05-23
「魚住が約束を守るかどうか、それは置いておいても、あの連中が疑われたことは好都合。まあ、連中同士が潰し合いしてくれりゃ一番いいんだけどな」
「同感。日賀野達が潰れても、荒川達が潰れても、俺達には好都合だしな」
「あいつ等のせいで、こっちは肩身狭いもんな」
わぁーお、なんか分かんねぇけど恨まれているなぁ。
不良たちの会話を聞いていた俺とワタルさんはアイコンタクトを取った。
こりゃもう、話に聞き耳を立てる立てないの問題じゃない。突撃あるのみだ。
勢いよく窓を開けると、ワタルさんが先に外へ飛び出した。綺麗に着地するワタルさん、かっけぇ!
あ、ちなみに俺、ゆっくり窓から外に出たよ。
ホラ、ドジ踏んでコケたら洒落になんないから。ダサくても安全思考第一だ! どーせ不良の中では外見、ダサい分類に入ってると思うし! 言ってて悲しいし!
俺達の出現に不良たちは度肝抜かれた顔を作ってたけど、ワタルさんの顔を見て表情が一変。俺達が何で此処にいるのか、すぐに分かったんだろうな。吸っていた煙草を地面に落として俺達を睨んできた。
「荒川のところ……お前は貫名に、そっちは噂の舎弟か」
「そう。こいつは俺サマの舎弟だ」
「いつ俺、ワタルさんの舎弟になりましたっけ?」
「細かいことは気にしないの〜ん。んじゃ、ひとりはよろぴく」
いつものウザ口調でそう言うや否や、ワタルさんは地面を蹴った。
二人も相手させて申し訳ないけど、実際、俺、ひとりで手一杯だしな。お言葉に甘えよう。俺も地面を蹴って駆け出した。バカみたいに鼓動が高鳴ってる。緊張しまくってる証拠だ。
俺がターゲットにした赤茶髪の不良は、倉庫裏に置いてあった手頃なプラスチックパイプを手にしていた。
ちょっ、いきなり道具使うの反則じゃね? まずは素手だろ素手!
野球バットを振り回すように、赤茶不良は俺に向かってプラスチックパイプを振り下ろしてくる。
紙一重で避けたけど、今度は振り上げてくる。避けたら横腹に蹴りかましてきやがった。
呼吸が詰まりそうだ。
動きが止まったところで、赤茶不良は俺の足元を崩してくる。
俺は無様にも尻餅をついてしまった。横腹や尻の痛さに呻いてたら、赤茶不良は俺の腹を思い切り踏んできやがった! おまっ、シャツ汚したら母さんが煩いんだぜ!
しかもいてぇ、おもてぇ、道具使うの卑怯だろっ!
顔を上げれば、愉快に笑う先輩のお姿。
グリグリ足の裏で腹を踏みながら、俺を見下している。
「荒川の舎弟のくせに弱ぇな」
あ、今、カッチーンってきたよ。いっちばん言われたくない言葉を言われたよ。
分かってんだよ、俺が弱いことくらい。
喧嘩慣れしてねぇんだし、望んで舎弟になったわけじゃないんだ。喧嘩の強弱でヨウが舎弟を決めたとしたら、そりゃヨウの舎弟を選ぶセンスが悪いと思うぜ。
けどさ、あいつ、喧嘩の強弱じゃなくて“俺”を選んだんだよ。
田山圭太っつー日陰男を舎弟にするって決めちまいやがったんだよ。
俺が面白いのどうのこうのって訳分からない理由で舎弟を勝手に決めちまいやがったんだ。
日賀野の一件も、あれだけ俺が足手まといだって分かったのにも関わらず、俺に改めて舎弟になれって誘ったんだ。俺はそれに成り行きでも乗っちまったんだ。
だから弱くたって精一杯、俺のできる範囲で舎弟やるっきゃねぇんだって。
しかも今回、俺が初めて望んで喧嘩に参戦したんだ。
負けたら、流れ的にヨウの顔に泥塗っちまう上に、ワタルさんに後でなんて言われるか。何されるか。
それに、格好付けてここまで来たんだ。
ヤラれっぱなしはダッセェんだって、なあ、そうだろ?
俺は胸ポケットに手を伸ばした。見下す不良に含み笑い。
「弱くてわるぅございましたね。俺、地味っ子ちゃんですから? 喧嘩慣れてないんですっ、よ!」
「テッ……!」
ポケットから生徒手帳を取り出した俺は、力任せに赤茶不良の顔面に投げつけた。
力の抜ける足を掴んで持ち上げると、そのまま足払い。
相手が尻餅ついた隙に、持っていたプラスチックパイプを奪い取って右横腹を蹴りたくってやった! お返しだチクショウ!
プラスチックパイプを持ったまま立ち上がると、相手も態勢を立て直した。盛大な舌打ちをして素早く、壁に立て掛けてある鉄パイプを手に取った。
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