06-14
浩介が部屋に戻ってくれる。あー良かった……安堵する俺を余所に浩介はヨウとシズに「明日も泊まるの?」と質問。
どうやら浩介の中で二人は、『自分に優しくしてくれるお洒落かっこいい不良お兄ちゃん』として登録されたらしい。泊まって泊まってと目が輝いている。
ちなみにいつも泊まりに来る利二は浩介の中で『自分に優しくしてくれる物知りお兄ちゃん』として登録されている。
利二って結構物知りで、浩介に色んなことを教えてくれては相手をしてくれている。
「明日は分かんねぇな」
「ごめんな……」
二人が分からないと言葉を返せば、残念そうに肩を落とした。
「分かんないんだ。そっかー……でも、また泊まりに来てね!」
「おう、来てやる来てやる。また話そうな、浩介」
グシャグシャっとヨウが浩介の頭を撫でる。調子に乗った浩介は満面の笑顔で更に言葉を重ねた。
「庸一兄ちゃんも静馬兄ちゃんも、今度は一緒に夕飯食べようね!」
「ああ……そうだな……ご馳走してもらう」
「絶対だよ? じゃあ、兄ちゃん達、おやすみ。兄ちゃん、ゲームしてくれてありがとう!」
構ってもらった上にボスまで辿り着けた浩介は、ご機嫌ルンルンで部屋から出て行く。
二人ともほんと面倒見がいいというか、お人好しというか、申し訳ないっていうか。浩介のヤツ、図々しいというかさ。
「ごめんな。浩介の相手してもらって。疲れただろ? あいつ、俺の友達だと分かると誰ふり構わず、懐いてくるから」
「可愛いじゃん、浩介。ああいう弟だったら欲しいぜ。また泊まりに来てくれとか、嬉しいこと言うしさ」
「ほんと……にな」
「二人が疲れてなきゃいいけどさ。あ、俺、風呂入ってくるから。適当に寛いでてな」
言葉を残して俺は寝室を出て風呂に向かった。
風呂に入る際、俺はすっかり忘れていた左肩を負傷を思い出した。家族にばれないようにするために普段着ている寝巻きから、一昔前に使っていた寝巻き用のジャージに交換する。
これなら肩の黒痣も隠せるし、滅多な事じゃばれないだろう。
湯船に浸かりながら、俺は後でヨウに診察料払わないとな……っと、ぼんやりと思考をめぐらす。本当に今日は濃い一日だった。
ワタルさんと一緒に昼間喧嘩しに行って、生徒会長に嫌味言われまくって、日賀野達と再会して、帆奈美さんにヨウの舎弟は後悔するって忠告されて。
俺は帆奈美さんの言葉を真に受けるつもりは毛頭なかった。
後悔するもしないも、ヨウがどういう男かも、自分の目で見極めるつもりだったから。
舎弟になった時点で後悔はしているさ。不良に関わった時点で後悔もしている。
でも、今日の泊まりに来たヨウとシズを見て、ちょっと関わって良かったかもって思えるようにもなった。結構楽しかったんだ。三人でワイワイしててさ。
どう不良に飾っても俺と同じ16なんだってとこも、家庭事情複雑ってことも知った。うん、ヨウ達って普通の俺とそんなに大差ないんだな。
「けど日賀野達との宣戦布告。あれ、どーなるんだろうな」
うう……考えただけで気が滅入るぞ。
日賀野達と全面的に対立することになったんだし、俺はきっぱりと日賀野に舎弟にはならないっと言った。
元々敵だったんだけど、今回のことで完全に敵になった。日賀野は舎兄のヨウを嫌悪している。
舎弟の俺だって同じことが言えるわけだ。
日賀野にとって俺って存在はからかいやすいみたいだから、悪い意味で気に入られてはいるんだけどさ。
大袈裟に溜息をついて俺は浴槽から出た。
考えても仕方が無いよな。うん、仕方が無い。あーあ、明日も学校だな。行きたくないな。だるい。
水気を取って寝巻きに着替えた俺は台所に行って水分補給をする。台所には母さんがいた。
お茶を飲んでいる俺の頭を叩いて、「何してるの」前触れもなしに叱り付けてくる。いきなり何だよ、もう。脹れる俺に母さんは呆れながら溜息。
「お風呂に入る前に寝床の準備をしてあげなきゃ駄目じゃない。二人がしてくれたのよ?」
「あ、やっべぇ……」
泊まりに来てる二人にさせちまった。大失態だ!
仕方が無いんだから、文句を垂れてる母さんは後で謝っておくよう言い、流し台に立つとちゃっちゃかと皿を洗い始めた。
「不良でも良い子ね、あの子達」
不意に母さんは声を窄めた。
不良に嫌悪感の色は見せなかった。どことなく安堵の顔を見せている。
母さんは分かっていたのかな、ヨウ達が不良でも良い奴等だってこと。
「利二くんみたいな子ばっかり付き合っているかと思ったら、圭太も色んな人と付き合うようになったのね。悪い子達じゃないってのは挨拶で分かったわ。さっき浩介がいっぱい相手をしてもらったってはしゃいでたし」
けど次の瞬間、声がキュッと強張った。
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