03-12
車通りの少ない道路に差し掛かる。
人の姿も疎らに見る程度で、此処一帯の通りの人気の無さを思い知らされる。バイク音が響き渡る中、道路を突き進んで行くとヒトリの歩行人と擦れ違った。
弾かれたようにヨウが後ろを振り向けば、歩行人も足を止めて此方を見ている。既に姿形が小さくなっているが表情が窺える。
皮肉った笑みを浮かべている、日賀野大和の表情が。
ヨウが何かを思う前にシズがバイクを停めた。例の自販機の前に到着したようだ。
三台並ぶ自販機うちの一つに部活帰りであろう女子高生の集団が群がっている。
「酷い怪我」「喧嘩かな」「救急車呼ぶべきかな」聞こえてくる声に、ヨウは誰よりも早くバイクから降りて女子高生の集団を掻き分けて行った。
女子高生の黄色い悲鳴が聞こえたが、今のヨウには気にする余裕がない。
群がっている女子高生達を押し退け、ヨウは自販機の前に立った。掻き分けた先に待っていたのは、ボロ雑巾のように怪我を負い自販機に凭れ掛かっている舎弟だった。
「ケイ……おいッ、ケイ!」
片膝を突いてケイの両肩を掴み、怪我に響かないよう揺すった。
気を失っているのか微動だにしない。
「ケイ!」
ヨウは何度も、そして必死にケイに呼び掛ける。
「あの人、大丈夫かな。やばいんじゃ」
様子を見守っている女子高生達に、後からやって来たシズとワタルが見世物じゃないからと此処から去るよう催促した。
「此処から先は男の子の領域だから、ごめんねんころりん」
「ウザイのは気にしなくてイイ……悪いが、此処から去ってくれないか? あれは自分達の仲間だから」
「ちょ、シズちゃーん! ウザイって?!」
非難の声を無視してシズは女子高生達に去るよう頼み込んだ。
女子高生達は心配や同情の眼を向けながら去って行く。どうやら此方の気持ちを汲んでくれたようだ。
その間もヨウはケイを揺すって名を呼んだ。擦り傷が、垂れている血が、紫色に変色している痣が顔や身体にデカデカと存在している。それが痛々しい。
間に合わなかった自分への憤りを感じながら、ヨウがケイを呼び続けると漸く反応を見せる。
声を張って名前を呼べば、薄っすらと目を開けた。
何度か瞬きをして呻き声を上げながらヨウを見てくる。焦点の合っていない視線にヨウは軽く頬を叩いた。
すると朦朧としていた意識がハッキリしてきたのか、ケイはしきりに瞬きしながら状況を確認し始める。
「ケイ! 大丈夫か!」
「……あれヨウ。お前、なんで此処に……」
「お前のダチが知らせてくれたんだ。とにかく話は後だ。立てるか? 手ぇ俺の首に回ッ、ケイ?」
傷に障らないようケイの腕を自分の首に回させてようとした瞬間、ケイが拒むように腕を掴み返してきた。
手が震えている。目で見て分かるほど、震えている上に体温が低い。血が通っていないのではないか? と思うほど、手が冷え切っている。
顔を歪めてケイは「悪い」と謝罪を口にした。
「俺……おれ、お前を…裏切ろうとした。一度は日賀野の脅しに乗ろうと、したんだ。お前、裏切ろうとした……おれッ……こんな情けねぇ負け方して、情けねぇッ」
下唇を噛み締めるケイは早口に言葉を発してくる。傷に障るのではないか、と心配するほど。
「おい落ち着け、ケイ。傷に」
「俺はっ! 俺は、お前に合わす顔がないんだ。関係ねぇ利二巻き込んじまったし……ッ、向いてねぇよ……お前の舎弟…俺なんか……ぜった……いっ、なあそうだろ! ヨウ! 俺は最低だっ…」
「……ケイ」
「ちくしょう…チクショウッ……情けねぇッ…なさけねぇ…」
自分の膝を叩いて自分に対する憤りをぶつけるケイの隣に腰を下ろし、ヨウは落ち着けと首に腕を回した。
振り解くことさえしないケイは、隠すように片手で顔を覆ってしまう。
「最低だ」
肩を震わして自分への憤りを口にしていた。
それでも彼は気丈だった。敬意を払いたいくらいに気丈で、強かった。
怒りと悔しさを噛み締めているケイにヨウは掛ける言葉を探したが、何も見つからずただ様子を見守ることしか出来なかった。
何が言える、舎弟のピンチにさえ間に合わなかった自分に。
脳裏に皮肉った笑みを浮かべるヤマトの顔が掠った。
奴を喜ばせる結果になってしまったことが悔しくて、何も出来なかった自分に腹立たしくて、今のこの状況に苛立って、知らず知らず身体に力が入る。
回している腕に力を込め、自分の悔しさと舎弟の悔しさを吐き出す。
「ダッセェよな……テメェも、俺も………なあ? ケイ」
to be continued...
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