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「ヨウを裏切れ、と?」




――日賀野 大和。



拝啓、母上様。俺に声を掛けてきて下さいました青メッシュの不良さまのお名前は、利二の話してくれたアノ日賀野大和さまだったらしいです。ご丁寧にお名前を名乗って下さいました。

出来れば日賀野大和でないことを願っていたのですが、残念なことにこの方は日賀野大和。ヨウと非常に仲の宜しくないあの、噂の日賀野大和さまなようで。

噂をすればナンタラカンタラ……きっと今日、このお方の噂をしたのが悪かったのですよね。

きっと噂には魔力とかそんな未知な力が宿っているんだと思います。

でなければ、休日という安息の日にこんな恐ろしい不良の方にお会いするなんて無いと思うんです。

嗚呼、ヨウの舎弟である俺は、今、命の危機に曝されている状況です。

だって一緒にいる方がいる方ですし「暇だろ? 付き合えよ」とか言われたんですよ。

母さん、無事に家に帰れるか、正直言って分かりません。無傷で帰ってきたら奇跡だと思って下さい。

あ、蛇足ですが利二も成り行きで一緒にいます。

先に帰るよう言ったのですが「帰るタイミングが掴めない」と、顔を渋めてきました。
確かにそれは言えます。俺が利二の立場だったら、同じようにタイミングが掴めず取り敢えず一緒にいることでしょう。気持ちは十二分に分かります。


「胃が痛いな。お前はいつもこんな痛みと闘っているんだな」


利二が腹部を擦っている。

お前の気持ち、痛いほど分かるぜ。そして俺の気持ち、分かってくれて嬉しいぜ。

「胃どころか心臓も痛いって。ついでに嫌な汗が出てしょうがないだろ?」

「……ああ。些か明日命があるか不安になってきた」

「だいぶん、の間違いだろ? どうにかお前だけ帰せる流れに持っていくよう努力するから」

流れが作れるかどうかは分からないけど努力はする、努力は。

だけど努力で成せないこともあるからそれは、ご了承頂きたいぜ。利二。

まあ、全力でその流れには持っていくつもり。利二には関係ない奴で関係ないことだしな。どうにか日賀野との関わりを俺で止めておきたい。

俺、自分のことで手一杯だから不良達のゴタゴタに巻き込まれて利二に災難が降りかかっても、守ったりしてやることは出来ないと思う。

守るって言ったらちょっと格好付けた言い方だけどさ、本当に利二にはこの騒動に関わって欲しくないんだ。

巻き込まれれば巻き込まれるほど、自分の身と立場が危うくなっていくって分かっているから。俺がそうだしさ。

利二は勿論、透や光喜にだってこの騒動には関わって欲しくない。薄情者と言っているけど、こんな面倒な騒動、巻き込みたくないじゃないか。何だかんだ言って俺を心配してくれている友達なら、尚更。

利二は俺の泣き言を親身に聞いてくれた。励ましてくれる為に奢ってもくれた。巻き込みたくなんてねぇって。


とはいえ、どうもっていくかな。この流れ。


やや薄汚れている三台の自販機を目の前にして、何を飲もうか迷っている日賀野に目をやる。

俺達、今、人気のない道路の脇に設置されている自販機の前にいるんだ。

いかにも此処は人が通りませんっていうような場所。車通りも少なくてスッゲェ静か。時々歩行人を見かけるけど、ワタシは何も見てませんよオーラを出しながら速足で通り過ぎていく。

俺達からは目を逸らして歩いていることバレバレだっつーの。


まあ……この様子じゃ俺達、不良に絡まれているようにしか見えないよな。


俺が歩行人だったら同じように通り過ぎるぜ。
被害に遭うなんて真っ平ごめんだもんな! 気持ちは分かるンだ。分かる。でもされると妙に腹立つのも本音!

「チッ、マイナーなメーカーばっか置いてやがる。シケてんなー。なぁ?」

「そ、そうですね。そっちのサイダーの名前とか、聞いたことないや。俺」

「……コンビニに行きますか? そっちの方がメジャーな商品あると思いますけど」

「メンドーだから此処でいい。しっかし……品揃えワリィな」


愚痴る日賀野が、自販機を軽く爪先で小突いた。

本人は軽くのつもりだぜ? かるーく自販機を蹴っている。

だけど俺達はその行為に縮こまっているんだ。

いやだって恐いじゃないか! ヨウと対等の力を持つ不良が目の前にいるんだぜ? しかも自販機に向かって苛立っているんだぜ? 舌打ちなんかしちゃっているんだぜ? 自販機蹴っちゃったりしているんだぜ?!

矛先がいつこっちに向くかと思うと、ビクビクしちまうって!


ちなみに俺達、ビビッてるけどチキンじゃない! 縮こまっちまうのは極々普通の生理現象。誰だって不良を前にしたら俺達のような態度を取っちまう筈。不良相手に臆しない奴って、そうはいないと思う。



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あきゅろす。
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