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03-02



黙り込む俺に利二は吐息をついて、何があったかストレートに聞いてくる。


先日の騒動を知っているんだ。別に利二になら言っても大丈夫だって思った。

正直に先日の騒動を話せば、「自分から足を突っ込んでどうする」心底利二に呆れられた。


俺も確かにそれは思う。苦笑いして俺は話を続けた。


「ヨウのダチと面識を持っちまうし、喧嘩には巻き込まれちまうし、チャリ漕ぎすぎて筋肉痛にはなっちまう。災難ばっかりだったなぁ。今改めて思うと、舎弟の件……ますます断れなくなったよな……どーしよう。利二、俺、マジで不良ロードまっしぐらだぜ」

「金髪に染めても似合わないと思うぞ。せめて茶髪にしておけ。それならお前でも似合うと思う」

「いや、そこじゃないだろ。利二」


「冗談を言ったつもりだ。今のところは笑うところだが?」


珍しくおどけてみせる利二、だけど俺は全然笑えなかった。

寧ろ助言をくれたり、ツッコんでくれたりして欲しかったな。

人が真剣にどうしようか悩んでいるのに、お前ってヤツは……こういう時に冗談言うか? そういうキャラでもないクセによ。

引き攣り笑いを浮かべて俺は利二の足を軽く爪先で小突く。

何事もなかったように珈琲を啜る利二に、微妙に腹が立つのは俺の気の長さの問題だろうか? 利二に奢ってもらっている身分だから悪態はつけなかった。

態度で俺の心情を読み取ったのか、利二はさも可笑しそうに肩を竦めてきた。


「不良になっても変わらず接してやるから安心しろ。長谷や小崎はどうか知らんが」

「ヒジョーにウレシイお言葉をドウモ。お前はともかく、透や光喜はぜってー俺を避けるね。断言できる。利二、俺、お前の言葉信じるからな。俺が不良になっても避けるなよ!」


光喜や透って薄情者だけど、利二も結構薄情者だからな。

不良になった途端、避けそう。声を掛けたら「はじめまして」とか言われそうで恐いっつーの。


利二の言葉を信じる一方、片隅で疑心を抱きながら俺はナゲットを口に放り込んだ。ナゲットが生温くなっている。美味いけど。

「安心しろ」

利二は微苦笑を浮かべた。

「不良になっても、中身を知っているからな。恐ろしさは感じないと思う」

「あんま嬉しくない言葉だぜ、それ。はぁーあ、マジさッ、俺……危ない世界に足突っ込んでいる気がする」

「それは舎弟になった時点で分かっていたことだろ。田山」

「そりゃそうなんだけど」

俺は頬杖をついて思い出したくも無い記憶を捲る。

「変な不良に絡まれたんだ。俺」

「変な不良? どういう意味だ」

利二の眉根が軽く寄った。間を置いて俺は口を開く。


「先日の騒動の時、俺、ヤバそうな雰囲気の不良に声を掛けられたんだ。別に何かをされたってわけじゃないんだ」


ただ……あいつはヤバイ。

地味平凡の六感が悲鳴を上げそうになった。

虎視眈々とした鋭い眼、嘲笑を含んだ笑み、擦れ違いざまに生徒手帳を奪った手馴れた動作。記憶を辿ると、今も鮮やかに思い出せる。


あの不良は、俺が今まで出会ってきたヨウやタコ沢とは別の不良のオーラを取り纏っている。

畏れているワタルさんのオーラともまた違う。シズやモトとも違うし、響子さんや弥生ともまた違う。ココロなんて親近感を抱くくらいだから、絶対に違う。

誰にも似ていない、俺がヨウの舎弟になってから出会った中で1番、禍々しいヤバイオーラをあの青メッシュの不良は纏っていた。

全身の毛穴から嫌な汗が出てきて、思わず身震いして二の腕を擦ってしまう。


俺の話を聞いていた利二は、今までに無く険しい顔をして珈琲を胃に流し込んでいた。珈琲を飲み干してしまったのか、軽く紙コップを握り潰して利二は重たそうに口を開く。

「田山。荒川とつるんでいる不良グループはある不良グループと仲が悪い。知っているか?」

「し、知らねぇよ。んなこと」

「自分も、バイト先のコンビニは不良の出入りが頻繁だから、嫌でも不良達の情報を耳にしてしまうだけで詳細は知らないんだが……荒川は不良達の間で有名な不良だっていうのは知っているな?」

それは知っている。

あいつは不良の中じゃ相当有名だ。そうタコ沢が言ってたしな。

「中学時代から荒川は喧嘩に明け暮れていたらしい。同級生は勿論、年上も伸していたそうだしな。当然、そんなことばかりしていれば有名にもなる」

「はは……そりゃ、な」


「だが、本当に有名になったのは喧嘩に明け暮れていたからじゃない。当時、荒川の地元……田山や自分の住む地域一帯で一番有名な不良グループを伸したからだ。勿論、荒川ひとりでやったわけじゃない。荒川とつるんでいた不良達と共に、不良グループを蹴散らした。高校生だったらしい、そのグループは。その一件で荒川含む不良達は、他の不良達から恐れられるほど有名なグループになった」


言葉も出ない。ヨウの中学時代ってそんなにスゲェのかよ。

俺の中学時代なんて中二まで習字に嫌々ながら通って、中三になったら受験勉強に追われて、あとはフッツーの学校生活を送っていただけだっつーのに。

なんか生きている世界が違うっつーかさ、同じ日本の同じ地域に住んでいるとは思えないっつーかさ。

同じ学校の生徒で俺とタメって思えないっつーか、俺、本当にお前の舎弟なのか? って疑問を抱いちまうっつーか。

とにかくスゲェの一言しか思い浮かばない。

「同時期、荒川含む不良達の間で諍いが起きた」

「諍い?」

「ああ。詳細は知らないが諍いは次第にエスカレートしていき、とうとう亀裂が生じて二つのグループに分かれてしまった」

「そのうちの一つが、ヨウのいるグループってことか?」

「そのとおりだ。よく荒川とつるんでいる貫名も、当時の騒動のひとりに関わっているらしいぞ」

完全に潰してしまった紙コップを見つめ、利二が一呼吸置いた。

「不良グループには必ず中心となる人物が出てくる。頭(かしら)的存在というべきか」

「あれだろ、総長ってヤツ」


「暴走族とかでいえばな。まあ、この場合グループのリーダーと言った方が適切だろうな。二つのグループに分かれた時、片方のグループの中心人物は荒川。そしてもう一つのグループの中心人物が日賀野 大和(ひがの やまと)」


険しい面持ちを作ったまま、利二が俺を見せてきた。

「荒川と対等の力を持つ男だそうだ。この二人相当仲が悪いらしい。自分の言いたいこと、ココまできたら何となく分かるだろ? 日賀野は青メッシュを入れている」

「まさかッ、黒髪に青メッシュなのか? 俺に話し掛けてきた奴ッ……あれが日賀野大和だっていうのか?」

利二が口を閉じてしまう。態度で肯定と判断した俺は絶句してしまった。

あの時、俺に話し掛けてきたのが日賀野大和だとしたら、俺の立場上絶対に危なくなる。

だって俺はヨウの舎弟だぜ? 話が本当なら、ヨウを嫌っている日賀野は俺も敵視する筈。


な、泣きたい! 冗談じゃねぇって!


なんで俺が、見知らぬ不良さまに敵視されなきゃ……いや舎弟だから仕方が無いと言えば仕方が無いんだろうけどよ。





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