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06-12



「俺の部屋に行こう」



ヨウとシズの背を押して居間を出た。

早足で俺の部屋へと二人をご案内、襖を開けて二人の体を部屋へと押し込んで閉めた。ようやくホッと息をつく。

つ、疲れた……家族に軽く紹介して部屋に案内するこの過程で疲労がドッと押し寄せてくる。昼間の喧嘩の一件、日賀野達の宣戦布告の一件もあるから今のやり取りは余計疲れた。

ヨウやシズも疲れているんじゃないかな。
我が家のやり取り、めっちゃ煩かっただろうし。二人に適当に座るよう言って、改めて詫びる。

「ごめんな、俺の家煩くて。疲れただろ?」

「んにゃ、そんなことねえよ。ケイの家族、オモシレェな。なんかケイの家族って感じ」

「ふぁ〜……おじちゃんおばちゃん、良い人だし……」

「ほんとにな」

笑声を漏らすヨウは部屋の四隅に鞄を置いた。倣ってシズも鞄を置くと、俺の部屋をグルッと見渡す。

俺の部屋は畳部屋。ベッドや机、箪笥に漫画とCDとゲームカセットが入っている棚、それにゲームするための小さいテレビなんかが置いてある。

部屋はわりと広い方だとは思う。
この部屋でヨウもシズも寝てもらうつもりだしさ。

それを二人に伝えれば、了解だとばかりに頷いて腰を下ろした。胡坐を掻く二人に寛いでもらうよう言って、俺は一旦部屋から出て台所に向かう。

飲み物を持って部屋に戻れば、二人は早速部屋の探索を始めていた。

二人とも棚に入っている漫画やCDやゲームカセットを眺めていただけなんだけどさ。

「見てもいいよ」

俺は茶の入ったコップを二人に差し出しながら言う。

「興味あるのは適当に見ちゃっていいから。CD聞きたいならコンポに入れるし、ゲームしたいなら直ぐ準備できるし」

「あ、サンキュ。なんかさ。ケイんところって自由だな」

コップを受け取りながら、ヨウは妙な事を言った。自由かなぁ、我が家。
シズも同意見だと頷きながらコップを受け取る。 

「なかなか……ないと……思う。こういう家……うちは……窮屈……極まりない」

シズのところは愛人がいると言ってたもんな。
どういった事情かは分からないけど窮屈だと思う。

我が家を自由って言ってくれる、ヨウのところも家庭環境が複雑なんだろうな。俺は二人と向かい合う形で腰を下ろした。


「ケイの家は……羨ましい……」


半分くらいお茶を飲み干したシズは、ポツンポツンと静かに家庭事情を話し始めた。

曰く、シズの家はシズが小さい頃に両親が離婚している。

シズはお母さんに引き取られて女一つで育てられてたらしいんだけど、シズが中学に入る時、お母さんが再婚。
あまり上手くいかなかったみたいで、離婚届は出してないけど旦那さんとは不仲。旦那さんは殆ど帰って来なくなったらしい。

代わりにお母さんは愛人を作り、家につれて帰るようになったとか。

「家は嫌いだ」

シズは眉間に皺を寄せながら語る。

ヨウも同じように家庭事情を話してくれた。


曰く、ヨウの家は四人家族。

お父さんとお母さんと姉ちゃんと自分で暮らしているらしい。バツイチ同士が結婚したから、姉ちゃんとは異母兄弟なんだって。

ヨウはお父さんの子、姉ちゃんはお母さんの子らしくて、仲は良くも悪くもないらしいんだけど。
親との仲は最悪なんだって。特にお父さんとの仲はすこぶる悪いらしい。

「親父が帰ってくる日は帰らないって決めてンだ」

忌々しそうにヨウは吐き捨てた。
なんかすげぇ複雑なんだな。二人の家庭事情。

もしかして家庭事情が事情なだけに不良になったのかな? なんと言ってやればいいか分かんないけどさ、俺から言えることは一つ。

「んじゃ、泊まりたい時は声掛けてくれよ。煩い我が家でいいなら、それなりに歓迎はするからさ。言ったと思うけど、我が家は泊まりに関しりゃ甘いんだ」

「そりゃ嬉しいけど……なんでケイのとこって、こんなに泊まりに甘いんだ?」

ご尤もな質問をヨウは俺にぶつけてきた。

うーん。そうだな、我が家は他に比べれば確かに泊まりにはめっちゃ甘い。

突然友達が泊まりに来ると言っても、反対されたことなんて記憶上ない。

理由って理由はないんだろうけど、まあ……あるとすれば。

「父さん方も母さんの方も、兄弟が多いから気にしちゃないんだと思う。親戚同士で集まって寝泊りすることも多かったみたいだし。母さん達自身も友達を呼んで泊まり会してたみたいなんだ」

「へえ、だから突然でもあんな風に歓迎してくれるのか」

「それどころか慣れているよ、我が家の住人は。客が来ても、さっきみたいに素を曝け出しまくってるから申し訳ないんだけどさ」

「そっちの方が……気持ち的に楽だ……気にしてない」

「だな」

やっぱりどっかで気にしてたんだな。突然泊まりに来るってことに。
ヨウ達って不良のクセに人様の事情を考えるから、不良らしくないとこがあるよな。

いや、もしかしてそういう生活をしてきたから、深く考えるようになっちまってるのかもな。

そんな二人に出来ることなんて少ないけど、でも、やれることはやってやるつもりだ。俺ははにかんだ。

「ヨウ、シズ。泊まりにすげぇ厳しいとこもあるかもしんねぇけど、俺の家はめっちゃ甘い。事情があれば尚更、母さん達は許す。そういう家もあるってこと、忘れないでな」

なんにも気にしないでくれと俺は二人に向かって目尻を和らげた。

「二人が我が家に好感度を持ってくれたなら良かった。煩いなんて苦情受けたら、どうしようかって思ったよ」

おどけてみせれば、二人は笑顔を作った。

不良じゃない笑顔。俺と同級生だって思わせてくれる、飾りっ気のない素顔。

どう飾っても、根は俺と同じ十六なんだな。

俺も二人につられて笑顔を作った。



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あきゅろす。
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