって。俺の家は甘いんだよ」
まあ、珍しいとは思うけどさ。
世の中いろーんなヤツがいるしな! そういう家が世の中に一軒くらいあって良いといいと思うんだ。
「できれば……お願いしたい」
決まり悪そうにシズはジュースを飲んでいる。
「さっき母親から連絡……あってな。愛人……明日もいるらしい」
「んじゃ、シズは確定な。ヨウは?」
「ンー。明日も泊まっちまうかなぁ。親父、明日もいるかもしんねぇし。どーせ親父がいなくても、家はツマンネェし窮屈だし。シズが泊まるなら、俺も世話になろうかな」
「ヨウが良ければ、泊まっちまえば? 母さんは二人が泊まる前提で話しを進めてたしさ。うざったいくらい浩介が纏わり付いてくるかもしんねぇけど」
「じゃ、そうする。ワリィな」
「べつにいいって。後で母さんには報告しておくから」
自分で言っておいてなんだけど……と、いうことは、まあ、不良と二晩丸々一緒に過ごすわけで。
ええいっ、俺は恐くなんかないぞ!
ちっともってわけじゃないけど恐くないぞ! ちょっとは免疫が付いた(筈)なんだからな! 朝昼晩、不良と過ごす。結構な事だ、ああ結構な事さ! ……ちょっとだけ気が引けたのは内緒だけどな。
でも、思ったほど恐くないってのもほんと。
ヨウもシズも、こうやって部屋にいる間はちっとも不良の顔しないから。うん、思ったほど恐くないよ。
今の俺は二人を不良じゃなくて“ただの友達”として見ているから、こんなに楽しいのかも、しれないな。
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