05-31
諦めに近い気持ちを抱きながら、シャツのボタンを留める。無事に帰れるかなぁ。
溜息をついてワタルさんに視線を送る。
気付いたワタルさんは俺にウィンクしてきた。追い詰められいるワリには余裕の表情。
もしかしてこの状況、楽しんでるんじゃないか?
微苦笑を零して、俺はワタルさんに歩み寄ってこっそり耳打ち。
「喧嘩。連れてってくれてありがとうございました」
するとワタルさんが大笑い。
ヨウ達が怪訝な顔を作るくらい、大笑いして俺にこう言ってくる。
「ケイちゃーんって変な子だねぇ。あー可笑しいおかしい。ケイちゃーん変な子、変子、へんっこ〜、じみっこ〜」
いつものウザ口調で俺をからかうワタルさんは、「変っ子地味っ子」口ずさみながら軽く駆け出した。オレンジ色の長髪が走る風に靡いている。
それが妙に印象的だった。
目立つ色のせい、それも勿論あるんだろうけど、訳もなく目に焼き付いちまった。
「ちょっとー!」
弥生は走り出したワタルを追い駆け始めた。
途中で捕まったワタルさんは「逃げたんじゃないってぇー」と言い訳していたけど、弥生に何度も容赦なく叩かれている。
呆れ笑いながらハジメが二人の背を追った。
「逃がさないって」
ワタルさんの背中を叩いているハジメの言葉に、ワタルさんはニヤニヤ笑うだけ。楽しんでいるな、あの人。
でも今のはワタルさんなりに、俺のお礼を受け止めてくれたと思っていいよな。
「んじゃ、俺等も行くか。ケイ。たっぷり話、聞かせてもらうぞ」
そうでした。
俺も、追い詰められている立場でした。
「ごめん!」
俺はヨウに向かって謝った。
これは勝手な行動をした詫びじゃなくて、これからすることに対しての詫び。
「あのさ、ちょっと寄って行きたいところがあるんだ。先に行っててもらえないか?」
「先に、だと?」
関節を鳴らして拳を作るヨウ。殺気を感じるのは俺の気のせいじゃない!
「……に、に、逃げない逃げない逃げねぇーから! ほんとほんとほんとに! あああっ、んじゃあついて来て下さい! 寄るところがあるんです! お願いします! お願い致します! ついて来て下さい!」
俺の情けない声が廊下中に響き渡った。
カッコ悪い……そう思っても舎兄の怒りを買うよりかはマシだ! 俺は全身全霊を尽くして舎兄にお願いし倒した。
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