02-16
あ、これからどうするんだろう。
ヨウに聞けばゲーセンに戻るらしい。ココロをゲーセンで待たせているし、全然ゲームできなかったから。
あれ? ゲーセンに戻る? そりゃココロがゲーセンで待っているだろうから戻らないといけないだろうけど、俺まで戻る必要ないんじゃね?
俺、マジ疲れたんだけど。
「ゲーセンに戻って、少しは鬱憤晴らさねぇとな。マジ今の出来事のせいで腹立った。ケイ、戻ったらエアホッケーしようぜ」
きちゃったぜ、エアホッケー。
意外とカラダを使うあのエアホッケーきちゃったぜ。俺、クタクタなんだけど。バリ疲れたんだけど。
だがしかし、遺憾なことに断る勇気が無いから愛想笑いで承諾。
さっきの俺だったら断れたのかな。いや断れないだろうな。ヨウ、やっぱ不良で恐いし。
小さく溜息をついているとモトが俺の前に現われた。疲れている時に疲れる奴が現われちまったよ。勘弁して欲しいって。どうせ嫌味とか皮肉とかそこらへん言いに来たんだろ?
キッと睨んでくるモトに俺は心の中で溜息。
俺の心中を知ってか知らずか、俺を指差して声を張ってきた。
「活躍したからって天狗になるなよ! オレはお前のこと舎弟だなんて認めてねぇえんだからな!」
「はいー……了解です。天狗にならないよう肝に銘じておきます」
「け、けけけどな! じー……自転車のッ、う、腕は認めてやるよ。な、ななな仲間としてもな!」
腕を組んで鼻を鳴らしてくる。光栄な言葉ばっかだけど……モト、お前さ。俺が先輩だってこと忘れているだろ。俺、一応お前より一年早くこの世に生まれたんだぜ。一年先輩だぜ。分かっているか? そこら辺。
「で! でッ……でー……お前の名前ッ、何っつった! オレの名前は分かるだろ!」
「貴方様は基樹。俺はケイ。これで宜しいですかね?」
「ケイか。ケイね……オレのこと、モトって呼ばせてやるバッカヤロ! 宜しくもしてやるよ!」
バッカヤロ……おまっ、バッカヤロはあんまりだろ。
俺的には宜しくしたくない。初対面で殴り掛かってきた奴だもん。出来ることなら宜しくしたくない。まあ不仲になるよりはマシか。
「どうぞ宜しく」
言葉を返すと、フンと鼻を鳴らしてそっぽ向いてきた。
ヨウが溜息をついて「何でそんな挨拶になるんだか」と呆れている。
慕っているヨウに呆れられたことが少しならずショックだったのか、シュンと表情が落ち込んでいた。
モトの気持ち、分からないわけでもないんだ。
尊敬していた奴に舎弟ができて、しかもその舎弟が弱そうでフッツーの奴だったら、やっぱ抵抗があると思う。
俺がモトの立場だったら殴り掛かってはいかないけど不満は抱くと思うし。
舎弟は認めてないけど、自分達の仲間としてなら迎えてくれると本気で言ってくれているようだから、今の挨拶で殴りかかってきたことは許すとしますか。
ゲーセンに戻る為、俺はチャリに跨る。
俺以外は途中まで徒歩。バイクは適当に近くのコンビニの前に置いてきたらしい。
「歩きダルイ」
シズが欠伸を噛み締めて眠そうな顔をしていた。ワタルは俺に乗せてって頼んできたけど、ヨウが「俺の特権だから」って後ろに乗ってきた。
ニケツは違反なんだけどな。俺は心の中でツッコんだ。
「ケイ。帰りも裏道な。早くホッケーしてぇ」
「りょーかい。行きみたいに荒運転にはならないから安心しとけよ」
とはいえ、裏道か……また坂を上ると思うと俺は気が滅入ってしまう。
しゃーない、裏道使った方が早いから頑張って坂は上ろう。明日は絶対に筋肉痛だろうな。覚悟しておこう。俺はペダルに足を掛けた。
あ、そうだ。
まだ落ち込み気味のモトに声を掛けた。
俺に声を掛けられた途端、気丈になって「何だよ! 話し掛けんな!」突っ返してくる。
お前、本当に仲良くしてくれる気あんのかよ。気を取り直して話を持ちかける。
「あのさ。パーフェクトストーリー。やるなら貸「煩いな! 話し掛けるな! って、え?」さなくていいみたいね。分かった、ごめん。もう話し掛けない」
遠目を作って俺は前を向くと、ヨウにしっかり掴まるよう言ってペダルを踏んだ。
うん、やっぱ俺、モトとはお友達になれない。これ、不良とかそれ以前の問題。
前進する俺達の前にモトが飛び出してきた。
驚いて俺は急ブレーキを掛ける。
俺もヨウも前屈みになって、危うくチャリを倒すところだった。
ヨウが「危ねぇだろうが!」って怒声を張ってくるけど、今のモトには聞こえていないようだ。目を輝かせて俺に纏わり付いてくる。
「なあなあ貸してくれるの? なあなあ!」
「ちょッ、纏わり付くなってッ……モト、今、断っただろ」
「断ってねぇよ! 舎弟は認めてねぇけど、アンタの自転車の腕は認めたし! なあなあ、さっきの話! ケイ、ケイ先輩!」
「……ケイ先輩って」
今更。お前、今更。
「おい、ケイ。モト。その話は」
「オレ、ゲーム大好きなんだって! 金ねぇから買えねぇけど、ゲーム大好きなんだって!」
「大好きっつーのは分かったけど、今」
「断ってねぇって! 先輩の意地悪!」
男の脹れ面に俺は萌えないからなモト。
「おい……ケイ、モト」
「なあー今貸してくれるって言ったよな。な」
「うわっつ、ゆ、揺らすなって! チャリ倒れるだろ!」
「テメェぇええ等、俺をシカトしてんじゃねえ! ゲームの話はゲーセンでしやがれ! モト、邪魔だ! ケイ、さっさと出せ!」
ヨウの怒りにモトはサッとチャリから退き、俺は素早くペダルを漕ぎ始める。
怒られた。不良からッ、舎兄から怒られた。やっぱ不良恐ぇえええって!
ビビる俺を余所にモトはヨウの怒りよりも、ゲームを貸してくれるかどうかの方が気になるらしく「ゲーセンで話そうな! センパーイ!」後ろから声を掛けてきた。
モトって調子がイイっつーか、ご都合主義者だろ! 先輩とか、どの口がそんなこと言っているんだ?
俺達の様子にワタルさんの笑い声が、シズの欠伸が聞こえた。
◇
「荒川が舎弟を作るとは面白じゃねえか。しかもアイツとは正反対のプレインボーイ、か」
あの荒川がプレインボーイを舎弟にするなんざ、どういうジョークだろうな。
ま、あいつのことだ。
深い意味はないんだろうがこっちとしてはオモシレェ。プレインボーイが不良の舎弟、しかもあの荒川の舎弟がプレインボーイ。
見たところチャリ以外は何の取り得も無さそうな奴だったがオモシレェ奴だとは思った。
「田山圭太。通称ケイ。荒川に関わった以上、俺とも関わっちまうことになるラッキープレインボーイ」
口角をつり上げ、動かしていた足を止めると小さく点にしか見えない廃工場を振り返る。
「近いうちに会おうぜ、プレインボーイ」
ふわり、と青の混じった黒髪が風に靡いた。
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