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02-15



地面に転がっている通学鞄を拾って、俺は大人しく廃工場の外へ出る。

川岸の廃工場とあって外に出るとゆったりとした川が視界に広がった。喧嘩騒動さえ嗤うように静かな波を立て、川は流れている。

微風が俺を通り抜けていった。
気持ち良いとは程遠い風だ。チャリをその場にとめてハンドルから手を放す。

ハンドルを強く握りすぎていたせいで指が思うように動かない。軽く揉み解しながら俺は息を吐く。

「奴等、か。何なんだろうな……奴等って」

得体の知れない不安が襲い掛かってくる。

奴等、ヨウ達が嫌悪している“奴等”ってさっきの不良達のことなのだろうか。まだ俺は何も知らないし分からない。ヨウ達の見ている世界を。



パチッ、パチッ、パチッ―――。



「ブラボー。プレインボーイ」


拍手と一緒に聞こえてきた知らない声。くちゃくちゃとガムを噛む音が聞こえた。

俺は身を強張らせて川から目を放す。

廃工場の外に出されているドラム缶の上に座っている不良らしき人物を見つける。黒に青のメッシュを入れている不良は、俺が気付いたことに口角をつり上げてきた。

「一部始終見せてもらったぜ? 面白いな、プレインボーイ」

「だ……誰?」


「ここで俺のこと知っちゃ面白くなくなるだろ? お楽しみは後に取っておこうぜ。今日は御見知り置きってことで」


なんか分からないけど、コイツ危険だ。俺の本能がそう言っている。

ドラム缶の上から下りて俺の脇をすり抜けて行く。

サッと振り返れば、向こうも振り返ってきた為に目が合ってしまった。

獲物を捕らえるような鋭い眼だと思う。

ニヤリと笑って青メッシュの不良は指に挟んだ手帳のようなモノを見せ付けてくる。生徒手帳のようだ。


待てよ待てよ。
あの生徒手帳には見覚えあるぞ。青褪めながらゆっくりとブレザーのポケットに手を当てる。

常に入っている筈の生徒手帳の感触が無い。

まさかとポケットに手を突っ込んでみた。やっぱり無い。あれは俺の生徒手帳だ。絶句してしまう。


いつ取った? あの喧嘩騒動で落としたか? いや、落としたら分かる、だったらいつ……。


「まさか今、取ったのか……」

「賢いじゃねえかプレインボーイ。大当たりだ。へえ、田山圭太っつーの。だからケイって呼ばれていたわけか」


面白そうに生徒手帳を眺めている青メッシュの不良。

一通り中を確かめると俺に投げ返してきた。

動揺しながらも生徒手帳をキャッチして不良を見た。不良の両耳にはピアスがしてある。銀色のドクロが光に反射していた。

何処と無く毒々しく思えたのはドクロのピアスのせいなのか。

「プレインボーイ。また会おうぜ。そのうち俺のテリトリーに大歓迎してやるよ。楽しみにしてな」

「なッ、ちょ、待てよ! あんた!」

俺の呼び止めを無視して青メッシュの不良は歩き去ってしまった。

嫌に心臓が高鳴っている。胸を押さえ持っている生徒手帳ごと制服を握り締めた。

なんだ、なんだ、アイツ。分かんねぇけど危険だ。メッチャ危険だ。

俺は、もしかして今回の出来事で、とんでもない厄介事に足を突っ込んだのかもしれない。


だけど手を貸さなかったきっと、後悔していたと思う。なんであの時……と、一生悔いていると思う。それは断言できる。


だから俺は手を貸したことに後悔はしていない。


自分を落ち着かせる為に俺は深呼吸をして、ポケットに手を突っ込んだ。

何か俺に待ち受けているとしたら、その時はその時。どうにかなるさ思考で頑張っていくしかないじゃないか。

どうせ厄介事には巻き込まれているんだしさ。


此処でクヨクヨ、オドオドしても仕方が無い。


アイツが何処の誰か知らないけど、また会った時に悩もう。今はそうするしかない。そうするしかないじゃないか。



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