06-05
結局、日賀野達の話も打ち切りになり、俺達は世間話に花を咲かせることにした。
息の詰まりそうな話よりも、他愛もない話をしていた方が俺的にはこっちの方が楽しかった。ヨウ達もそうみたいだ。
「あの時、先公に捕まってさ……」
なんて自分の失敗談を話しては笑声を漏らしている。俺も笑声を漏らした。やっぱこういう話は肩の力が抜けて良いよな。
途中トイレに行きたくなった俺は一旦席を外させてもらった。「自分も行く……」シズも腰を上げてくる。
ハンバーガー店は通路と合体しているから敷地が狭く、店内には手洗いがない。面倒だけど敷地の外に出なきゃいけないんだ。
俺とシズは全開されている扉から出ると階段を下りて、一階の手洗いに足を踏み入れた。
用を足した俺達は仲良く肩を並べて手を洗う。
「眠い……」
欠伸を噛み締めるシズに思わず笑っちまった。いつも眠そうだよな、シズって。
「シズって大食いなんだな。毎日あの量なのか?」
「ふぁ〜……毎日三食、丼でメシ食ってる。間食も欠かしたことがない」
間食は欠かす欠かさないのもんじゃないだろう。絶対。
キュッと蛇口を捻りながら、俺はシズの胃袋のでかさに感服した。
凄いよな、あんなに食べて太らないんだから。タオルハンカチで手を拭いていると、「そうだ」シズはまた一つ欠伸を噛み締めて俺を見てくる。
「ケイ……さっきハンバーガーと一緒にアップルパイを頼んでいたな。甘いものは好きか?」
「ンー、好きかって言われたら好きな類に入ると思うけど」
「丁度良かった……自分ン家の近所にケーキバイキングをしている店があるんだが」
嫌な予感がするぞ。しちまうぞ。俺の気のせいであってくれ! 一緒にケーキバイキングへ行こうなんてお誘い、俺の予想外れであってくれ。
「一度行ってみたいと思うんだが……ひとりはちょっと恥ずかしい。ケイが一緒に行けるメンバーで……良かった」
おぉおおおお俺はもう“行くメンバー”に入っちゃっているんですか!
お誘いすっ飛ばしてメンバーに入れるなんて、そんな予想、誰がしたよ。
そんなに目を輝かせないでくれ。シズ。俺、断れないじゃないか。
その前にアンタも不良だもんな、髪が水色だもんな。断る勇気なんて俺にはないよ。全然ないよ。
俺は空気が読める子だからな、シズに言うんだ。
「シズや俺のほかにメンバーはいないのか?」
俺って偉いな、嫌な素振りひとつも見せないんだからさ!
するとシズは洗面台に水気を飛ばしながら、ぶっすーと拗ねた顔を作った。珍しいな。いつも妖精さんと戯れているような顔をするのに。
「女子は誘えば……快く一緒に来てくれる。男はつれない奴ばっかりだ。取り敢えず……この前、デザートバイキングに行った時はモトを引き摺っていった」
前にも行ったんかい!
しかもモトを引き摺ってって(かなり嫌がったんだろうな。モト)、うわぁ、同情はするよ。モト。俺も近々同じ運命を辿りそうだけどな。
フッ、しかもシズの中で勝手に『こいつなら一緒にデザートバイキングに来てくれるだろうメンバー』に登録されちまった。
ある意味、モト以上に可哀想だ……俺。恥ずかしいんだろうな、デザートバイキングって女性のイメージがあるから。まだ焼肉とかだったらなぁー。
ええい、くっそう! もうどうにでもなれ! 腹括ってシズと行ってやらぁ!
「楽しみだなー」
ヤケクソに笑いながら、シズと一緒にトイレから出る。
階段を上りながらシズは、頼みもしていないのにモトと行った時のデザートバイキングについて語り始めた。食べ物の話になると饒舌になるんだな、シズって。
「ワッフルが……まず最高だった。次にチョコレートスフレが格別に美味かった。季節限定のアイスが感動的美味。タルト……絶妙極まりない」
デザートの感想を教えてくれるんだけど、何がどう美味しかったのかが俺にはイマイチ伝わってこない。伝わってくるのは食べたデザートは全部美味しかったってことだ。
へえ、とか。それ食ってみたい、とか。シズの話に一つひとつ相槌を打ちながら話を聞いていると、
「シズ、相変わらず食い意地が張ってんのう」
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