04-16
いつまでもトイレの個室で駄弁っているのもアレだから、俺達は場所を移動した。俺が唯一知っているサボれる場所に。
相変わらず体育館裏は静かだ。風通りが良くて気持ちがいい。階段の段に座って空を仰ぐと、高くて遠い遠い空が穏やかに見下ろしてくる。それがまた居心地を良くさせてくれた。
好きだな、体育館裏。
ヨウに呼び出された嫌な思い出があるけど、そのおかげで俺は此処の良さを知ることができたんだ。ホント好きだな、体育館裏。
此処にいると抱えていた悩みなんて、ちっぽけでクダラナイ……って思わせてくれる。
空を仰いでいる俺の左隣には利二が座っている。体育館裏に来る途中で買った紙パックのカフェオレを飲みながら、同じように空を仰いでいた。
「田山。自転車置き場にお前の自転車、置いておいたから」
「持って来てくれたのか」
「昨日、鍵を返そうと思って忘れていたからな。本当は今朝、お前の家に置いておこうと思ったんだがー……起きたら身体が動かなかった」
「利二もか。俺も動かなかった。おかげで焦ったぜ。やっべぇ、どうやって起きよう……ってな」
「やっと起き上がっても、今度は着替えに苦労する羽目になる」
「そうそう。着替えとかアリエネェよな」
俺達は空を仰ぎながら適当にお喋り。
サボりの醍醐味だよな。こんな風にサボって適当に駄弁るのって。体育館から聞こえる生徒達や教師の声をBGMにしながら、俺達は会話を弾ませるわけでもなくグッダグダ喋っていた。
「田山、これからどうするんだ?」
話題を変えてきた利二。何を聞いているのか分かったから俺は小さく苦笑。
「ヨウにさ。舎弟、モトの方が……あ、モトって金髪の不良のことな」
「あー自分に説教垂れて茶をくれた奴か」
昨日利二が持っていた缶緑茶はやっぱりモトから貰ったんだ。曰く「反省しろ」って怒鳴られて茶を押し付けられたとかナントカ。
モト、お前さ、俺達の仲を心配してくれたのは分かるけど、もうちっと言い方、どうにかなんねぇかな。まあ、いいんだけどさ。
逸れた話を戻して俺は言葉を続ける。
「モトの方が舎弟あっているんじゃね? って言ったんだ。スゲくね? 俺、不良さまにそんなことを言ったんだぜ? でも、俺はヨウの舎弟のまんま。っつーか、ますます俺、舎弟の件を……俺って馬鹿かもしれねぇ……利二」
額に手を当てて俺は項垂れる。
昨日キッパリと「舎弟はモトの方がいいです」って言わなかったから(言ったけどヨウが綺麗に無視してくれたっつーか)、ますます俺、ヨウの舎弟になっちまったじゃないか。
お断りし難くなっちまったよ。
白紙にしたかった筈なのに、なんで、舎弟の位置付けを固定しちまっているんだ。
だからって昨日断れる雰囲気かっつったら、いやいやいや無理だから! あの空気で断るって、マジどんだけ?!
断ったら俺は『K(究極に)K(空気の)Y(読めない)H(平凡)』略して『KKYH(ダブルケーワイエイチ)』だぜ!
……なんか分かりにくい略。なんでもアルファベットに略しちまえばいいってわけでもないな。分かる人には分かるけど、分からない人にはゼンッゼン分からないし。
この前も下校途中、小学生が『あの人クラスじゃTUだよね』って言ってたの聞いた時、ハア? 何だそりゃと振り返っちまったもん。
あとでネットを使って調べてみたら『T(超)U(有名)』って意味らしい。初めて聞いたら絶対ワッカンネェって!
「略語って初めて聞いたら絶対分からないよな。な?」
「……田山、一体全体何の話だ」
あ、そうだった。俺、今、利二と舎弟の話をしていたんだ。
いっけねぇ。あまりのショックに現実逃避していたよ。まあ、どーせ俺に拒否権なんてなかったんだけどさ。最初から。
「利二、俺さ。ますます、舎弟生活から抜け出せなくなったっぽい。喧嘩に強いわけでもねぇのに、ヨウは俺を舎弟に指名した。断れることもできたけど、流れ的に俺返事しちまったんだ。『足にくらいにしかなれねぇからな』って」
痛む身体を無視して俺は足を組んだ。
「これからどうなるか、どうするか、正直わっかんねぇ。なるようになるとは思うけど…まあ返事しちまったものは仕方ないし、どうにか頑張ってみるしかねぇって」
俺の話に利二は少し考えた素振りを見せて、ストローから口を離す。
「ホントにカッコばっかりつけるんだな、田山は」
「……今の会話の何処にカッコつけた?」
「すべてにだな」
バッサリ切り捨ててくれるな……ッ今ので軽く闘争心に火がつきそうなんだけど。利二、お前、昨日の喧嘩の続きでもしたいのか?
イラッとしている俺とは対照的に利二は表情を緩めて視線を外してしまう。
「悔いていた。お前を置いて逃げたことに」
利二の声はスッゲェ落ち着いて静かだった。
苛立っていた俺の気持ちは、利二の言葉で萎んでいく。
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