05-26
「負けるのは楽しくないもんねぇ。僕ちゃーんも久しぶりにサボれたし、喧嘩もできたし、ストレス発散ってカンジかなぁ。でもアキラのことは、イイ収穫得られなかったなぁ」
「魚住、でしたっけ? 先輩たちに“荒川達の名前を汚せたら三千円あげます”と言っただけですもんね。どうやって知り合ったかは分かりませんけど」
結局、何一つ有力な情報は得られなかった。
少しでも情報が得られれば、日賀野達の目的が見えたかもしれないのに。
多分、ヨウ達を潰したいことには違いないけど……よく分かんねぇや。向こうの目論見。
「ヨウちゃん達に報告するまでもないねぇ」
ワタルさんは紫煙を吐きながら俺に言った。
「収穫の無い喧嘩を報告しても楽しくないしねぇ。ヤマトちゃん達が直接関わっているわけでもないし」
「先輩達のこと、言わなくていいんですか?」
「だってぇ、二人でシメちゃったでしょー? これはもう解決だってぇーん」
収穫の無い余計な情報は報告しない、それはワタルさんなりのヨウ達に対する気遣いなんだろうか?
……きっと気遣いなんだと思う。終わったことをウダウダ言われても困るから。
おちゃらけているワリに人のことをちゃんと考えているんだ。ワタルさんって。
煙草を吸い終わったワタルさんは、地面に吸殻を落として足で揉み消すと俺に声を掛けた。俺はワタルさんの隣に並んだ。二人で来た道を辿って行く。
取り返したスケッチブックに目を落としていたら、ワタルさんが不意にこんなことを言ってきた。
「カミングアウトするとさぁ、最初はケイちゃーんもヤマトちゃーん達の回し者だって思っていたんだよねぇ」
スケッチブックを落としそうになった。今、ワタルさん、何て言った? 思わずワタルさんを凝視。
「だってぇ、種類違うじゃナーイ?」
ワタルさんは話を続ける。
「ヨウちゃーんが気に入って舎弟にしたって分かってたんだけどねぇ、どっかで疑っていた。こーんな地味ちゃんでも、何か裏があるんじゃないかって。不良と、そう好んで親しくする地味ちゃんっていないし。地味ちゃんだからこそ、裏がある。だからヤマトちゃーん達の回し者だと思っていた。もしそうだとしたら、」
フルボッコにするつもりだったんだよねぇ。
ニッタァニタァ笑うワタルさんだけど、絶対にマジだ。
俺、日々ワタルさんにフルボッコされそうになっていたんだ。
今まで無事だった俺になんか泣けてきたよ。何も知らない方がシアワセってこともあるんだなぁ。
身震いをしていたら、ワタルさんが肩に腕を置いてきた。勿論、右肩に。左肩に腕を置かれたら、俺は甲高い絶叫を上げている。
「でもま、ザーンネンなことにケイちゃーんは白だった。フルボッコしそこねちゃった」
白だった。つまり俺、疑いが晴れたのか。
そうだよな。俺、日賀野にフルボッコされたし、舎弟に誘われたし、負けちゃったもんな。あんなことがあれば誰だって白だって分かるよな。
グールグルと考えてたら、ワタルさんに耳引っ張られた。い、痛い!
「また一緒に喧嘩を売りに行こうねぇ」
たったそれだけの言葉だけど、なんでか俺にはすっごく嬉しかった。認められたというカンジがしたから。
「はい」
俺は綻んでしまう。
こうやって人に認められると良いよな。これからも頑張っていこう。これからどんどん頑張って好(よ)き舎弟になって喧嘩にもバンバンー……待て待てまて!
俺、どんどん不良の波に呑まれていっているぞ! このままじゃキンパまっしぐらだっ! イェーイ、キンパ田山、絶対似合わねぇ。
けど俺、現に喧嘩に参戦しちまったし。
すっぱり諦めるか、舎弟白紙……いや、それは捨て難い。捨てがたいぞ。それに今回は喧嘩参戦したけど、次回しろって言われたら躊躇うぞ。うん。
「さてと。ケイちゃーん。あのさ、ひとつ相談があるんだけどぉ」
悶絶している俺に、自分の携帯画面を見せてくるワタルさん。画面には多数の新着メールと着信。
きっと俺の携帯も同じような状態になってるんだろうなぁ。俺とワタルさんは歩みを止めた。
困ったように笑うワタルさんに対し、俺は引き攣り笑い。
そうだった。
この後に待ち構えている恐怖をすっかり忘れていた。
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