04-07
響子さんに聞こうと思ったけど止めた。こういうのって人に聞くもんじゃないしな。
フロンズレッドの髪を耳にかけている響子さんが、フッと笑みを浮かべて俺にこんなことを言ってきた。
「気合の張り手を一発お見舞いしてやろうか? 気分が晴れるぜ」
冗談じゃない! これ以上、俺のカラダに痛みを与えないでくれ! ぶっ倒れる!
俺は必死に首を横に振った。「冗談だよ」可笑しそうに響子さんが紫煙を吐いた。
「今回の件、アンタの責任じゃないんだ。これ以上もう悩むなよ。この台詞、実はヨウにも言ってきたんだぜ?」
「え……ヨウにも?」
「ああ見えてあいつ、それなりに責任を感じているんだぜ? ツルんでるダチをボコされることが、あいつにとって1番ムカつくことだしな。ンな素振り見せねぇけどな」
そういえば日賀野も同じことを言っていた。
ヨウにとっての苦痛は信頼していた仲間の裏切りと、信頼していた仲間が傷付くことだって。
もしかして俺がヤラれちまったから、あいつ、責任を感じているのか。そりゃさ、元凶を辿ればヨウが俺を舎弟にしたことだけど、そのことでとやかく責める気になんてなれない。舎弟になれって言われた時、キッパリと断れなかった俺にも非があるっていうか原因があるっていうか。
それにあいつ、来てくれたしな。
俺がピンチだって聞いて……駆けつけてくれた。こんな俺の為にさ。
「少しは気が晴れたみてぇだな、ケイ。さっきよりマシなツラになっているぜ」
「さっきどんなツラしていました?」
「良い男が台無しってツラ」
「良い?!」
「知らねぇのか? 男ってのは喧嘩で男前が上がるもんだぜ。アンタ男前上がったよ」
面食らってしまう。響子さん、その言葉は反則だぜ! 言われたこともないよ、そんなこと!
熱が顔中に集まって火照っているのが分かった。
慌てて床に視線を下ろして顔を隠した、つもりだったんだけどバッチリと顔を見られた。響子さんにじゃないよ。
「おやおやこどんぶり? どーして此処だけアッチッチなのかな?」
ワタルさんに見られちゃったぜ! あはははー……うわっ、サイアック! しかも口調うぜぇ!
面白いネタを見つけたとばかりにニヤニヤと笑ってくるワタルさんに、俺は思わず逃げ腰。
すぐさまからかいという戦闘から逃げ出そうとしたけど、田山圭太は見事に失敗してしまった。
だってワタルさん、あっという間に俺の目の前に立っているんだぜ? ちょ、逃げる隙もありゃしねぇ! フルボッコにされた俺の体なんか気にせず、肩に腕を乗せて「みーちゃった」と口角をつり上げてくるワタルさん。スッゲェ楽しそうにニヤついてくる。
「ケイちゃーん。言葉攻めプレイに弱いっしょ。それともそういうプレイを密かに希望? イヤーンらしいんだからぁ!」
「ッ、なんでそうなるんですか!」
ワタルさん、此処はゲーセン。響子さんの前。そういうお話は宜しくないぜ!
するなら俺とワタルさんの二人だけの時、ムサイ男達だけの時に。
そう言えたら俺は男だよな! 株上がるよな! 勿論そんなこと分かっているんだぜ? 分かっているんだけど残念なことに俺にはそんな勇気ない……ワタルさん、恐ぇもん!
顔が赤くなっている自覚はあるけど、どうすることも出来ない。反論なんて持ってのほか!
そんな俺にワタルさんがニヤッと一際口角をつり上げてみせる。
「今度ケイちゃーんの為に僕ちゃーんの取っておきAVを貸してあげるから。鑑賞会でもしよっか?」
「ッ、はいいぃい?!」
「とっておきのオカズになるでしょ。なんなら響子ちゃんも見っッ?!」
ワタルさんの腹部に響子さんの跳び蹴りが入った! い、痛そう。
冷汗を流す俺は、横腹を押さえるワタルさんを一瞥。そして青筋立てている響子さんにも一瞥。口元を引き攣らせている響子さんは、関節を鳴らしながらワタルさんにガンを飛ばす。
「うちがあンだって? クッダラネェことほざいているんじゃねえよ」
「イタタタッ。響子ちゃーん、暴力は良くないよんさま。お嫁さんに行けないよんさま。あ、響子ちゃんはお婿ッ――!!」
あああッ、決まった! ハイキック! ワタルさん、その場に倒れて響子さんのKO勝ちィイイ!
………改めて俺は胸に刻んでおこう。
響子さんを絶対怒らせてはいけない。逆らってもいけない。馬鹿なことをしようものなら、俺はこの世から抹消されてしまう。哀れなワタルさんに合掌しながら俺は心に誓った。
あと、ワタルさん、一体全体何しに来たんだろう。暇潰し? とにかくご愁傷様でした。
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