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06-08



耳障りだとヨウは肩を竦めて俺に声を掛けてきた。


わざわざ荷物を持って来てくれたみたいだ。通学鞄を俺に差し出してくる。

「ありがと」

礼を言ってそれを受け取っていると、日賀野に笑いを含みながらこう言葉を掛けられた。

「まだそいつの舎弟でいるつもりか?」

ヨウは機嫌を最高に悪くした。

「まだンなこと狙ってたのか。テメェは」

「クズは黙っとけ」

「……おい、ケイ」

に、睨むなってヨウ! 俺はお前の舎弟やめるつもりないし(できたら白紙に戻したいんだけどさ)、向こうが勝手に舎弟がどうのこうのって言っているだけだぜ? 俺のせいじゃないぞ。これは。
それに答えは決まっている。

「俺はヨウの舎弟なんで。どう誘われようとお断りします」

しないと俺、確実に隣の方に殺されます。
目の前の不良に断るという行為もすんげぇ勇気がいるんだけどね! 断った瞬間殺されそう! だからか、俺、ちょっと逃げ腰。

「あーあーあ。勿体ねぇな、プレインボーイ。クズの舎弟なんざ。お前、オモシレェから舎弟にすりゃ退屈しねぇで済むのに」

あっれー、俺、確かヨウにも同じような理由で舎弟にされたような気がする。確か面白いから舎弟にしてやると言われたような気が。

実はさ。根っこが似てるんじゃね? ヨウと日賀野って。性格は対照的だけど絶対思考は似てる筈。

何度目なのか、日賀野が俺に舎弟になるよう誘ってくる。
曰く俺はわりと使える……らしい。ナニに使えるのかスッゲェ知りたいところなんですが。

しかも『わりと』ってところが気になるんですが。なんで俺に拘るよ。そんなに面白いか、俺。

それとも……一見すりゃ不良でも何でもない地味な外見だから、色々と使える。とか? だろうな。そっちの方がしっくりくる。

「どう誘われても俺は」

「プレインボーイ。返事次第じゃ、前に会ったダチ。見逃してやってもいいぜ」

心臓が凍った。
どういう意味だ。前に会ったダチって利二のことか。

まさか、また利二に何か手を下そうとしているんじゃ。あいつは関係ないじゃないか。不良でも舎弟でもないんだぞ。

俺の友達ってだけで不良達とは関係ッ……俺と関わってるからあいつにまで被害が。

激しく動揺していると、「そうやって姑息な手ぇ使ってくる」ヨウが話に割ってきた。


「本当は五木のこと、よく憶えてもねぇくせに。お前はいつもそうだ。自分の利害になる奴以外、顔なんざ一々覚える奴じゃねえ」

「どーだろうな。憶えているかもしんねぇぜ?」


「ッハ、ムカつくぐれぇ口だけは達者だな。どっちにしろ手ぇ出してみろ。舎兄の俺が黙っちゃねぇぞ。仲間にしてもそうだ。ケイにしてもハジメにしても、俺の仲間を甚振った礼はぜってぇしてやる。行くぞ、ケイ。こいつ等と話すだけ時間の無駄だ」


ヨウ、お前……。

ありがとう、ヨウ。
お前なりの気遣いは受け取らせてもらったよ。マジでありがとう。お前の言葉ですっげぇ安心する自分がいる。

でもお前、やっぱどっかで責任感じてんだな。俺を巻き込んだこと。ノリで俺を舎弟にしちまったこと。

今の台詞でそれが十二分に伝わってきたよ。ヨウ、何も気にしちゃないよ、俺は。

と言ったら嘘になるけど……俺はお前を咎めるつもりなんてねぇよ。

約束したもんな。俺達で、イケるところまでイくってさ。


軽く背中を叩いてくるヨウと一緒に、俺はシズと響子さんのいるもとへと歩き出した。
舌打ちをかますヨウは胸糞悪いと愚痴りながら、一段一段、踏み付けるように階段を上っている。

「ああ、忘れていた」

ヨウは途中で足を止めて、日賀野に向かってこう告げた。 

「お前等、特にお前。ぜってぇ潰してやっから。今日は潔く引いてやるけどな」

「ほぉー。そりゃまた物騒なこった。まあ、こっちはグループが分裂した“あの日”からそのつもりだったが」

薄ら笑いを浮かべる日賀野の眼は本気だった。

「だと思ったぜ」

ヨウは鼻を鳴らした。


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