容疑者は不良(と俺?!)
◇ ◇ ◇
前言撤回。
俺の生活は穏やかでも、平穏でも、平和でも、のほほんでも、ベラボウチクショウでもない。
特別厄介事に巻き込まれてもないとかほざきましたが、俺は十二分に厄介事に巻き込まれている。
だって俺、田山圭太は人生初。人生初の、
「最近の出席率の悪さは何だ、田山。サボリ癖でもついたのか?」
「いえ……別に」
「別にでサボるのか、お前は」
こ、恐ぇ。
担任の前橋を目の前に、俺はダンマリになる。
俺、田山圭太は十六年間上辺真面目ちゃんで生きてきた筈なのに、この度、人生初めての呼び出しを喰らっちまった。しかもそれが授業出席率のことで。
帰りのSHRの時に前橋が「田山、放課後話がある」と職員室に来いって言ってきたんだぜ? この時点で何かあるって思うだろ?
恐る恐る職員室に行ってみたら、前橋が顰め面して自分の席に着いているわけよ。
もう表情からして「俺にとってヒッジョーに不味い話がある」と察しちゃうわけだ。
更には前橋がやって来た俺に気付いて溜息をつく。三度も深い溜息をつく。気が済むまで溜息をついた後、職員室の隅に置いてあった丸椅子を持って来て、そこに座れって言うわけだ。これは長期戦を覚悟しないといけないってことで。
俺は言うとおりに嫌々丸椅子に座って、通学鞄を床に置いて、今こうやって冷汗を流しながら、前橋と話し合っている。
嗚呼、胃がイテェ。帰りてぇ。此処から逃げ出してぇ。嘆いたって前橋は解放してくれる筈が無い。
「田山。先週、何回授業をサボった?」
「三回です」
「だな。先週だけならまだしも今週もサボってるだろ。今日もサボったな。午前中の授業」
サボった。はい、サボっちゃいました。でもあれは、ヨウやワタルさんに誘われて……。
言い訳だって分かってるけど、前橋! お前なら断れるか。
教師の皆様だって泣きを見る、あの荒川庸一と貫名渉にお誘いされちまったんだぞ。断れないだろ!
最初は断ろうと思ったけど、やっぱ断るの度胸がいるし、授業の出席率に余裕があると思って俺、サボっちゃったんだよ! 悪いか、チクショウ!
心の中で叫ぶ俺。
言えないよな……ヨウやワタルさんに誘われたからって。
そういう言い訳を並べても格好悪いだけだし、それに追々面倒なことになりそうだし。
俯いて黙りこくっている俺に前橋が大きく溜息をついて、こめかみを押さえている。
「気のせいかもしれんが、最近、荒川と一緒にいないか? いるだろ? ああ、いるな。お前、最近一緒にいるな。俺を始め、何人もの先生が目撃しているしな。どーせ荒川とサボってるんだろ。ったく面倒だな、お前等。なんでサボるよ。授業ツマらんか? なあ? 誰だってツマらんもんある。けど授業は出ろ。聞かんでもいいから授業は出ろ。でなきゃ俺の仕事が増えるだろうが」
ベラベラと一方的に前橋が俺に話し掛けてくる。
というか自分の気持ちを吐露してるっつーの? とにかく俺の口挟む余地無し。前橋、俺、帰っていいかなー。もう此処に座ってるのヤなんだけど。
「荒川! 聞いているのか!」
「ウッセェな。んなデケェ声出しても聞こえてるっつーの」
向かい側の席から聞こえてくるのは聞き覚えのある声と、教師の怒鳴り声。顔を上げてそっちを見れば、不貞腐れて丸椅子に座っている俺の舎兄。
ちょ……なんでお前まで呼び出されてるんだよ。
いや、そりゃ俺よりも授業の出席率悪いだろうし、ヨロシクナイ行動を起こしたりしてるだろうし、服装違反上等な不良さまだから目を付けられたとは思うんだけど、なにも俺が呼び出しを喰らってる時に、お前まで呼び出されなくてもいいじゃないか。
なんてタイミングなんだよ……あれか、一種の神様の悪戯ってヤツか。だったらタチの悪い冗談だぜ。
ヨウはスンゲぇダルそうな顔しながら足を組んで、担任の説教が煩いとばかりに片耳の穴に指を突っ込んでいる。
その態度にヨウの担任が憤死しそな面を作って「聞いてるのか!」って自分の机を叩いていた。
あのヨウに怒りを向けるってスッゲェ……俺は思わずヨウの担任に感心。
まあヨウの担任は俺達の学年じゃメチャ恐いと評判の説教クサイ学年主任だしな。ヨウみたいな不良でもズバッと言えるんだろうな。
その度胸、是非とも俺に分けて欲しい!
一欠けらでも分けてもらったらきっと、恐い不良様達に悪態くらいは付けられる。多分。
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