不良は問題を起こしてナンボじゃい
ヨウの犬猿の仲ともいえる黒髪青メッシュの不良、日賀野大和にフルボッコされて一ヶ月、あの出来事が嘘のように俺の生活は穏やかだった。
また日賀野が俺を弄びに姿を現すんじゃないかとか、何か目論んで姿を現すんじゃないかとか、懸念はしてたんだけど全然そういうの無かったんだ。
フルボッコにされた身体の怪我も完治したし。
大喧嘩した利二とも仲直りっつーか、いつもどおりの関係に戻れたし(ちょっとクサく言えば友情が深まったっつーのかなぁ)。
ヨウとも……まあ不良と舎兄弟を抜かせば普通に話せるダチだし(日賀野の件で前よりも仲良くなっちまったんだよなぁ)。
とにかく最近の俺の生活はスッゲー穏やかなんだ。平和そのものってカンジ。
「ウラァア、荒川! よくも昨日は仲間をヤッてくれやがったなぁ?」
「よくも先輩をヤッてくれやがったな! あ゛?」
いやー平和、そのもの、って、カンジ。
「ッハ、お仲間サマとやらは俺に喧嘩を吹っ掛けてきただけだ。俺はそれを買っただけ」
「舐めたこと抜かしてるんじゃねえよ!」
「そうだ! 舐めたこと抜かしてるんじゃねえよ!」
「あ゛? 俺の説明の何処に舐めた表現があった? 第一、弱ぇクセに俺になんざ喧嘩吹っ掛けるからこうなるんだ。俺は悪くねぇよ。弱いテメェ等が悪い」
俺の生活はホント穏やかでー平和でー。
「好き放題言いやがってッ、荒川!覚悟しやがれ!」
「そうだ! 覚悟しろよ!」
「ンだよウッセェ。俺とヤリてぇのか?」
いや……違う……目の前でやり取りされている不良の喧嘩なんて俺には関係ないぜ。
俺の生活は穏やかで平和。平々凡々な毎日なんだ。
だから俺の舎兄が絡まれてようとも、喧嘩吹っ掛けられてようとも、一触即発な空気が漂っていようとも、俺には関係ない。
母音に濁点つけてることだってツッコミたいけど関係ない。関係を持ちたくないというか、俺、今話されてる喧嘩には関わってないというか。
「そっちのチャリ地味野郎! テメェが噂の荒川の舎弟か? あ゛?!」
「地味なお前! 舎弟なのか! あ゛?!」
お、俺、関係ないじゃないかよ。なんで俺に振るんだよ。
そうだよ俺、ヨウの舎弟だよチクショウ。文句あっかよ。
だけど不良二人組サマ達には、是非とも、舎弟ですって名乗り出たくない。んじゃココで俺が「違います」とか言える雰囲気かっつったら、絶対それは無理。
だって舎兄のヨウがいるんだぜ? 答えたら最後の最期、ヨウに喧嘩を売ったってことで俺の明日はない。
なので懇切丁寧は答えてやる。
不良の気迫に負けないよう、俺はヨウの舎弟だ文句あっか! って、テメッ喧嘩売ってるのか、あ゛? って、言ってやるんだ。
俺はヨウの舎弟だぜ! なりたくてなったわけじゃないし、断ろうとしていた筈なのに何故か舎兄弟関係が深まっちまったけど、とにかく舎弟になって一ヶ月経ったんだ。こんな不良に悪態くらい言えないでどうするよ。
「おい答えやがれ! 地味チャリ!」
「え、あ……ヨウの舎弟です。あと地味でスミマセン」
あくまで心の中で負けないよう強気に悪態付いて答えてはやるんだ!
けど、実際言うとなりゃ……な? やっぱ恐いじゃないかよ! 不良サマってさ!
チャリを持って立っている俺の隣で、「地味でスミマセンはねえだろ」ヨウが笑ってやがるし。
くそうっ、ヨウ、笑い過ぎだ。なんかハズイだろ。不良二人組は「舐めてやがる!」って声を揃えてきたし。
いやいやいや! 舐めてはないじゃないかッ、俺の台詞の何処に舐めている要素があった? 寧ろ地味でスミマセンって謝ったじゃないか! 関係ない俺が喧嘩に巻き込まれるなんて……俺、スンゲー可哀相だろコノヤロウ!
俺が心中で猛反論している最中、不良二人組が突進してきた。
先手を打ってきたな……。
やっぱり俺も敵と見なされたんだな。俺、関係ないのに。
涙を呑みながら俺はチャリのハンドルから手を放した。
突っ込んでくるうちの不良の一人の拳が飛んでくる。平凡地味俺でも避けられる拳の速さ。
日賀野の拳に比べると全然避けられる、と思えば避けられる。筈!
俺は冷汗流しながら相手の拳を避けて、右足を前に出して相手の足を引っ掛けた。相手は見事にコケた。顔面から。
「〜〜〜! テメェッ、舐めた手を使ッ!!」
トドメとして凶器でもある重たい重たい俺の通学鞄を、力いっぱい不良さまの顔面に投げつけた。
不良さまは見事に悶絶している。これで暫くは動けないと思う。
いや、うん、ごめん、卑怯な手で。自覚はあるよ。
だけど俺、こうでもしないと勝てないから! タイマンを張る拳勝負とか、絶対勝てねぇし!
地面に転がった通学鞄を拾ってチャリのカゴに投げ入れた。ヨウは既に不良さまを伸したらしく、「やっぱ弱ぇ」愚痴を零す。
「威勢良いワリにはこの程度かよ。あーあ、無駄な時間過ごした。腹減ったし。ケイ、何か食いに行こうぜ」
人を巻き込んでおいて、ホント呑気な台詞だこと。俺は心の中で溜息をついた。
俺、田山圭太は荒川庸一の舎弟になって一ヶ月。
日賀野大和からのフルボッコ事件を境に、こうやって度々喧嘩に巻き込まれるようになった上に喧嘩を売られるようになった。
俺から喧嘩を振っているわけじゃないぜ? 喧嘩を振られるんだよ。
不良達の間じゃ俺の名は(というかヨウの舎弟の存在)が知られ渡っているみたい。
ヨウを尊敬したり畏怖したりする不良がいるように、ヨウに恨みを持つ不良がいるから、ヨウの舎弟である俺に喧嘩を吹っ掛けてくるんだろうな。
最近、よく喧嘩売られるよ。「お前が噂の地味舎弟か?!」って言われてさ。
まあ、簡単に言えば、とばっちりってヤツ? みたいな?
あははははー……この一ヶ月、よく無事に生きてたよな、俺。
喧嘩に巻き込まれ、喧嘩を売られてきたこの一ヶ月を思い出すと、なんだか泣けてきた。ガンバッテきたな、俺。
「おい、ケイ。聞いてるのかー?」
「え、ああ、悪い悪い」
自分の努力に涙している時に話し掛けてきやがって! 空気読め! 心中で毒づく俺は、チャリに跨りながらヨウに言った。
「駅前に美味いラーメン屋がデキてるらしいから、そこにでも行ってみるか?」
「ラーメン、いいな。最近食ってねぇし、そこ行こうぜ」
「オーケーオーケー。って、ヨウ、昨日……何件喧嘩をしてきた?」
「ン? 何だよ突然。俺が覚えてる限り、三件くらいか? 何で?」
な、ん、で、だ、あァ?
よくぞ。よくぞ言ってくれたよ、舎兄の兄貴。前方を見たまえ、前方を。
俺は前を指差した。
チャリの後ろに乗ってくるヨウが俺の指差した方角を見て「わぁーお」って声を上げた。
俺達の前方には恐い顔をした不良の団体様がいらっしゃる。
「荒川、昨日はよくも」「今日こそはその面、ぶち崩してやる」「例の舎弟がいるぜ」
不良様方のお声が聞こえ、俺は泣きを見ることになるんだと察して溜息をついた。
ヨウは勿論、俺も敵視されてる。
完全に俺、とばっちりを喰らってる。
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