タイマンなんて今の時代にありますか奥さん
◇
「――ワタルの野郎と勝手な行動しやがった上に、チャリ漕げねぇから俺に運転させた挙句、全治二、三週間の怪我。しかもテメェ、どういう了見だッ。財布に千円ちょいしかねぇって! ケイ、テメェは俺とタイマン張りてぇか!」
整形外科の近くにある、子供ひとっこひとりいない寂れた公園。
俺はアスレチック遊具(揺れる橋とか滑り台とか一緒になってるヤツな!)の上で、ヨウに怒鳴られていた。
胸倉を掴んできそうな手を避けながら、俺は必死こいてヨウに頭を下げる。
「ご、ご、ごめんって! 普段から金、千円しか入れてないことスッカリ忘れててさ。いやぁ、助かった。悪いヨウ。ちゃんと返すから」
「ッたりめぇだ! 返さなかったらぶッコロスぞ!」
「ギャアアア! 返すッ、返します! ほんと助かりました兄貴!」
怒鳴り散らすヨウに何度もなんども頭を下げる。
生きてきた人生の中で1番頭を下げたんじゃないかってほど頭を下げた。
俺、田山圭太は今日ほど舎兄の怒りを買ったことはありません。
何故ならば、怒らせた理由、
その1:俺とワタルさんの独断で勝手な喧嘩に出た(非常に申し訳ないことをしたと思うけど、でも後悔はしていません! ……うそ! 今になって薄っすら後悔!)。
その2:生徒会から呼び出しを喰らい散々生徒会長に嫌味を垂れられた(だけど、約束を守ったにしろ嫌味は言われたと思うんだ!)。
その3:左肩を負傷したせいでチャリが漕げず、舎兄にチャリを運転してもらった(俺、ちゃんと『チャリ押して歩くから大丈夫』と遠慮したんだぜ! だけどヨウが『病院閉まるだろうが』とか文句を言ったから仕方がなく……これって怒られ損じゃね?)。
その4:左肩の怪我が全治二〜三週間、下手すりゃ1ヵ月掛かるかもしれないと医者に言われた(これは心配してくれている故に怒ってくれてるんだと思う。たぶん)。
ファイナル:財布に千円ちょっとしかなく、舎兄に出してもらった。(ちーん)
以上、5つの理由を持ちまして俺、田山圭太は舎兄を盛大に怒らせました。やっちまな、圭太! お前ならいつかやっちまうと思っていた!
とか思っている場合じゃなく、なんでこう……怒らせちまうんだよ。地元で名を上げております、かの有名な恐ろしい不良さまを。
俺、こいつの舎弟じゃなかったらヨウにフルボッコされていたような気がする。そんな気がする。
身震いしながら、俺はこれでもかってくらいヨウに謝った。
だけど不機嫌そうに鼻を鳴らして、「聞き飽きた」詫びを突っ返される。
こりゃ相当、ヨウのご機嫌取りしないと俺の命が危ういぞ。
俺は右手を出して(左は上がらないんだ)、謝る代わりにお詫びとして俺のできることを提案する。
「今度、ヨウの好きなモノ奢るから。一日、お前の好きなことに付き合ったりもするから。機嫌直してくれって。あ、そうだ。俺、今からコーラでも買って来てやるよ! そんくらいなら奢れるぜ! んじゃ、いってきまッ、イテテテテ!」
「なーに逃げようとしてんだ、ケイ? 舎弟テメェは舎兄の俺に、まず、何をしねぇとイケねぇんだあーん?」
何をしないとイケない、そのナニは分かっています! 分かっていますけど、まず耳っ! 耳が千切れますっ、千切れちゃいますからヨウさん! 手を放してくれ!
ギリギリ右耳を抓まんで引っ張ってくるヨウの手の強さに喚いて、放してくれるよう何度も頼み込む。
やっと解放してくれた時には耳がヒリヒリ痛んでいた。
このヒリヒリ感が地味に痛い。地味な俺が言うのもなんだけど地味に痛い。
右耳を擦りながら俺は刺す視線に耐えていた。ヨウの目が訴えている。早く説明をしろ、と。
説明も何も、あれだもんな。
無意味な喧嘩をしてきたんだもんな、俺。
本当のことを最初っから最後まで報告しても、今さらだよな。
だから簡単に説明することにした。
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