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男なんだ、どうしたって格好をつけたがる



◇ ◇ ◇



身体、が、マジ、笑えない、くらい、痛ぇ。


昨日までは痛くてもちゃんと動いていたのに、今じゃ身体が鉛みてぇだ。朝起きた時、全然身体が動かなくて焦ったよ。ベッドから一生出られないかと思った。

やっぱ喧嘩慣れしてない平凡男子には、昨日のフルボッコ事件も大喧嘩事件もシンドかったってことだよな。

実際今、かなりシンドイし。昨日よりも今日の方が痛みも酷いってマジ最悪。今日は体育が三時限目にあるってのに。


しかも眠いしダルイ。たっぷり寝た筈なんだけどな。

家に帰ってすぐシャワーを浴びて、怪我の手当てした後、飯も食わないで寝たから睡眠時間は十二分にとったのに。


そういえば俺のボロクソになった姿を見て母さん達がかなり驚いていた。

何かあったのか、何か事件に巻き込まれたのかって昨日も今朝も大袈裟に騒いで質問攻め。取り敢えず、適当に受け流してきた。

学校に登校した俺のツラを見た光喜や透も質問してきたけど、やっぱ受け流した。

言えないよなぁ。不良にフルボッコされましたなんて情けないことをさ。


身体がダルイってのに俺、頑張って徒歩で来たんだ。

本当は自転車で来たかったんだけど、俺の自転車はゲーセンに放置されているから。

今日の今日に限って徒歩なんてないぜ、マジで。

自転車盗られてねぇよな。撤去されてねぇよな。盗られたら暫くは自転車通学できなくなる。それは困るんだよ。俺にとってチャリは最大の武器であり、かけがえのない相棒なんだから。

二度重い溜息をついて俺は、憂鬱と闘っていた。いや愛チャリのこともあるよ。あるけど、愛チャリを貸した相手が、な。

肘ついて俺は利二の方を盗み見る。利二は光喜と話している。

話しているっていうか光喜が一方的に話しているみたいだ。利二の方は上の空。聞いているのか聞いてないのか微妙なところだ。


俺の視線に気付いたのか、利二がこっちを見てくる。

視線がかち合って俺はすぐさま目を背けた。メッチャ気まずさを感じる。俺達、昨日から口を碌にきいてないんだよな。

帰り際のあれだって俺が一方的に言っただけだし、会話っつー会話はしていない。


只ならぬ俺達の雰囲気に、光喜や透に朝から気を遣わせしまっている始末。


だってよ、朝、俺と利二が顔を合わせた瞬間、空気が重くなったんだぜ。朝から暗雲が漂ったっつーの? 空気の読めない二人じゃないから、俺と利二に何があったかは聞かないでくれた。それが俺達にとって凄く有り難かった。


俺は深い溜息をついた。大喧嘩した後ってどう接していいか分からないよな。

謝ればいいって簡単に口では言えるけど、実際行動に起こすとなると上手くいかないもんだ。変な意地とかプライドとかが邪魔するし。

なんか利二のことを考えると今日一日の授業がめっちゃダルい。ついでに身体もダルイ。朝のSHRからダルイって思ったくらいだ。授業なんてもっとダルイ。

一時限目の数学は辛うじて出たけど、二時限目の現社まーじダルイ。寝とけばいいんだろうけど、なんか教室、窮屈なんだよな。現社の後は体育だしさ。


ダルさは頂点に達して、嫌気が差してきた。

表面真面目で通してきた俺だけど、今回は真面目ちゃん無理そう。マジダルイ。時計に目をやる。もう二分くらいでチャイムが鳴るな。

俺はギスギス軋む身体に鞭打って席を立った。


「圭太くん、何処行くの? もうチャイム鳴るよ」


透が不思議そうな顔で俺に視線を向けてくる。

俺は曖昧に笑って肩を竦めると、教室を出た。チャイムがそろそろ鳴るってことだけあって、生徒達がそれぞれの教室に戻って行っている。

いつもの俺なら空気を読んで教室に戻るけど、今日の俺、不真面目ちゃんだから! あくまで気持ちだけだけど!

横一列に並ぶ教室たちの前を素通りして、さっさと階段に向かっていると名前を呼ばれた。

振り返れば、教室にいたヨウが窓から身を乗り出して俺の方を見てくる。ヨウの奴、今日は真面目に朝から学校に来ていたんだな。って、思った瞬間、チャイムが鳴った。

やっべぇ、早くココからトンズラしねぇと先生来ちまう! 真面目ちゃん通してきた俺にとって、実はサボるって行為はドッキドキバクバクだ。

現に今、スッゲェ心臓鳴っている。

そんな俺を余所にヨウが声を掛けてくる。

「ケイ、昼飯一緒食おうぜ」

「いいよ。いつもの場所だろ? ってか、俺、早く行かないとヤバイんだけど。先生に見つかったらマジヤバイ」

「相変わらずクソ真面目だな。ケイ」

悪かったな! クッソ真面目ちゃん貫き通して16年目だよ! あくまで表面のクッソ真面目ちゃんだけどな!

けど、今日の俺はクッソ真面目ちゃんじゃねえぜ? なんたって俺、内心ビビりながらも、超ビビりながらも(でもチキンじゃないよ?)

「俺、今からふけるんだって。だから見つかったらヤバイ」

「マジ? ふけるのか?」

何だよ……そのスッゲェ意外そうな顔。どーせ俺は真面目ちゃんですよーだ。お前と違って地味な真面目ちゃんですよーだ。悪いかバッカヤロ!

心の中で悪態ついている俺、口に出せないことがこの上なく情けないけど仕方がない。
ヨウは不良だもんな! そう簡単にツッコミなんて入れられねぇって! 仲良くしていたじゃないかって言われても不良は恐い! 胸張って言える!

そんなことしている場合じゃない。

俺はヨウにもう行くと告げて、速足で廊下を歩く。走りたいのは山々だけど身体が痛いんだよなぁ。


「ケイ! テメェがふけるなら俺もふけるッ、ちょっと待てって!」


馬鹿、おま……そんなデカイ声で。廊下は声響くんだぞ、教室にいる皆様に聞こえちまうだろ。既に聞こえていると思うけど。

足を止めて後ろを振り向けば、ヨウが窓枠に足をかけながら「けど数学は出ねぇとアレだよな」って迷っている。いや出席ヤバイなら出ろって。


「ヨウ、俺、午前中はふけていると思うから後で来いよ」

「そー……だな。分かった。んじゃ、後でな」


俺はヨウと別れて階段を下った。



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