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05-22


携帯を仕舞ってワタルさんのもとに駆け寄る。いつもニヤつている筈のワタルさんの顔は険しかった。


「ケイ、行くぜ。静かにしとけよ」

「……は、はい」

 
口調が変わってるよワタルサン。

恐いよ。
目つきも厳しいよ。下手こけないよっ! こいたら俺の命が危うい!

必死に何度も頷いて、ワタルさんの後にピッタリついて行く。

スーパー近くの倉庫裏まで徒歩一分ってところだった。
人の気配が無い倉庫の裏側をちょっと覗いてみたら、あの先輩不良が言っていたように、仲間らしき人達がたむろっていた。

不良たちは倉庫裏に置いてあるダンボールやプラスチックの箱の上に座って駄弁っている。

目をちょっと逸らせば、軽そうなプラスチックパイプや重量のある鉄パイプ、錆びれた棒鉄なんかが壁に立て掛けられている。
倉庫に入れて置かなくてもいいって判断した物を外に出しているんだな。

俺達は倉庫の中に忍び込んで(無用心だよな。鍵が掛かってなかったんだぜ?)、窓から改めて不良たちを観察。
全部で3人、多くは無い。こっちは2人だし。ひとり余るくらいで思ったほど人数はいない。

だけど問題は、俺がワタルさんの足手まといにならないかどうかってところだよな。

ヨウの舎弟になってから不良に何度か喧嘩売られたことあるけど、こうやって喧嘩を売りに来たことは無いんだよな。

喧嘩なんて真っ平ごめんだって思ってたんだ。
日賀野にフルボッコされた一件から、その思いの丈は強かった。

昨日までの俺だったら“喧嘩は極力避ける”。そんな選択肢を取っていた。取っていたよ。

じっくり不良を観察してみる。

あ、三人のうち、ひとりは勝てそうな不良がいる! 見るからに外見だけ、見た目だけ飾っちゃってますって感じのする不良がいる。アイツなら多分勝てそう。

あの赤茶の不良、俺と同じくらいの背丈だし(もしかしたら俺より低いかも) 。
俺と同じようなガタイだし(つまりひょろいガタイ。言ってて虚しくなったけど)。

アイツなら一個年上っぽいけど勝てそう、な、気がする。チャリないとマジで凡人日陰男子だからなぁ。 


「負けたら、全裸に剥いて放置プレイすっからな。俺サマがイイって言うまで全裸でいろよ」

「了解です。わかり……たくありませんっ! ワタルさんっ。お、脅さないで下さいよ!」


脅してくるワタルさんは「マジだってマジ」と軽く笑ってきた。

俺はちっとも笑えねぇよ! 本当にこの人ならしそうだもん!

「ヤる前から負けツラしているテメェが悪い。見てて一発かましたくなる。勝つ気でいろよ、勝つ気で」

冗談めかしに笑うワタルさんの言葉に一気に目が覚めた。

そうだ、負けに来たんじゃねぇもんな。
勝つ気で来たんだ。だーれが好き好んでフルボッコされに来た。勝たなきゃ意味ねぇし。

でも緊張もするんだって。
初めて喧嘩売りに来たんだから。ワタルさんに吐露すれば、可笑しそうに肩を竦めた。

「あンなぁ、不良がみーんな喧嘩強いって思ってんの?」

「だってドラマや映画じゃ不良、みーんな強いじゃないですか。現にヨウやワタルさんは喧嘩強いですし」

「ンなのほーんの一部。不良が強ぇ思われるのは群で攻撃すっからだ。個人になると気が強いだけで大したことねぇって。ま、俺サマが強いのは確かだけどな」

あははは。ワタルさん。
『俺サマ』口調の時は性格も俺サマっぽい気がするんですけど、何故でしょうか。

ワタルさんは俺の肩に腕を置いて、不良たちを指差した。

「フルボッコにしてきたヤマトと比べてみりゃいい。全部弱く見えっから。それにこんくらいでビビッてたら舎弟は名折れだぜ? テメェは荒川庸一の舎弟だってこと忘れンなよ」

「励ましてくれてるのか、脅してくれてるのか分からないですよ。ワタルさん」

にやり、ワタルさんは意味あり気に笑って窓の外にいる不良たちに目を向けた。

脅された方が割合占めている気がするけど、この人なりの励ましだったんだって受け取っとこう。物事はポジティブに捉えないとな! じゃなきゃやってらんねぇ。

外にいる不良たちの会話が聞こえてくる。
内容は大体、他愛もない世間話といったところだ。
昨日、ボーリングでどうのこうのだの。親がうぜぇだの。先公どうにかして欲しいだの。魚住がどうのこうのだの。


……魚住? それって“アキラ”って呼ばれた、あの魚住のことなのか?




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