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05-10




「テメェ……マジ腹立つんだよッ!」 

「もう我慢できないなぁーん。生徒会長さん。僕ちゃー……俺サマ達に喧嘩売りやがって。ウゼェんだよ」 

ヨウに続き、ワタルさんがニヤつきながら机を蹴り倒して腰を上げた。

俺も生徒会役委員の皆様も超ビビッて声も出ない。ついでに泣きそう。マジ泣きそう。
だってあのワタルさんがキレ気味なんだぜ。恐いってものじゃない。恐過ぎて泣き喚きたいって。取り巻くオーラが須垣先輩以上に黒いし。


「それじゃあ見せてくれるかい? 君達がしていないという、その態度を」


それでも平然と笑っていられる須垣先輩は凄すぎだろ?! あんたの肝、少しでいいから俺にも分けて欲しいくらいだぜ!

てか、駄目だ駄目だ。
須垣先輩の挑発に乗ったらこれ以上の厄介が降り掛かってくるって。

ただただ一週間授業に出席すればいい話なんだろうけど、その一週間、平穏に日々を送れるとは思えない。

ここはプライドを捨てても乗らない方がいいと思うんだ。

少し冷静になって考えてみれば俺達の疑いはすぐ晴れると思うんだ。

だってやってないんだし。少しの間、投げ掛けられている疑いの眼を我慢すればいいんじゃないかと思うよ、俺は。



「一週間だな」



どすのきいた声でヨウが唸る。

お、おい、まさか、ヨウ……お前、挑発に……バカバカバカ! 乗るな、須垣先輩の思うツボだぞ! 俺はともかくお前達が一週間授業を真面目に受けられる筈がないだろ! 俺は自信を持って言えるぞ!

「あー分かったわかった。見せてやろうじゃねぇか。俺達全員、テメェの案に乗ってやるよ。それで文句ねぇだろうが」

嗚呼、言っちまった。やっちまった。マジかよ、ヨウ。

「そん代わり、俺サマ達が犯人じゃなかったって分かったその時は覚悟してやがれ」

「あそこまで言われちゃこっちだって腹が立つもの! やってやるわよ!」

「面倒だけど方法がそれしかないなら、やるしかないなー」

ワタルさんも弥生もハジメも見事に先輩の挑発に乗せられたようだ。

不良は『落ちこぼれ』とか『愚か』とか『遠吠え』とか、そんな単語以上に『負け犬』っていうのが許せないみたいだ。

特にヨウとかワタルさんは喧嘩では勝ち組。
『負け犬』なんてプライドを傷付けられるような単語は聞き捨てならないんだろうな。

でも大丈夫なのかよ。一週間なんて。
大きく溜息をつく俺を余所に須垣先輩は決まりだと手を叩いた。

「それじゃあ一週間、君達の」

「おい待てゴラァアア。一つ俺から言いたいことがある」

須垣先輩の言葉を遮るようにタコ沢が口を開いた。
青筋を立てているタコ沢が小刻みに微動している。どうしたんだ? タコ沢。

「この事件は今日の午前中だっつったな?」

「ああ、何度もそう言っているけれど」

「じゃああ、俺はやっぱり無関係じゃねえかゴラァアア! 俺は今日の午前中、ずっと職員室で教師どもから小言を貰ってたんだぞゴラァアア! なのになんで俺まで呼び出されてやがる!」

自分は関係ないと熱く主張する漢不良・タコ沢元気。

そっかぁ……お前、午前中サボってたわけじゃないんだな。なのに呼び出されちまったんだな。ヨウのパシリくんなもんだから、疑いが自然とお前の方まで流れてきたんだな。可哀相に。

タコ沢の主張に須垣先輩はキョトンとした顔をしていたけど、「職員室にいたのか」と納得したように頷いた。

「ということは谷沢くんの疑いは晴れるね。僕の出した条件はしなくても」

「タコ沢くんは俺達と一緒にいたもんな?」

満面の笑顔でヨウがタコ沢の肩に手を置いた。


「ふ、フザけんな! 俺は午前中」

「俺達といたもんなー? 君は俺のために働いてくれてたもんなー? 君は俺の優秀なパシリくんだしなー?」


テメェ、まさか自分だけ助かろうなんざ思ってねぇよな?そんなことしてみやがれ、後でどーなるか覚えてやがれ。あ゛ーん?

笑顔でタコ沢を脅すヨウの内なる声が聞こえた気がしたのは、果たして俺だけだろうか。

「一緒にイマシタ」

握り拳を作って怒りを堪えているタコ沢は盛大な舌打ちを一つした。

タコ沢、賢明な選択肢を選んだと思うぜ! ヨウに逆らったらお前、後々フルボッコにされるって!


あと俺から言えるのは一つ、タコ沢ドンマイ!

俺は哀れなタコ沢に励ましの言葉を贈った。口に出すとタコ沢がキレることが分かっているから、心の中で贈ってやった。

こうして俺達は身に覚えのない容疑を晴らすため、一週間授業をサボらないという短くて長い日々を送ることになったのだった。



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