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05-29


ワタルさんの発言に須垣先輩は呆れたような顔を作ってきた。

調子が狂う、顔にそう書いてある。

須垣先輩自身、もっと青い顔をして欲しかったのかもしれないな。
焦って焦って許し乞いをしてもらいたかったのかも。頭部を軽く掻いて今度は溜息。

「君達の疑いは晴れたよ」

残念そう言ってきたのは溜息をついた後のこと。


「ある生徒からの情報で、二年の生徒が生徒会の窓にヒビを入れたって通報があった。真実を確かめにいったら、犯人のひとりが認めたよ。オメデトウ、君達は一応身の潔白が証明されたんだ」


ある生徒、それって透のことじゃ。
そうだ。きっと透だ。透が生徒会に報告してくれたんだ。

自分の身が危なくなるかもしれないのに、奪われたスケッチブック捨てられるかもしれないのに、アイツは俺達のために。

犯人のひとりが認めたというのはワタルさんが美術準備室でシメた先輩不良だろうな。うん。シメ方がシメ方だったもんな。


「犯人が捕まった、だぁ? 詫びやがれ! 散々人を犯人扱いしやがって! しかも休み時間まで俺達を見張ってやがっただろうが! 監獄にでもいる気分だったぜッ。犯人扱いしやがったことに対しての詫びを、此処で、詫びやがれ!」 


噛み付くようにヨウが怒声を張ったけど、須垣先輩はニッコリ。

「謝らないよ」

カッチーンときたのかヨウは軽く腰を浮かせる。

だけど先輩は表情を崩さない。
肩を竦めて、キラースマイルを俺達に向ける。

「君達はこちらの約束を破った。それは変わらないし、君達が疑われたのは日頃の行いが悪いせいだ。寧ろ、約束を破ったことを謝って欲しいくらいだよ」

「ンだと……さっきから聞いてりゃ……」

「吠えるな、負け犬」

二人の間に火花が散る。根本的に根っこが合わないんだろうな、二人って。

そういえばヨウ、言ってたな。
やり口は日賀野に似ているって。きっと似ているが故に拒絶反応を起こしてるんだ。日賀野のこともスッゲェ嫌っているしな。

話は終わりだとばかりに須垣先輩が手を叩いた。仕事の邪魔になるからさっさと出て行けと態度にデカデカ出ている。

自分から呼び出しておいて酷い扱いだよな。

荷物を持って腰を上げると、「次は容赦しない」須垣先輩は真顔で俺達に言い放った。

「何か事が起こったら、真っ先に君達を疑わせてもらう。特にそっちの二人は“おサボリ”を優先した。何かあったらその時は」

「だってぇ、ケイちゃーん。肝に銘じとかなきゃいけないねぇ」

「あははっ……そうですね」

生徒会から完全に信用を失くした。

でもそれは、べつに痛くも痒くも無いことだと思う。

俺達にとって、俺にとって“おさぼり”の方が大切だったしさ。

まあ、生徒会長に弁解してもそれはただの吠えにしか思えないだろう。先輩にとって俺達は約束を破った“負け犬”なんだしさ。

いいよ、負け犬でも。ヨウの誘いを断れず泣く泣く舎弟になっちまった時点で俺は負け犬だ。

だったら負け犬は負け犬なりに頑張らせて頂きます。

「ああ、そうだ」

須垣先輩は俺とワタルさんを呼び止めた。俺達は勿論、自然と他のみんなの足も止まる。

振り返れば、気味が悪いほど笑顔を見せている生徒会長がそこにはいた。


「“おサボリ”お疲れさま。怪我の治療は早めに。特に田山くん左肩はお大事に。今日中に病院に診せた方が君のためだ」 


な ん で ?

俺は左肩に手を伸ばしながら、目を見開いた。

なんで先輩が左肩の怪我を知っているんだ。この怪我を知っているのはワタルさんと、怪我を負わせた先輩不良だけだぞ。

なんで先輩が知ってるんだよ。その場にいたわけじゃあるまいし。


しかも“おサボリ”お疲れ様ってどういうことだ。先輩、俺達が何をしていたのか知ってるのか?

突然の言葉に動揺しまくっている俺の背中を叩いて、ワタルさんは不愉快そうに笑いながら鼻を鳴らした。

「やっぱテメェ、信用ならねぇーよ」

「光栄だね」 

ニッコリ。
須垣先輩はしてやったりとばかりに笑顔を見せてきた。

その笑顔は、どことなく毒を含んだ、寒気のする嫌な笑みだった。







「荒川のいる不良グループ。日賀野がいる不良グループ。ま、どっちが潰れても、僕としてはいいんだけどね」

生徒会室から出て行くヨウ達の背を見送った須垣は小さく笑みを浮かべた。

「潰し合ってくれれば、万々歳さ。不良ほど醜い存在は無いからね。ああヤダヤダ、不良なんて大嫌いだ」




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