04-15
階段を下る度にギシギシ身体が軋む。節々がオイル切れしているんじゃね? マジきついダルイしんどい。しかも心臓が馬鹿みたいに鳴っている。
いやだって堂々サボるって緊張しね? 前はヨウがいたから、サボることに抵抗感はあったけど、ここまで緊張していたか。サボりじゃなくてヨウに対して。
「ッ!」
高鳴る心臓が飛び跳ねた。
下から誰かが上がってくる。足音で分かる。
俺は恐る恐る下を覗き込んだ。
教材を片手に上ってくるのは前橋って男の先生。俺のところの担任……マジで?! よりにもよって担任かよ!
俺が不良なら担任に会っても「ッハ! 舐めんな先公!」とか言えるんだろうけど、俺は表面真面目ちゃん。
担任に遭遇した瞬間、「田山何やっている!」何か言う前に怒鳴られちまう! 反論とかしたら更に怒鳴られること間違いナシ!
やばいやばいやばい。どうするどうするどうする。
取り敢えず、見つからないようにしねぇと! 焦っていたら思い切り腕を後ろに引かれた。思わず声を上げそうになったけど、グッと押し殺して顔を上げる。んで三度ビックリ。
でもビックリしている場合じゃない、俺は声を殺しながら一つ上の階に上がった。足音に前橋が気付いたのか、速足で上がってくる。
「そこに誰かいるのか?」
前橋の声にビビリながらも俺は男子トイレの一番奥の個室へ駆け込んだ。
ワザと個室は閉めなかった。閉める音で前橋が気付くかもしれないから。ジッと息を潜めて足音に耳をすます。足音が階段を上っていく。
どうやら難は逃れたようだ。俺は息を吐いて肩の力を抜く。同じように俺の隣で息を吐くのは、さっき俺の腕を引いてきた奴。利二だ。
壁に寄り掛かって「焦った」とポケットに手を突っ込んでいる。
「まさか、担任が来るなんてな」
「ホントにな。まあ他の教師に見つかってもヤバイだろけどさ」
「確かにな」
利二が微笑して肩を竦めてくる。俺もつられて笑いを一つ零した。
「田山、これから何処に行くつもりだ?」
「ンー? 体育館裏。あそこが一番サボれるんだ。ってか、そこしかサボれる場所知んねぇけどさ。利二は何しているんだよ。授業出なくていいのか? サボっていいのか?」
「お前には言われたくないな」
表情を緩めたまま利二が俺から目を放す。ちょっと間を置いて利二は口を開いた。
「なんとなく、ふけてみたくなった。ダルかったんだ」
利二の答えに俺もちょっと間を置いて口を開いた。
「フーン。俺と同じ理由か」
自然と視線が合って俺達は軽く笑いを漏らした。
「体育の時間にでもふけようと思っていたら、お前が先に教室を抜けたからな。抜けてきた」
「それじゃまるで俺のせいで抜けたって言っているようなもんだぞ」
「そうとも言うな」「抜けたのは自分のせいだろ」「おかげで助かっただろ?」「ちぇ。恩着せがましいったらありゃしねぇ」
いつもの雰囲気、いつものノリ、いつものやり取り。
利二の気持ちは分からないけど、俺自身、このやり取りが妙にくすぐったい。照れるってのも変な感じだけど、妙に照れちまう。なんでだろうな。
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