04-09
「俺が日賀野の誘いを断ることができたのは、お前が止めてくれたからだ。あそこで止めてくれなかったら、俺はきっと断れなかった。絶対に」
「……田山」
「お前は間違ってねぇ。間違ったことなんかしてねぇから」
ヒシヒシ利二の視線は感じるけど、はっきり言って今、利二を直視できない。
他人と喧嘩なんて滅多にしないから、喧嘩後の接し方とか対処方法もよく分からないし。普段、面と向かって友達にこんなこと言わないし。
でも今日のうちに、今のうちに、今直ぐに、どうしても言っておきたかったんだ。俺の為に走ってくれた利二に、どうしても。どうしてもさ。
利二の視線に堪えられなくなって、俺は利二の脇をすり抜けて歩き出す。
背後に立っている利二がどんな顔をしているのか知らねぇし、俺の言葉をどう受け止めているのかも分からねぇ。だけど俺は俺の思ったことを言ってやるんだ。
フルボッコされた俺の身体を容赦なくぶっ叩いてきた、好き勝手言いやがってきた、薄情者に。
「利二……なんも間違ったことなんかしてねぇから」
本当は礼を言う筈だったのに、こんなくどい言い方するつもりじゃなかったのに、上手く言葉が紡げなかった。不器用な自分に悪態をつきたくなる。
振り向けないまま目を泳がせていると、道の脇に並ぶ店達のひとつの窓ガラスに目が留まった。
窓ガラス越しには薄っすらと俺の姿、それから身体ごと俺の方を振り向いている利二の姿。ハッキリと利二の表情はガラスに映っていない。
驚いているようなツラは薄っすらとしているような、何か思案しているツラをしているような、そんなカンジ。
だけど俺がガラス越しに見ていることに気付いた利二は、俺から目を背けて速足で家路を歩き出していた。
俺はちょっと安心した。
今の俺、利二にどんな顔していいか分からないから。
不安もあるぜ。反応と言葉のなかった利二と、このまま溝が出来たらどうしようか、前みたいに話せる仲じゃないよな……って。
片隅で迷っている。利二を追い駆けてちゃんと詫びと礼を言うべきなんじゃないかって。
けど結局は振り返られないし、追い駆けられない。こんなことを言った後、どんなツラしてあいつと話せばいいのか分からないから。
そういう面じゃ、きっと利二も俺と同じ気持ちなんじゃないかと思う。
利二が俺に背を向けて帰って行く。俺も利二に背を向けて歩く。ガラスから俺達の姿が消えた瞬間、なんかゲーセンの前まで戻る気が失せてきた。
俺はワザと店と店の隙間にできている脇道に入った。家へ帰るには遠回りになるけど、ゲーセンの前まで戻ってモトに仲直りしたかとか聞かれるよりはマシだ。
ちゃんとヨウ達に挨拶しなかったけど、今日くらいはいいよな。今日くらいは。
ヨウ達、不良で恐いけど俺の気持ちは汲んでくれる奴等だし、きっと挨拶しないでも分かってくれると思う。
軽く吐息をついて俺は軽く空を仰いだ。
張り巡らされている黒い電線の向こうに見える茜色の空。目にしみる眩しさだ。
妙に感傷に浸ってしまうのは、今日一日色んな事があり過ぎたからなんだろうな。利二と駄弁って、日賀野と会って一騒動起こして、ヨウ達に情けないとこ見せて、フルボッコされた後も利二と大喧嘩して、ヘコんでムシャクシャして悔しがって。
結局俺、舎弟のことをどうするのか考えてないな。
これから俺はどうするんだろう、どうしたいんだろう。
成り行き舎弟生活はこれからもダッラダラ続いていくんだろうか。
それとも舎弟生活を終わらっ、終わるのか? 舎弟を白紙にしたら、この奇妙な日常が終わるのか――。
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