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青春は清く過ごすものだよ俺経験ないよ悪いかよ



突然正面から嫌味が飛んできた。


ヤーな予感を抱きながら視線を上げれば、うわぁぁああ……泣きたい。不良がいるよ不良が。

どうして髪を若葉色に染めっちゃってんの! 目には優しいカラーだけれども日本人に若葉色は似合わないと思う。

眉にピアスをしているしさぁああ! 見ているだけで痛いよっ!

シズは眉間に縦皺を作り、相手にガンを飛ばしながら静かに舌打ちをかます。
基本的に温厚なシズがこんな態度を取るということは、だ。もしかしてもしかしてもしかすると。

若葉色の後ろからまた二人の不良が出現した。俺は大絶叫を上げたくなった。

二人のうち、ひとりは全然覚えも無い女不良。髪は控えめな焦げ茶色。

ひとりは俺のよーくよーく知っている相手。


「チッ、相牟田かよ。相変わらず眠気の誘うツラだな。おっ? プレインボーイもいるじゃねえか」


ぬぁあああああ! ついに出たよ出ちまったよ登場しちまったよ!

ヨウと肩を並べる黒髪に青メッシュの不良。俺のことを一々『プレインボーイ』だと呼ぶわ、舎弟になれと脅してはくるわ、利二に危害を加えるは。俺をフルボッコにするわ。出逢った不良の中でイッチバン性格の悪い奴。名前は日賀野大和、別名ジャイアン! 

面白い玩具を見つけたとばかりに、ニタと口角をつり上げてくる日賀野に俺はブルッと身震いをした。

体はまだフルボッコっていう痛い思い出を覚えているみたいだ。
だってボッコボコにされたんだぜ? 痣なんかも作っちゃったんだぜ? あいつのせいで利二と喧嘩なんかもしちゃったりしたんだぜ? 忘れろって方が無理! トラウマだぜもう!

たらたらたら、と冷汗が流れた。 

「よっ、噂の舎弟。さっきぶりじゃいな」

「え? お会いしましたっけ」

貴方様とお会いするの初めてなんですけど。

「さっき『そいじゃ、また後での』って言葉を掛けたこと、忘れたんけぇ?」

その言葉、確か駅に入る手前で言われた台詞だったような違ったような。あれは俺に向けられてた言葉だったのかよ! 分かるかい!

しかも俺、あんたなんて存じ上げませんわよ!

「しかしヤマト、なんじゃい……ヨウの舎弟ってのは」

「普通だろ」

「それじゃい」

普通ですみませんね! これでも今日を精一杯生きてる地味人間なんですよ。

「どんな奴かと思ったら……拍子抜けじゃ」

「拍子抜け? なんじゃいあんた、地味な俺に何を求めて」

「お?」

「るん……ですかー……あははは、なーんつって」

俺の馬鹿ぁあああ。なんで自分から喧嘩売りに行ってどうするんだよ。ウッカリ口を滑らせちゃった、にも程があるだろ。

どーんと落ち込む俺に対し、「地味って認めちょる」若葉色の不良はのんびりと笑声を上げていた。癪には障ってないようだ。
良かった、命拾いした。不良にツッコミ入れるってこんなに冷や冷やするもんなんだな。

手の甲で汗を拭っている俺に、日賀野がまたひとつニタリと笑ってきた。


「一ヶ月も顔を見なかったから寂しかったぜ。どうだ、考えは変わったか? それともまだあの単細胞の下で動くつもりか?」


それって舎弟の話のことか……?

ちょっ、まだ話続いてたのかよ。俺、断ったじゃんかよ。だからフルボッコにしてきたじゃんかよ。やだもうこの人、つくづく俺のトラウマだぁ。

だけど俺は思った以上に日賀野に対してテンパっていたみたいで「もう一ヶ月もお会いしてなかったんですね。月日とは早いものです!」ワケの分からない言葉を返していた。代わりにシズが口を開く。


「残念だったな。ケイはヨウの舎弟だ。それは変わらない。ケイ、行こう」


大パニックになっている俺に気付いてくれたのか、シズが軽く声を掛け背中を叩いてくれた。

早足で階段を上り始めるシズに置いて行かれないよう、俺もテンパりながら早足で歩いた。歩き方がおかしいような気もするけど、テンパってるからよく分からない。

なるべく視線を合わせないよう、目を逸らしながら日賀野達の脇を擦り抜ける。もう一段ある階段に足を掛けた次の瞬間、ブレザーの襟首を引っ掴まれて俺は後ろへと逆戻り。

「ケイ!」

シズが体ごと振り返ってきてくれるけど、

「話くらい良かろうもん」

若葉色の不良がシズに立ち塞がる。荒々しくシズは舌打ちをかましていた。


一方、俺はというと、めっちゃ情けないことに固まっていた。

弁解になるかもしれないけどさ、ヨウと肩を並べる最強最悪の不良が、俺のトラウマが、至近距離にいるんだぜ。

この状態は密接っていうの? とにかく俺と日賀野の距離が近い! 固まるほか、どうリアクションを取ればいいか分かんないっつーの。

「おいおい。ツレネェじゃねえか」

左肩に腕を置いてくる日賀野に、そこは勘弁してくれと泣きたくなった。そっちの肩は怪我してるんだよ。マジ、腕を置かれるだけでも痛ぇんだって! 頑張って顔には出さなかった。出せばいいように弄られるだろうから。

「シカトすんなって。お前と俺の仲だろ?」

「あはは……あの時はボコして下さりどーもです」

「まだボコしたこと根に持ってるのか? あれも一種のコミュニケーションだろ、なあ?」

嫌なコミュニケーション!
経験したコミュニケーションの中でイッチバン最悪だったぞ!

「それで? 舎弟の件、考えてくれたか」

「確かそれ。一ケ月程前にお断りした記憶がっ……」

「だから考える猶予をやっただろ。言った筈だぜ、今度は良い返事を期待してるって、な」

「イッ―――!」

「ケイ!」

シズの呼ぶ声が聞こえたけど、それに応える余裕はない。
だってこいつっ、重傷を負ってる左肩に全体重を掛けてきやがった。明らかに故意的。日賀野は俺の左肩の怪我を知っているみたいだ。

「肩に何かあるのか?」

白々しい台詞を吐いてはニヤついてくる日賀野を思いっ切り睨み付けてやりたいけど、容赦なく体重を掛けられる左肩が疼いて仕方がない。肩が燃えているみたいに痛い。

「いじめるのは良くない」

日賀野の行動を止めたのは意外にも奴の仲間不良のひとり。やんわりとした口調で制してくる女不良の言葉にも、「可愛がってるんだよ」日賀野は笑声を漏らした。

何が可愛がっている、だあ? コンチクショウ! 俺の反応を楽しんでいるだけだろ。

「ヤマト。そっちがその気なら……こちらも遠慮はしない。退け、アキラ」

シズは自分の前に立ち塞がる若葉色の不良を見据えていた。

アキラ、今、あの不良のこと、アキラっつったか? ということはあれが魚住昭。ワタルさんの親友だったっていう不良か。

「それは無理じゃけん。無理じゃんけん。なんつって」

「お前から片付けられたいか」

「のんのんノンセンキューじゃい」

べっと魚住はシズに向かって舌を出した。わぁーお、舌先にもピアスが。痛くないのかな、あれ。



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