06-11
羞恥と一緒に溜息つく俺に対し、「毎度あんなやり取りしてるのか」ヨウ。「今の……弟だろ?」シズ。二人とも笑声を必死に噛み殺そうとしていた。
けれど努力は失敗に終わっている。
笑うならいっそ、声に出して笑ってくれ! 真面目にすんげぇ恥ずかしいんだぞ!
俺の顔を見ては笑う失礼な不良二人を家に上がらせて、まずは居間へと向かう。そこで母さんに泊まりに来たって報告しないと。
にしても、二人ともまだ笑っているし。ヨウもシズも笑い過ぎだって。
廊下を歩いていたら風呂場のドアを閉めている我が父を発見。
父さん……なんでパンツ一丁。
風呂上りなのか体からホッカホッカと湯気が出ている。我が父は首に掛けているタオルで頭を拭きながら、ゆっくりとこちらを見てきた。そしてニッコリ。
「ああ、圭太。帰ってたのか。後ろの方々はお友達か? こんばんは」
「こんばんは、お邪魔してます」
「今夜、お世話に……なります」
二人は意外と敬語で父さんに挨拶。不良も挨拶できるんだな。
やや戸惑い気味なのは父さんがパンツ一丁だからだ。
でもそこは我が父、能天気に会釈して「寛いでくださいな」と笑っている。どうでもいいけど、いつまでパンツ一丁で立っているんだよ!
「父さん、頼むからシャツくらい着てくれって! 友達がいるから!」
「ならサービスかな」
胸部を軽く叩き、のほほんと綻ぶ父さんに俺は言葉を失うしかない。誰が親父の上半裸を見て喜ぶんだい? 父よ。
「そう白眼するな、圭太。シャツが無かったんだ。仕方が無いだろ? それに田山家の中じゃ素っ裸で歩いたって罪にはならないさ。なにせ、我が家は父さんがルールだからな。お友達さんが我が家を素っ裸で歩いても父さんは許すぞ」
はっはっは、我が家は父さんがルールだ。笑いながら父さんは先に居間と入って行く。
「ケイの父ちゃんってマイペースだな」
「ほんと……にな」
ヨウとシズが変に感心してくれる。あんま嬉しくないぞ、二人とも。
妙な恥ずかしさに駆られた俺は強く頭部を掻いた後、二人を居間へと連れて行く。
居間にはソファーの上でゲームをしている浩介と、のそのそシャツを着ている父さん、それからテーブル台を拭いている母さんの姿があった。母さんは俺達の出現に顔を上げる。
不良のヨウとシズに驚いた様子もなく(内心では多少驚いていると思う)、いらっしゃいと二人に声を掛けた。
父さんの時と同じように二人は会釈してご挨拶。
母さんは二人に向かってお客様用の優しい微笑を浮かべる。
「圭太から話は聞いているわ。大したおもてなしはできないけど、遠慮なくなんでも言ってね。先にお風呂に入る? あ、ご飯はちゃんと食べた? 夕飯のあまりならあるんだけど。それとも何か飲むかしら? アイスとかお好き? 二人ともお名前は? って、圭太、ぼさっとしてないでお二人に接待してあげなさい! 困ってるじゃないの!」
「そりゃ母さんがいっぺんに質問しているからだって!」
二人だって困るだろ、あんなに質問されりゃさ!
だけど母さんは俺の接待の悪さに二人に詫びている。俺のツッコミは無視してくれている。
取り敢えず二人とも困ってるみたいだから、俺が勝手にこの先の行動を決めさせてもらった。
「風呂は十時くらいからぼちぼち入る。俺達、部屋に行くから。あ、金髪の方が荒川庸一。水色髪の方が相牟田静馬」
「庸一くんに静馬くんね。二人とも、着替えとかはある? 下着の替えがないなら、新しいの出すわ。お風呂に入る時に出してあげるから。丁度買い置きがあるの」
「あ……でもワリィしなぁ」
「一日くらい……我慢は……寝巻きは……学校のジャージがありますし」
「いいのよ。我が家に初めて泊まりに来て、何かと戸惑うこともあるだろうし。サービスしないとね。二回目以降から持参してもらえればいいから。それにしても、二人ともカッコいいわね。息子ながら圭太が霞んで見える」
そりゃな、不良の身形はカッコイイだろうさ。
ヨウなんてイケメンに属するんだ。地味野郎の俺なんて霞んで見えるだろうさ! でもそんな地味野郎を産んだのは母さんだぞ!
心中で突っ込んでいると、浩介がゲーム画面から顔を上げてリモコンを手に取った。ピッピッピッとチャンネルを変え始める。
「あー!」
次の瞬間、母さんが声音を張った。
「浩介! 今から衛星放送で韓ドラ観るんだから、テレビのチャンネル替えないで!」
「今からお笑いがあるからやっだぁ」
「ゲームとテレビを一緒に取るなんてルール違反よ! どっちか一つになさい!」
「今はゲームしてないもーん」
田山家のルールはテレビを見るならテレビだけ、ゲームをするならゲームだけ、パソコンをするならパソコンだけと、一つのものに絞らなければいけない決まりがあるんだ。
テレビを観ながらパソコンをする、ゲームをしながらテレビを観る、そういった行為は言語道断。やるなら一つに絞らないとルール違反なんだ。
ま、単純に言えば、我が家で人気があるテレビやパソコンはみんなで仲良く円満使おうってことでこんなルールがあるんだ。
けどこのルールがあるせいで何かと喧嘩が勃発。今も母さんと浩介がテレビを取り合っている。
「お母さん、ケチくさい! 子供に譲ってよ!」
「馬鹿、テレビに大人も子供も親子もないのよ! 圭太の部屋にもテレビあるでしょ! そっちで観なさい!」
「兄ちゃんとこのテレビちっさいもん! こっちがいいっ! 母さんの贅肉マン! 三段腹!」
「ンマッ! ゲームばっかりしてるもやしっ子には言われたくない台詞! 根暗になるわよ!」
「僕は地味ですぅー。根暗と対して変わりませんー」
「母さんだってもう歳だから、贅肉が付き始めても気にしてませんー。さっさとリモコン渡しなさい!」
頼むから、客人の前でそういった会話はやめてくれないかな。すげぇ恥ずかしいだろ。
ヨウもシズもポカンと口開けて、我が家の光景を見つめているじゃないか。
真面目に、真面目に、まじっめに恥ずかしいぞ。
父さんは止める様子もなく寝巻きを探しているし。
これ以上、居間にいると俺、羞恥で死んでしまう。さっさと退散しないと!
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