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不良が礼儀正しいと好印象に見えるなんてセコイだろ


駅から出た俺以外の三人の機嫌は最悪だった。

日賀野も魚住も帆奈美さんも中学生時代の仲間だった奴等。今は犬猿の仲なんだから、そりゃ会えば機嫌も悪くなるだろうな。

特にヨウの機嫌はすこぶる悪かった。
口を開けば日賀野に対しての悪態バッカ。マシンガンのように悪口が次から次から次から、凄まじいのなんのって半端ねぇよ。

響子さんは苛々しながら持参しているガムを噛んでいるし、シズはムッスリとして始終ダンマリ。

残された俺はというと……めっちゃ居心地が悪い。

自転車を押しながら三人の機嫌を窺うことしかできねぇ。下手に口を出せば八つ当たりされそうだ。

機嫌悪い不良達のうち、二人は今から家に来るんだぜ? 気が滅入っちまう! ずっと機嫌悪かったらどうしよう!

だけど、それは俺の杞憂に過ぎなかった。
三人とも歩いているうちに熱が冷めてきたみたいで、次第に纏っていた怒りオーラが薄れていく。

「あーあー、宣戦布告しちまった」

響子さんのおどけ口調で一気にどよんでいた空気が晴れた。

「今から大変になるぜ。なにせ、こっちから宣戦布告吹っ掛けたんだからな。気兼ねなく話し合える場所を見つけて、明日にでもみんなで話し合わないとな。まずは宣戦布告したっつー報告からか」

響子さんの意見に俺達は同調した。
いつもたむろするゲーセンで話し合うのは無理だろ。誰でも入れるし、誰が日賀野達と繋がっているか分からない。できれば誰かの家で話し合えれば良いんだけど人数が人数だもんな。

俺の家でもいいけど、うーん、全員が部屋に入ったら狭そうだしなぁ。


「ま、これに関しちゃ今日は仕舞いだ」


ヨウが話を打ち切った。 
そうだな、今、話し合っても仕方が無いもんな。この件は後日話し合おうということになった。 

響子さんはバスで家に帰るらしい。
俺達はバス停まで響子さんと同行。そこで別れてシズの間食用のお菓子をコンビニで大量に買った後(あんだけバーガー食っといてまだ食うのかよ)、俺の家へ向かった。

俺の家は響子さんと別れたバス停から徒歩15分先のところにある。

日賀野達との一件を忘れるように他愛もない会話を飛び交わせながら、俺達は家へと歩いた。


田山家は住宅街の一角にひっそり息を潜めている。一軒家なんだ。俺の家って。

緩やかな坂を上ると我が家が見えてくる。
残念なことに新築じゃない。古いわけじゃないけど、それなりに年期の入った平屋建ての一軒家。どこにでもありそうな一軒家だ。 

家に着くと、早速ヨウとシズは揃って俺の家を見上げて人の家を観察し始める。

「でけぇな」とヨウ。「一軒家。羨ましい」とシズ。

二人とも住まいは一軒家じゃないらしい。
興味津々に我が家を観察している。人の家って興味が出るよな。分かるわかる。俺もそうだもん。

でも俺の家はなあんにもないぜ。期待されても困るぞ。

車庫にチャリを置いた俺は二人を連れて玄関へと向かう。
引き戸式の玄関に立つと向こうから騒がしい声が聞こえた。そりゃもう立っているだけで此処まで声が聞こえてくる。

俺は片眉をつり上げて、くるっと二人の方を向く。

「ヨウ。シズ。我が家はめっちゃ煩いからな。それだけは覚悟しておいてくれよ」

キョトンとした顔で二人は俺を見てきた。

「泊まらせてもらうんだ。文句ねぇよ」

「ふぁ〜……ヨウの言うとおりだ」

二人は快く承諾してくれたけど……分かっていない。我が家の騒音とも言うべき煩さを。騒がしいのなんのって半端無いぞ。

俺は取っ手に指を引っ掛けて扉を引く。

ガラガラ。扉の引く音と一緒に「ただいま」と挨拶、二人を中に招き入れて扉を閉め、鍵を掛けているとバタバタバタと足音が聞こえた。

早速来たか。
けたたましい足音を鳴らしてやって来たのは俺の弟、田山 浩介(たやま こうすけ)。小5で五歳離れている。兄弟だけあって顔立ちは俺に似てる。纏っている雰囲気も地味オーラムンムン。兄弟揃ってクラスの中では地味日陰組に入っているんだ。

ゲーム機片手に俺のとこにやって来た浩介は、

「兄ちゃん! 遅いよ、どうして早く帰って来てくれなかったの!」

その場で地団太を踏む。

「お前なぁ」

帰って来て早々なんだよ。
憮然と溜息をつくと、「僕は困っていたのよ」意味深に眉根を寄せ、自分の右頬に手を添えた。口調がオネェに変わる。

お……おい、まさか浩介。

「あらやだお兄ちゃん。もう八時半なのに、僕を置いてこんな時間までどこで道草を食ってたの? いけないお人。僕、ボスステージまで行って、どうすればいいか分からず、困っていたっていうのに」

ぶりっ子口調で体をくねらす我が弟。

おまッ、友達がいる前でそのノリをかますか!
見ろよ、ヨウとシズが見事に固まっちまっているだろ! しょっちゅう泊まりに来る利二の前じゃ(もう慣れているから)やってもいいけど、ヨウとシズは初めて我が家に来たんだぞっ! お前も初対面だろ! 俺も帰って来たバッカなんだけど!

……ああくそっ、俺もやってやりゃいいんだろ! やってやらないとお前拗ねるもんな! だから、ンな期待した目で俺を見るな!

俺も頬に手を添えてぶりっ子口調をかます。

「あらやだぁ、それはごめんなさい。けれどね浩介ちゃん、兄ちゃん、お友達と大事なおデートに行っていたの。今日は兄ちゃんのお友達が泊まりに来ているから、これくらいで堪忍してくんなまし。母さんにご報告、宜しくできるかしら?」

「ご・褒・美は?」

「ボスステージの攻・略・よ」

途端に満面の笑顔を見せて浩介は元気よく踵返し、バタバタ足音を鳴らしながら居間へと向かう。


「お母さん、兄ちゃんが帰って来た! お友達連れて帰って来たー! おかーさーん!」 


嗚呼もう、ほんと浩介の奴。
帰って来て早々恥ずかしいことさせやがってもう。



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