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02-14



「か、く、ご、はいいか? あ゛?!」


「……何故に濁点を付けるんだろう。不良って」

「何か言ったかゴラァアアア!」

「ギャアアアアアー! 何も悪いことは言ってないって!」


「ちょっと、その人放しなさいよ! 私の恩人なんだから!」


タコ沢に果敢にも挑んでくるのは、先程の女不良。

いや、いいんだよ。無理しなくて。貴方様には関係のない人ですから。だからタコ沢をこれ以上煽らないでくれ! 助けてくれるのは嬉しいんだけどさ!

俺の懇願は虚しく散る。女不良がタコ沢の脛を蹴ったのだ。

「うをっツ!」

妙な奇声を上げてタコ沢が俺の胸倉から手を放す。俺は急いで乱れた胸倉を整える。女不良は俺の顔を覗き込んできた。

「大丈夫?」

「んー……ん、なんとか」

「あれ? あなた……もしかして私と同じクラスじゃない? 私、サボッてあんまり学校行ってないけど……なんかクラスで見覚えのある顔」

そう言われると、俺も女不良の顔を見て考える。

ウーン、そういえばこの人、見覚えあるような気がする。制服は俺の学校のだから、直ぐに同じ学校って分かるんだけど。

俺クラス、比較的真面目バッカなんだけどやっぱ数人は不良がいる。
その数人のうち大半が学校をサボっていたりするから、不良達の顔をあんまり覚えてないけど。

入学式終わって数日は不良様方も来ていたんだよな。

もしもこの人が、俺と同じクラスの人なら俺の思い当たる限り。

「苑田 弥生(そのだ やよい)?」

「田山 圭太でしょ!」

おおっ、同時。俺も女不良も顔を見合わせたから、お互いに当たっている。

つまり俺達、同じ学校の同じクラスなんだ。

「やっぱり」

女不良は嬉しそうにはにかむ。彼女は「弥生でいいから」と言ってきた。俺も弥生に「ケイでいいから」と言った、と、その時タコ沢が怒声を浴びせてきた。

「俺の存在を無視して呑気に自己紹介していんじゃねーぞゴラァアア!」

「あ、タコ沢。悪い悪い。別に無視していたわけじゃ」

「谷沢だァアアアアアアアアア! このッ、勝負しやがれー! 雪辱を晴らしてやる!」

喧嘩を吹っ掛けてくるタコ沢に、俺は「今はそんな時じゃ」と言葉を濁す。

そんな時、タコ沢に向かって邪魔と言った奴がいた。俺に鞄をぶつけられた不良だ。

鳩尾を蹴りつけてやった不良は未だ悶えているらしく復活する気配は無い。うん、鳩尾は痛いよな。ごめん。心中で謝っておく。

「そいつは俺がやる。退けよタコが」

「タ、コ、だ、と」

哀れこの不良はタコ沢のタブーを言ってしまった。きっとこの後、タコ沢の怒りを買うだろう。ご愁傷様。

俺は不良に合掌する。
不良は俺の合掌に気付くことは無かった。

何故なら、タコ沢が不良に右フックをかましたから。不良の悲鳴が聞こえるが、そんなもん俺の知ったこっちゃ無い。タコ沢の気が済むまで殴られてくれ。


ふと俺はヨウに目を向ける。

一人ひとり伸していくヨウはスゲェけど、ヨウはちょっと疲れているようだ。

人数が人数だもんな。俺はペダルに足を掛ける。弥生に此処にいるよう言うとチャリを前進させた。

さっきと同じ要領で勢いに任せて、ヨウの背後を狙っていた不良に蹴りをお見舞いする。


「あら、ごめんなさーい。俺、足癖悪くて」


嫌味も忘れない。
今だからこそ嫌味が言えるんだ。振り返ってヨウが吹き出した。

「ッ、クク、やるじゃねえかよ。ケイ」

「光栄デスヨ。兄貴」

「言うねぇ。ワタル達も到着したようだぜ」


出入り口にワタルさん達の姿が確かにあった。


「ヘイヘイヘーイ! なあに、もうおっ始めてるの〜ん?僕ちゃーんの分ある?」


ニヤついているワタルさん。


「ハジメは随分ヤラれてるみてぇだな」


盛大な舌打ちをしている響子さん。


「弥生は大丈夫そうですけど、響子さん」


何故か俺を見据えているモト……お前、こんな時まで。


「……眠い」


欠伸を噛み締めているシズ…眠い言える場面じゃないと思うけど。


不良達は形勢逆転されたことに悔しそうな顔を作っている。

反撃しようとしてもワタルさん達が加わったことで、勝てる見込みも無く数分後には不良達全員が伸してしまった。

響子さんも喧嘩に強いみたいで、男相手と互角に渡り合っていた。

全員伸したことを確認すると、ヨウは銀髪不良を起こして何度も名前を呼んでいた。

銀髪不良は直ぐに目を覚まし、呻き声を上げながら地面に肘を付いて自分で起き上がろうとしていた。

「馬鹿、無茶するんじゃねえよ。ハジメ。あいつ等にヤラれたんだろ?」

「ッ、はは、まー……ね。僕、カッコ悪いな」

「そんなことないって! 私を庇って助けてくれていたじゃない!」

弥生が銀髪不良の前で膝を折った。

何度もアリガトウと弥生は言っている。

銀髪不良は情けないとばかりに失笑していた。

ワタルさんやシズ、モト、響子さんは「奴等か」と俺には分からない話をしている。ヨウも「奴等」と誰かに対して嫌悪している。

皆の後ろで見ていた俺はチャリから降りて、気付かれないようにそっと廃工場から出ることにした。


今、皆が話していることは俺が安易に聞いてイイ話じゃないと思ったから。どんなにヨウの舎弟っていっても、やっぱり今の俺は部外者だから。



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あきゅろす。
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