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02-13




小さくなるタコ沢の雄叫びを聞きながら、俺は見えてきた川岸の廃工場を睨み付ける。

あそこにヨウのダチがいる。

太い鎖で出入り口を封鎖した跡があるけど、誰かが故意的にその鎖を外したみたいで出入り口付近に錆びた鎖が転がっている。

チャリのタイヤで鎖を踏み付け、川岸の廃工場に入った。

視界に飛び込んできたのは古びたドラム缶の山。

角材らしきモノや鉄筋らしきモノが無造作に隅で転がっている。


そして数人の不良らしき奴等が、ひとりの銀髪不良を袋叩きしている。

銀髪不良は果敢にも抵抗しているけど、圧倒的に人数が多い。力の差は歴然だ。

もう一つ目に付くのは二人の不良に追い駆けられている女不良。

泣きそうな顔をして逃げている。

着くや否やヨウはチャリから飛び降りて、銀髪不良の元へ走った。


「ハジメに何してやがるお前らああ!」

「荒川だッ。荒川庸一が来たぞ!」


ヨウは取り巻く不良達に蹴りを入れる。

圧倒的人数なのに喧嘩慣れしているのか、ヨウは一人ひとりの攻撃を避けながら、あるいはワザと受けて隙を突きながら嗾(けしか)けている。

喧嘩慣れしていない俺もやるべきことがあるみたいだ。俺はペダルを踏んだ。




「来ないでよッ、放してよッ、馬鹿! アホ!」


「うぜぇアマだな」

「どうする? こいつ?」

不良二人のうち一人が女不良の細い手首を掴まえている。

女不良は必死に足掻いているけど男女の力の差は歴然。

無駄な抵抗にしかならず、男達の手からは逃げられない。

目尻に涙を溜めながらも、絶対に泣くものかと不良達を睨み付けていた。女ってこういうところが強いよな。

俺は感心しながらカゴに入れていた通学鞄を女不良の手を掴んでいる不良に思い切り投げつけてやった。

不良の顔面に見事直撃! 不良の片方が俺を睨んできた。

俺は臆しながらも言ってやった。


「俺、これでも一応真面目ちゃんなんで? 通学鞄には教科書や資料集等々ギッシリですよ? だから鞄は重たい上に? 投げつけられたら痛いですよね?」

ついに、ついに不良に嫌味を吐いてやったぜ! スッゲースッキリだコノヤロー!

内心喜びながら、手を振り切って男の手から逃げた女不良に「乗れ!」とチャリを指差す。

女不良は躊躇することなく俺に駆け寄ってきた。

素早く後ろ乗って俺の肩に手を乗せてくる。

もう片方が俺を睨み付けて追い駆けて来た。


「く、来るよ!」

「肩にしっかり掴まっていろ。荒運転でいくから!」


承諾したように肩を握ってくる。俺は直ぐにチャリを漕ぎ始めた。

ヨウの時のようには荒く運転できないな。後ろに乗せてるの女の子だし、振り落とされるかもしれねぇ。

早々と決着を付けた方が良さそうだ。追い駆けて来る不良に何か出来ないかと目を配らせる。

そしてドラム缶の山が視界に入る。

ドラム缶の山を崩すのは危険だけど、ドラム缶の山のふもとに転がっているドラム缶なら使えるんじゃね? 俺は横に転がっているドラム缶に目を付けた。

「ちょっと衝撃がくるけど、落ちないでくれよ」

「うん、頑張る」

何をするのか分かったのか女不良が更に強く肩を握ってきた。

俺はペダルを限界まで漕いで、大きく旋回するとチャリの勢いに任せてドラム缶を突く。

「キャッ!」

女不良の悲鳴が聞こえた。
振り落とされないよう肩を握ってくる。それはいいんだけど、爪を立てているようでちょっと痛い。結構痛い。我慢するけど。

ドラム缶は鈍い音を立てて追い駆けて来ていた不良に向かって転がる。

「アブネッ!」

不良はどうにかドラム缶を避けたようだけど、甘い!

俺は不良に向かってチャリを漕ぎ、ギリギリぶつかるかぶつからないかのところでハンドルを切る。

その際、不良の鳩尾に蹴りを入れた。

さっき壁にぶつかりそうになった時と同じパターン。壁を蹴ってぶつからないようにするアレを、今度は人にするだけ。

あんましたくないけど今の場合仕方が無い。

チャリのスピードと俺の脚力がプラスされたキックを鳩尾に喰らった不良は呻いて片膝をついていた。 

アウチ、不良に蹴り入れちゃった。なんかもう、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!って感じ。マジどうしよう。

罪悪感というより後悔、でもヨウのダチをああいう風にしたんだし。

響子さん風に言えば当然の報いってヤツかな。


もう女不良を追い駆けて来る輩はいないようだ。


俺は確認して女不良を地面に降ろす。

女不良はヨウと銀髪不良の安否が気になるようだ。

俺も勿論気になっていて、ヨウ達に目をやる。

ヨウは大丈夫そうだけど、銀髪不良が倒れ込んでいる。ヨウひとりで凌げそうな場面じゃない。俺はペダルに足を掛けた。


「ぜぇっ、ぜぇっ……や、やっと追いついたぜッ……ケイ!」


わぁーお、そのスンバラシイ雄叫びは。

ぎこちなーく出入り口を見れば、熱気を取り巻いているアツイ男・タコ沢の参上だ! 
青筋を立てているタコ沢は俺を見据えてこっちにやって来る。

そして俺の前にやって来たタコ沢は、荒呼吸を整えもせず胸倉を掴んできた。

「か、覚悟はいいかッ、この野郎が」

「ちょ、タコ沢! タコ沢さん! 今は無理ムリムリ! たんまたんま!」

「だぁああれがタコ沢だ! 俺は谷沢だっつーの!」


「ギャアアアアアアー! ごめんって!」


やっぱり不良恐ぇえええ! タコ沢の目が、目が血走っている!

鼻を鳴らして俺を見据えてくるタコ沢に愛想笑いで「ごめんって」と謝ってみるけど効果は無いようだ。ギリギリと歯軋りして胸倉を握り直してくる。

「てへ」

可愛く舌を出してみる。タコ沢のこめかみに何本か青筋が浮かび上がった。

嗚呼、もしかして怒った? 怒っちゃった? 火に油注いだってヤツ?




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あきゅろす。
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