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05-17



俺の説明に透は下唇を噛み締めて俯いてしまう。気付いちまった、襟元を掴んでいる透の手が震えているのに。

「ごめん、圭太くん」

涙声を出して透はそっと手を放してきた。俯いちまっているから、顔は見えねぇけど、透の肩が震えているから、もしかしたら泣いているのかもしれない。

いや、透は泣いていた。
透が顔を上げてくれたから、分かりたくなくても答えが分かちまった。

泣き顔を誤魔化そうと透は必死に笑ってくるけど、変に顔が歪んで失敗に終わる。ブレザーの袖口で涙を拭いた透はまた俺に謝ってきた。

「突然、ごめんね。僕、ちょっと取り乱してて。ほんとにごめん」

「透、何かあったんじゃないか? 不良に何か関係することで。その怪我、なんかあったんだろ?」 

俺の問い掛けに透の顔が強張った。やっぱり何かあったんだ、透の奴。

不良に関係する何かであったなら、尚更放っておけない。
もしかしたら舎弟に関係する何かかもしれないし、見捨てておけねぇだろ。こんな風に泣いてる透のことをさ。


とにかくまずは保健室に連れて行こう。

怪我の手当てしてもらって、それから話を聞こう。昼休みはもう終わっちまうけど、この後は掃除だし。
それに仮に授業に遅れたとしても、友達を保健室に連れて行く行為はサボりじゃないよな。授業遅れても大丈夫だよな。

あれこれ考えていたら、透が顔をクシャクシャに歪めて本格的に泣き始めた。まさに男泣き。

いつもはのほほーんとしているのに、こういう時になると男らしく豪快に泣くもんだから俺は大いに焦った。男子便所に透のむせび泣く声が響き渡る。


「透、どうしたっ。ちょ、待て。落ち着け。いや、泣いちゃダメっつーわけじゃないぞ。悲しい時は泣け。遠慮せずに泣け。男が泣いちゃイケない法律なんて何処にも無いしな! けどちょっと落ち着け。せめて声、こえ、こえを抑え……あ、無理そうか? じゃあそのままでいいから、保健室行こうぜ。な?」

「むぅっ、っつ、うぅ、わぁーっ、わぁっ、わぁっ」


しゃくり上げている透が何か言おうとしてくれるのは分かるんだけど、残念なことに俺と透の間に以心伝心はないみたいだ。ちっとも伝わってこねぇ。困った。困ったよ。こういう時、どうすればいいんだ。

泣きじゃくる小さな背中を軽く叩いて、「取り敢えず保健室行こう」声を掛ける。

透は何度も首を横に振った。保健室に行かなくてもいい、ってことか? ということは教室に戻るってことか?

いやでも、その状態じゃ授業なんて無理じゃ……あーくそっ、こうなりゃ無理やり連れて行く! こんなところでグズグズしててもしょうがないだろ。


「っ、け、圭太くんっ……いいっ、いいんだっ、僕っ、連れっ……もらう資格ない……」


俺の決心が顔に出ていたらしい。

途切れ途切れに言葉を発しながら、透が俺の行動を止めてくる。

「僕っ、圭太くんをッ……疑って……そういう人じゃないッ、知っているのに。ごめんっ、圭太くんっ……ごめんッ」

「透……?」

「自分が可愛くてさぁっ……アレが大切でさぁ……。僕、君を……疑っちゃったんだ。最低なことをしようとしてたんだっ。ごめん、ほんとに圭太くん……ごめんね」

言葉を震わせながら、透は俺に泣いて微かに笑って謝ってきた。

どうして謝ってくるんだよ、透。
なんでお前、そんなに辛そうな顔しているんだよ。ゼンッゼン分かんねぇよ俺。

仮に透が俺に何かしたとしても、何をしたのか、それを言ってくれなきゃ謝られても気分が落ち込むだけだぞ。

大混乱する俺を差し置いて、透は「ごめん」詫びを置いて脇をすり抜けて行く。


「待てよ、透!」


声を掛けても透は振り返らなかった。男子便所を飛び出す透の背を追い駆けるために、俺もすぐ便所を飛び出した。

地味のわりに透は足が速い。もう姿が遠くなっていた。俺は転びそうになりながら、必死に透の後を追った。


だけど途中で姿を見失っちまう。

俺は舌打ちをして透の行きそうな場所を探すことにした。あの状態じゃ、教室に戻るって事はありえないよな。保健室も行きたくないと言っていたし。

そういえば透は美術部だったな。美術室に隠れて、興奮した気持ちを落ち着かせてるかもしれない。

昼休みの終わりを告げてくるチャイムを無視して、俺は美術室に向かった。 

この後掃除が入る、掃除時間は15分、まだ授業は始まらない。時間はある。掃除くらいサボっても大丈夫だろう。

そんな気持ちを抱きながら、美術室前で立ち止まった。上がった息を整えながら、俺は美術室前の扉を見据える。

「いてくれよ、透」

呼吸を軽く止めて気持ちを引き締めた。その直後、両肩に勢いよく手を置かれて俺の心臓が飛び上がった。振り返れば、




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