「舎弟は舎兄の後を追うもんだろ」
◇
エアホッケーをしているワタルさんとモトを眺めながら、俺はグッタリとスロットマシーンに備えられている椅子に座っていた。
さっきまで俺とワタルさんがエアホッケーをしていたんだけど、やっぱ疲労した体にエアホッケーは辛い。
しかもワタルさん強過ぎ。瞬く間にスマッシュを決めて来るんだもんな。守ることで精一杯だったよ。
その前はヨウとしたんだけど、やっぱりスマッシュが凄いのなんのって。
シズはホッケーをせず、椅子に座ってうたた寝をしている。ホント寝ることが趣味なんだな。
そうそう、モトとやった時は互角だったんだ。
いやモトとした時は、向こうの一方的にゲームがどうのこうので試合に集中してなかったからかもしれない。
打ってくる度に「ゲームのことだけどさ!」って言ってくるんだぜ? モトのゲーム好きに俺はある意味感服。やりたがっていたソフトを貸すことにした。
貸すと言った瞬間のアイツの顔、ホント子供のように輝いていた。
試合終わってもモトはさっきまで執拗にどんなソフトを持っているか聞いてきたんだから、ホント好きなんだな。ゲーム。俺も好きだけど、モトまでじゃない。
膝に肘を付いてボンヤリと試合の様子を見ていると、ココロが俺に何か飲むかと話し掛けてきてくれた。
「何か飲むなら、買って……来ましょうか?」
「いやいや、そんな悪いよ」
「そ、騒動でお疲れ……か……と思って……わ、私、何も役に立ててないし。せ、せめて何か飲み物をと…思って。でもみんな要らないって言うんです」
落ち込んでいるココロは、目を泳がせながら手遊びをしている。
これは罪悪感を抱く。
断って罪悪感を抱くのも変な話だけど罪悪感がヒシヒシ。ココロは「何か用があれば……」と口ごもっている。
こうやって気遣ってくれるココロは凄く優しいんだと思う。
俺が飛び出した後、ずっと気にかけてくれていたみたいで戻って来た時、「怪我はありませんか?」と心配してきてくれたし、他の皆に怪我は無いか聞いていた。
仲間のひとりが病院に行ったってことを聞いて、慌てて電話をかけていたしな。
ココロって名前のとおり、心優しい性格なんじゃないかと思う。
まだ今日会ったばっかだからハッキリとは言えないんだけどさ。喧嘩騒動の手助けを出来なかったから、自分の出来る限りのことをやりたいんだよな。
俺は鞄から小銭入れを出して200円をココロの手に押し付けた。
「サイダー。ペットボトルで宜しくな」
「え。あ……は、はい!」
「じゃあ、俺も同じのな」
いつの間にやって来たのか、ヨウが五百円玉をココロの手の平に落とした。
パァと顔を明るくしてココロは小銭を握り締めると、小走りで階段に向かって行った。
可愛らしいよな。ああいう顔をする女の子。見ていてほのぼのしちまう……そう思うのは男として普通だぞ? 俺は断じて変態じゃない。
ココロの背を見送った後、ヨウに目をやる。
「エアホッケーはいいのか?」
「休憩だ。ワタルとしていたら、体力消耗しちまった」
「ワタルさん強いもんなぁ」
「俺ほどじゃねえけどな」
その自信、是非俺にも分けて欲しいぜ。断言できるヨウに羨ましさを感じた。
「ハジメがあの程度の怪我で済んだのは、あの時俺を追い駆けてきたケイ、テメェのおかげだ」
突然の言葉に、俺は目を皿にしてヨウを見る。ヨウは目を細めて試合を眺めていた。遠回し礼を言っていることが分かった。
仲間思い、ワタルさんはヨウのことをそう言っていた。
本当にそう思うよ。じゃないとこんな風に遠回し遠回し礼なんか言ってこないだろ。義理や人情を大切にする不良だとは思っていたけど、ホント大切にする奴だよな。俺も試合に目を向け、そっと口を開いた。
「舎弟は舎兄の後を追うもんだろ。違うか?」
こっちを見てくるヨウと視線をかち合わせ、俺は笑ってやった。
不意を突かれたように目を丸くしていたヨウは、俺につられて笑うと背中を叩いてきた。
「もう一戦しようぜ」
「ちょ、それは俺」
「おい、ワタル! モト! そろそろ交替しろ!」
まーじーかーよー。
俺、まだ休憩しておきたい。出来ることならこのまま座っておきたい。
だけどヨウに意見するなんて大それたこと出来ないから、俺は渋々椅子から下りることになるんだよな。
そうやってヨウの後を追うから、俺、どんどん厄介事に巻き込まれていくんだろうな。
自分の起こす行動に一理原因があると分かっていても、追わないわけにはいかないじゃないか。
あの時のヨウの必死な顔を見たら、仲間がどうのこうの不良を見たら、尚更だ。不良は恐いけど、舎弟の話を白紙にしたいけど、後悔するような選択肢はしたくない。
だから、取り敢えず俺は舎弟として舎兄の後を追うことにするんだ。
「ケイ、早くしろよ」
「おー。今、行く」
椅子から下りて俺は台に向かう舎兄の後を追った。
to be continued...
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