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05-25







「――なあ、透。なんでスケッチブックが三冊もあるんだよ」


授業合間の十分休み、一心不乱に絵を描いている透に声を掛けた。

よっぽど集中していたのか、一回目の呼び掛けじゃ反応すらしてもらえなかった。二回目、三回目、四回目で透はやっと反応を返してくれた。

「ごめんごめん」

気付かなかったことを詫びて、透は俺の疑問に答えてくれた。

「一冊は部活用で、一冊はコンテスト用で、一冊は自分用なんだ」

「自分用?」

「自分の気に入ったものを描こうと思ってさ。最初は一冊に纏めてたんだけど、ごちゃごちゃし始めて。こうやって三冊に分けてるんだ」

「ふーん。ほんと絵、好きなんだな」

「今度、圭太くん描いてあげようか? フッツーな絵になりそうだけど」

「わぁーるかったな。俺の顔はどーせフッツーだよ。お前と一緒でフッツーさ」

顔を顰める俺に、透は可笑しそうに笑声を上げた。



透のスケッチブックは全部で三冊ある――。 

まだ出会って間もない頃。

透がスケッチブックを見せながら、大事そうに、誇らしそうに、俺に説明してくれたからよく憶えているんだ。

一冊に纏めて描いてたんだけど、コンテスト用とか部活用とか絵がごちゃごちゃし始めたから三冊に分けたんだって。

美術室で奪い返したスケッチブックの冊数に疑問を抱いて、不良に事情を聴いたら残りは仲間が持っていると言うんだもんな。それ聞いた瞬間、絶対あいつ等ぶっ飛ばす! と思ったんだ。


だってさぁ、そいつ等のせいで生徒会や透に疑われちゃったりしたんだぜ? 生徒会だけならまだしも、地味友にまで。スッゲェ腹立ったよ。

不良たちのよれた通学鞄に入っていた二冊のスケッチブックを取り出して、俺は上がらない左肩を気遣いながら中身をパラパラ捲って無事かどうか確かめる。

汚された形跡は無いな。踏まれた形跡も無い。煙草の火の痕もないし、良かった、無事だ。

深く息を吐いて俺は重い腰を上げた。そのまま煙草を吸っているワタルさんに歩み寄った。

彼も多少負傷はしているようだけど、俺ほどじゃないようだ。

頬に掠り傷ができた程度みたいだし。対して俺は左肩が重症。軽く顔にも擦り傷できちまったし。ワタルさんに軽く肩を見てもらったけど、色が紫っつーか黒っぽくなってた。皮膚がヒリヒリするし、ジクジク痛む。

「骨折はないと思うけど、病院には行った方がいいかもねぇ」

ワタルさんは後で病院に行こうと言ってくれた。ついて来てくれるんだって。

酷くなったら困るし、母さんとかに連れてってもらったら何かと煩そうだし、お言葉に甘えることにした。ワタルさん、意外と優しいんだ。意外と。

「お目当てのあった? てか、肩、今から行ってもいいよ〜ん?」

「大丈夫です。我慢できない痛みじゃないですし。お目当ての物はちゃんとありました」 

スケッチブックを見せて、俺はワタルさんの隣に並ぶ。煙草独特の苦々しい香りが鼻腔を擽ってきた。

倉庫裏の隅っこには不良たちの伸びている姿がある。不良の一人に勝ったんだ。

夢見たいだ。
この俺が不良に勝てた。嬉しいっつーか、やってやったぜ! という爽快感が胸を占める。自然と笑いが零れた。

「楽しそうだねぇ」

「勝てたんで!」

ワタルさんの問い掛けに、俺は即答。ワタルさんは笑声を上げた。



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あきゅろす。
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