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05-34



「とある先輩不良たちのせいで、友達との仲が危機になった。カッチーンきた俺は弱いくせに喧嘩を売りに出かけた。偶然俺達のやり取り現場を目撃したワタルさんは面白半分に喧嘩に参戦。そんなとこデス、兄貴」



嘘は言っていない、全部ほんとうのことだ。すべてのことを話してないだけで。

「さっき美術室に寄っただろ? あいつと不仲になりそうになった」

ヨウに視線をやれば、淡々とした説明にまったく納得していないヨウがそこにはいた。

立てた膝に肘ついてヨウは軽く溜息。

「そんだけじゃねえクセに」

図星を突いてきた。
なんで鋭いんだよ、いつもは俺の心情を全然察してくれない疎い奴なのに!

そんなに鋭かったら俺が舎弟になりたくないって気持ち、察してくれてたんじゃねえの?!

けどヨウは諦めたのか、俺にこう問い掛けてきた。

「どーせ収穫の無い喧嘩だったんだろ?」

「ん、収穫の無い喧嘩だっ……へ?」

「やっぱテメェ等、ヤマト達に関係する喧嘩してきやがったな。収穫の無い喧嘩は報告しねぇ、ワタルの考えそうなことだしな」

「え?」


「あー、何となく今回の経緯が見えてきた気がするぜ。そういうことか」


や っ ち ま っ た !


まさかあのヨウに、こんな頭脳プレイ(?)で白状させられるとは。

田山圭太、油断していたぜ! ……じゃなくて、やっちまったよ。俺のお馬鹿。今さら誤魔化したって後の祭りだろ、これ。

額に手を当てる俺に、してやったりとばかりにヨウが口角をつり上げてきた。

「残念だったなケイ。俺の勝ちだ。全部白状しちまえ」

「説明も何も、さっきの説明とお前の言葉ですべて白状したつもりなんだけど」

「だったらあの生徒会長との意味ありげな会話は何だ?」

「あれはー……」


『“おサボリ”お疲れさま。怪我の治療は早めに。特に田山くん、左肩、お大事に。今日中に病院に診せた方が君のためだ』


会長の言葉が脳裏に過ぎる。

俺は身震いをした。
忘れていた悪寒が今になって戻ってくる。

なんでアノ人は俺が怪我したと知っているんだ。俺達の喧嘩を一部始終見ていたわけじゃあるまいし。

自然と左肩に手が伸びた。
ゆっくり怪我した箇所を擦りながら思案に耽る。アノ人は何者なんだろう。味方じゃないのは確かなんだけどな。

「あいつ、疑いがありそうか?」

口を閉ざした俺に対して、ヨウは物静かに質問をぶつけてきた。
ヨウも疑っているんだろうな。須垣先輩が日賀野達と何か関係しているんじゃないかって。

俺は首を左右に振った。「俺もよく分かんね」


「ただ……会長は俺が怪我負ったことを知っていた。この怪我はワタルさんと、喧嘩した不良先輩しか知らないのに」

「見ていた、わけ、ねぇな。誰かに監視させてたか、それとも情報を伝達してもらったか。なんにせよ、あいつは危険視しとかなきゃイケねぇってことか」


ヨウは立ち上がってアスレチック遊具の低めの柵に腰掛けた。ポケットに手を突っ込んで思案するヨウの顔は険しい。

ふわっと吹く風にメッシュの入った髪を靡かせて、

「こっちも仕掛けてみっか」

不意に物騒なことを口にしてきた。
突然の言葉に俺は目を瞠る。ここでまさか、そんな言葉が出るなんて思わないじゃないか。

「仕掛けるって日賀野達に、喧嘩を?」

「喧嘩っつーよりも宣戦布告。あいつ等の“ちょっかい”にヤラれっぱなしなんざ、俺の気が済まねぇ。向こうがナニ企んでるか知らねぇが、このまま“ちょっかい”出されっぱなしなんざ真っ平ごめんだ」

惨めに敗北を味わうくらいなら、こっちから仕掛ける。

あいつ等にヤラれっぱなしなんて我慢なら無い。ヨウの言葉は決意の塊だった。

これはやる気だな。
ヨウ、日賀野達に喧嘩売っちまうな。ってことは、俺はまた日賀野に会うかもしれないわけで。下手すりゃ一戦、いやそれ以上、日賀野やその仲間達とぶつかるわけで。恐い思い……するわけで。

だけど俺がどうこう言ってもヨウはやる気満々、止めたって無駄だと思う。付き合いの短い俺が止めても、付き合いの長いワタルさん達が止めても、無駄だと思う。

付き合い短い方だけど、お前がそういう奴だってこと、俺、知っている。

だから俺は苦労するんだよな。荒川庸一の舎弟ってのも楽じゃない。


「まずは相手を探るのも手じゃないか」


苦笑いを浮かべながら、俺はヨウに助言した。 


「なーんも知らないまま、真っ向から突っ込んでもダメだって俺は思うんだ。痛い目見るかもしれないし、勝ったとしてもこっちも痛手を負うかもしれない。だったら、向こうの様子を探ってみるってのも手だって思う。相手を知って、真っ向から突っ込む・突っ込まないじゃ大違いだと思わないか?」


「ケイ……まさかテメェがそんなこと言うなんて。てっきり止めてくると思ったけどな」


俺がヨウの性格を知り始めたように、ヨウも俺の性格を知り始めている。

まったくもってそのとおりだよ。本当は止めたい。やりたくもない。喧嘩なんて。

しかも相手は、俺をフルボッコにした日賀野大和含む不良グループ。

喧嘩なんて、絶対したくないさ! 舎弟だって、いまだに白紙にしたいと思っているさ! 平凡な生活が戻って来て欲しいって片隅で願っているさ!

でも約束しちまっただろ。二人でイケるところまでイくって。

ヨウは俺にそう誘って、俺は誘いに乗った。


だったら付き合わなきゃイケないだろ。

俺はどう嘆いてもお前の舎弟なんだから。 



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