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05-18




「呼ばれて飛び出てワァアアアタルちゃーん」



なんでこの人がいるんだよぉおお! ちょ、なんで?!

ワタルさんの出現にもう少しのところでコケそうになったし、マジで腰が抜けるかと思った。心拍数めっちゃ上がっているし。

俺の反応にワタルさんはにやにやにやと笑い、肩に腕を置いてきた。

「そんなに喜ばないでよケイちゃーん。僕ちん、うれピくて思わずケイちゃーんに惚れちゃいそう」

「な、ななななんでワタルさんが此処に?」

「んー? それはねぇ。ケイちゃーんが楽しそうに走ってたからぁ。それに、トイレで地味っ子とお話してたでしょー? 僕ちゃーん、トイレの個室でちゃーんと聞いてたんだから。あ、ちなみになんでトイレの個室にいたかっていうとこの子と戯れようと思ったから」

ワタルさんはポケットから煙草の箱を取り出して俺に見せ付けた。

どーでもいいけど、ぶりっ子口調、どうにかしてくんねぇかな。鳥肌立ってしょうがないんですけど。

つまりワタルさんは、煙草を吸おうとトイレの個室に篭っていたわけだな。そしたら俺と透の話を聞いて、何やらただならぬ雰囲気を面白く思って俺の後をついて来た、と。

……それ、悪趣味だってワタルさん。

「ケイちゃーん。始終聞かせてもらったけど、あの子さぁ、透ちゃーんだっけ? もしかして今回僕ちゃーん達が巻き込まれてる事件のことで、何かあるんじゃないかな」

突然飛び出してきた真面目な発言に、俺は目を瞠った。

「不良に関係することで何かあったんじゃないか? ケイちゃーん、あの子にそう言ってたねぇ? 話の流れからして、多分、僕ちゃーんは今回の事件が絡んでるんじゃないかって思うんだよ〜ん。まあ、あくまで僕ちゃーんの勘だけど? そう、例えばあの子がヤマトちゃーん達の手先になっちゃったとか」

絶句するとはまさにこのことだと思う。俺はワタルさんを凝視した。

下唇に刺さっているピアスを軽く触って、ワタルさんは「あくまで憶測」と俺にキッパリ言い切った。

「仲間、というよりも脅されて何かされているって思った方が筋じゃないかなー。ケイちゃーんがヤマトちゃーんに脅されたように、ね。向こうは、そーゆー無理やりプレイ好きな輩が多いから。ヤマトちゃーん達に関わっているのかどうか、何となーくあの子に話が聞きたくなってねぇ。追い駆けてきたわけ、お分かり?」

「仮に……仮にそうだとしたら、透を、ワタルさんはどうしますか?」

「さあ? 殴り飛ばしちゃうかも。そうなったらケイちゃーん、どうする?」

挑発的な問い掛けに俺はちょっと考えた。

もしもそうなったら、俺はどうするだろう。
ワタルさんを止める……勿論それは、かの有名なカツアゲ伝説を作っている不良さまに喧嘩を売るわけで。

けど透は俺の地味友なわけで。一つ頷いて、答えた。


「そうなったら取り敢えずワタルさんが殴る前に、俺が透を殴り飛ばします。それから事情を詳しく聞きたいです。腕っ節の強いワタルさんに殴られたら、地味な奴等ってすぐ伸びますから」


身をもって経験しているからこそ言える。
喧嘩慣れしている奴にぶっ飛ばされたら、地味な奴はすぐ伸びちまう。病院送りも夢じゃないぜ!

ワタルさんは一笑して、俺の背中を叩いた。

「ケイちゃーんらしい面白いお答えをどーもども。何だかんだ言ってオトモダチ思いなんだねぇ。自分で殴っちゃうだなんて」

「どっちかっていうと俺のためでしょうね。その時の俺、きっと頭に血が上ってるでしょうし」

ブレザーのポケットに手を突っ込んでワタルさんに苦笑いを向けた。

だってそうだろう?
身近にいる……地味友と信じていた奴が今回の事件に絡んでいる上に日賀野の手先になっていた! なんて知ったら、きっと俺、ショックを受けていると思う。

なんで相談してくれなかったんだという透への怒りと、なんで気付けてやれなかったんだという俺自身への怒りが、きっと入り混じって一つの怒りになっていると思うんだ。

俺自身もそういう経験(未遂だけど)したことあるから、尚更、頭に血が上っていると思う。だから殴り飛ばして、そして事情を聞くんだ。何があったんだ? どうしたんだ? って。

……こんなことを思っている場合じゃない! 透を探さないと!

俺は話を中断して美術室に入った。

鍵は掛かっていなかった。昼休み、美術部が此処を使ってるみたいだし、もう掃除の時間だ。鍵が掛かっていなくても不思議じゃない。

俺は透の姿を探した。
小声で透の名前を呼んでみたけど返事は返ってこない。此処にはいないのか?

肩を落として踵返す。と、ワタルさんが美術室奥に向かっていた。首を傾げて後を追う。

「ワタルさん、何を」

「シッ、準備室から声が聞こえる」

人差し指を立てられ俺は口を噤んだ。

美術準備室から確かに声が聞こえる。先生、じゃなさそうだ。男子生徒の声が聞こえる。準備室って生徒立ち入り禁止じゃなかったか? そう思いながら、俺はそっと中を覗き込んだ。




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あきゅろす。
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