05-09
「おや、何か気に食わないことでもあるのかな? 落ちこぼれの荒川くん」
ニッコリと笑って先輩は怒りを煽ってくるし! 須垣先輩、絶対確信犯だろ!
職員室にいた時から不機嫌だったヨウの堪忍袋の緒はそろそろ限界の限界みたいで、目の前の机を蹴り倒して須垣先輩をビビらせるようにワザと音を鳴らして机を踏ん付けた。
生徒会役委員の皆様方は怯え切ってるけど、相変わらず先輩は笑顔を崩さない。色々強いな…須垣先輩。
「黙って聞いてりゃ人を犯人扱い。挙句の果てには落ちこぼれ呼ばわりか? テメェ、舐めてンのか? あ゛?」
「落ちこぼれほどよく吠える。耳障りだ」
毒を含んで言の葉を吐き捨てる須垣先輩。
「ッハ、本当は生徒会役員の誰がしたんじゃねえのか?」
ヨウも負けちゃいない。
「テメェ等がやってねぇって証拠もねぇンだろ」
「話を聞いていたかい? 犯行は今日の一時限目から四時限目の間。生徒会役委員は全員、授業に出ている」
「それは授業と授業の間の休みも含んでの、一時限目から四時限目の間の犯行ってことだろうが。誰だってやれる可能性はあるだろ? 俺達がやったって十分な証拠もねぇくせに決め付けるんじゃねえ。それともなにか? さっさと犯人を見つけ出して先公どもに好い面でも見せようってか? 生徒会長さまよぉ」
初めて須垣先輩の片眉が微動した。
癇に障ったみたいだ。取り巻く空気の温度が下がった気がする。
「僕達は決め付けているわけじゃない。ただ一番疑わしい生徒達に目を付けているだけさ」
「だったらハッキリ言ってやるよ。ンな馬鹿なこと、俺達はしてねぇってな」
「日頃から馬鹿ことをしているクセに吠えるね」
「ああ、吠えてやるよ。だって俺達はしてねぇんだからな。賭けてもいい、俺達はしてねぇ」
ヨウは先輩に断言した。不機嫌のせいか自然と声が低い。
見ていた俺の心境。マジ、うっわぁ、ヨウ、カッケー! ってカンジ。
なんかさなんかさ、イケメン不良がこんなカッケー台詞言うとマジでカッケーんだけど! 腹立つくらいカッケーんだけど!
同じ台詞を俺が言っても、ここまでカッコイイとは思わないだろうな。
いいよなぁ、俺もイケメンに生まれてきたかったな。女の子にもモッテモテなんだろうなぁ。ナウい格好だって似合うんだろうな。
そんなこと思っている場合じゃないよ。
須垣先輩は一つ頷いてヨウに極上の笑みを向ける。
エンジェルスマイルっていうより、キラースマイル。
不良とは別の恐さを持っているような……だって先輩のスマイルを見ただけで鳥肌が立ったもん! 俺は思わず二の腕を擦った。
「なるほど。そこまで言うなら君達を信じてあげてもいい。ただし、それなりの態度を見せてもらわなくちゃね」
「態度、だと?」
地を這うような声でヨウが問い返す。先輩の笑顔に磨きがかかった。
「君達がこんな馬鹿なことをしていないというのなら、この事件の真犯人が捕まるまで、君達全員、一時限目から始まる授業すべてに出席してみせて欲しい。
つまりオサボリ禁止ってことだね。とはいえ、それでもこのまま真犯人が捕まらない可能性があるし、君達も辛いだろうから一週間という条件を付けよう。一週間、君達全員、一時限目から始まる授業すべてに出席してみせてほしい。
もともと君達の素行がヨロシクナイから疑われるんだ。今回の事件も毎度まいど君達が授業をサボらなければ、容疑者として名が挙がることもなかった。
それは君達に非がある。
僕等の言い分を正論化するわけじゃないけれど被害側から見た時、サボってばかりの君達が犯人じゃないかって疑っても不思議じゃないだろ。
僕等の立場になって考えてごらん。きっと君達が僕等の立ち位置にいたら、僕等をなんの躊躇いもなく疑うだろう? それだけ君達は相応のことをしているんだ。
でも君達はしていないと言う。なら、それなりの態度で行動で僕等を信じさせてみせてほしい。君達がそれなりの態度を見せてくれたら、僕等も『ああ、落ちこぼれでも彼等は犯人じゃないかもしれない』って思うだろうから。
人を信じさせるというのは、そういうことさ。
何事も態度で示してもらわないと、ただだだ馬鹿みたいに吠えられてもこっちとしては信じるどころか疑う一方だからね」
逃げ場を塞ぐように須垣先輩がニッコリ笑ってきた。
須垣先輩の爽やかスマイルがデビルスマイルに見えて仕方がないのは俺だけだろうか。取り巻くオーラが黒いっつーかさ。人の神経を逆撫ですることがお上手というかさ。
そりゃ、一週間真面目に授業に出るだけなら俺的に余裕だと思う。“俺的”にはさ。
だけどヨウを始め、ワタルさん、弥生にハジメ(とオマケでタコ沢)はよく授業をサボるから、そんな条件を突きつけらたら……なぁ。
俺は皆の顔色を窺った。
はは、みーんな嫌そうな顔してやんの。
皆さん、フッツー授業は全部出るものだろ? そう思う俺はオカシイか? オカシくないよな? 俺は普通だよな? 普通の男子校生だよな?
みんなの嫌そうな態度(俺はそんな態度とってないからな!)に、須垣先輩がワザとらしく肩を竦めてきた。
「やっぱりそんなものか。あそこまで僕等に啖呵切ったっていうのに、していないと証明もしようとせず尻尾を巻いて逃げる。さすが落ちこぼれくん達。疑われても逃げるしかできないなんて。その乱れた服装は君達の愚かさを象徴したいだけなんだろうね。負け犬だよ、君達は」
ンッマァ! ほんとっ、人の神経を逆撫ですることがお上手!
そんなことを言えばどうなるか、馬鹿だって分かるぜ! ホラぁ……隣を一瞥すればヨウの不機嫌度がまた上がってる。
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