だったら自分なりケリをつければいい
◇
二階のフロアは三階のフロアと違って人がよく目に付く。
お子様から俺と同じ年頃であろう学生の群れ。男は格ゲーやレーシングに、女はUFOキャッチャーやプリクラに夢中みたいだ。
社会人になっているであろうニーチャン・ネーチャン、アベックをよく目に……アベックは死語だよな。カップルをよく目にするって訂正しておこう。
ゲームをするっていうより、ゲーセンに置いてあるゲームを見て回っては会話を弾ませている。
どうでもいいけど、イチャつくなら余所でやって欲しい。見ていてムカツクんだぞ! 幸せそうな顔しやがって!
ストレスをメダルゲームにぶつけている中年のオッサン。
会社や家で何かあったんだろうか? 愚痴を零しながら、全てを忘れるようにメダルゲームに没頭している。傍から見れば恐ろしいオッサンだ。
色んな奴に目を配りボンヤリと観察しながら、俺は隅っこで壁に寄り掛かっていた。
何をしているのか? という目をゲーセンの客や店員に向けられるけど(しかも俺の怪我に変な顔してくるし!)、俺は気にする気力もなかった。
とにかくヒトリになって気持ちを整理したかったし、気持ちを落ち着かせたかった。今日の出来事を自分なりに処理したかった。
上にいるであろうヨウ達にヒトコト言ってはいるから、何処に行った? という心配とかは掛けないと思う。
俺はどれくらい此処に突っ立て自分の感情処理しているんだろう。三十分はとっくに過ぎていると思う……見当も付かない。
ひとつ溜息をついて、俺はゲーセンのBGMに耳を傾ける。
相変わらずゲーセンのBGMは煩い。今流行っている曲を大音響でバンバン流しているし、BGMの中にUFOキャッチャーの声が雑じってくるし、ほんと煩い。ウルサイ。うるさい。ウザッタイ。
一番ウザッタイのはヘコんでる俺なんだけどさ。軽く舌打ちをして壁に寄り掛かりなおす。
次の瞬間、頭に衝撃が走った。なんだよ! 軽く痛いんだけど! 頭を擦りながら顔を上げる。そして目が皿になった。
「アンタ、此処にいたのかよ」
拗ねた顔を作っているモトが立っていた。
ムスッとしたまま俺に何かを突きつけてくる。反射的に身構えてしまった。
だってよ、モトって俺のことあんま良く思ってないんだぜ? 警戒しちまうって! 喧嘩はもう無理だぜ?! 利二との大喧嘩で俺の体は悲鳴を上げているから! 断言できるのも悲しいけど、喧嘩しても負ける自信あるぜ!
そんな俺を気にも留めず、モトは何かを突きつけてくる。
恐る恐る目を落とせば缶……緑茶を俺に突きつけてきていた。思わず凝視。なんでそんなものを俺に突きつけてくるんだよ。
ナニ? お前は缶緑茶で俺に喧嘩を申し込んでいるのか。仮にそうならどうやって喧嘩するか俺に教えろよ。早飲み勝負なら俺でも勝算ありそうだからやってやってもいいけど。
それとも、まさかのまさか、もしかして俺にくれるってヤツ? モトがまさか俺に物をくれるなんて……まさか、そんな、まっさかなぁ。
缶とモトを見比べてばかりで一向に動かない俺に焦れたのか、モトが盛大な舌打ちしてくる。
同時に素早く俺の手首を引っ掴んで、掌を表に返すと缶を押し付けてきた。
反射的に俺は受け取ってしまったけど、これをどうすればイイのか分からず途方に暮れる。貰っていいんだよな、この缶緑茶、流れからして貰っていいんだよな。後で返せとか言われないよな。
「なあ!」
俺は思わず首を引っ込めてしまった。
だってよ、いきなりモトが怒声に近い声を上げてくるんだぜ? ビックリしない方が無理だって。
そんなモトはというと決まり悪そうに握り拳を作って唸っている。一頻り長い唸り声を上げたモトは、俺を見据えて指差してきた。
「今日のことは今日でお仕舞いだぜ。明日からは明日のことを考えろよ! そんなツラじゃヨウさんに迷惑だろ? 茶でも飲んで反省しろ! 分かったかッ、バッカヤロウ!」
吼えるだけ吼えてモトは俺に背を向けると、逃げるように三階のフロアに通じているエスカレータに向かって駆け出した。
途中、足を止めて振り返ってくる。
「五木に謝っとけよ! あ、ああ謝れないなら……オレが一緒に謝ってやってもいいからな! その代わりまたゲーム貸せよ!」
一緒に謝ってくれるってお前は俺のおかんか。
人目も気にしないで俺に向かって吼えたモトは、今度こそ三階のフロアに駆け上がってしまった。
呆然として俺は押し付けられた缶緑茶に目を落とす。あいつ一体全体何しに来たんだ。俺を罵りに来たのか、説教しに来たのか、励ましに来たのか、ゲームのこと言いに来たのか、わっかんねぇ奴だな。モトって。
しかも緑茶、何故に緑茶。豆乳や野菜ジュースよりかはマシだけど緑茶って。俺って健康オタクってイメージ持たれやすいのか……いやでも今までの中じゃイッチバンマシだ! 寧ろ緑茶は好きな分類に入るから感謝するけどさー。
モト、結局何しに、
「ありゃモトなりの詫びだ。あれでも一応、反省してアンタに悪いって思っているみたいだぜ?」
「響子さん、いつの間に」
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