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02-10




不機嫌の理由が分かり、ヨウも心底呆れているようだった。

居た堪れないのか口を尖らせながらも言い訳を始めるモト。


「誰かに借りようと思っても、誰も持ってなかった限定ソフトが五千で買えたんですよ? しかも全シリーズ合わせて五千! なのに取られて…」

「だからってケイに当たるんじゃねえよ」

「オレ『パーフェクトストーリー』がしたくて堪らなかったんです。なのに取られて悔しかったんです。誰か持っている人を紹介して下さいよ!」


嘆くモトに、ヨウは呆れ返って言葉も出ないようだった。


「んなの俺が知るか。テメェで探せって」

「結構難しいと思うぜ、ヨウ。『パーフェクトストーリー』は期間限定でしか販売しねぇレアなRPGソフトだもん。予約しねぇ限りなかなか手に入らないし」

「ケイ。お前、詳しいな」


「だって俺も持っているから。パーフェクトストーリーのTからWまでの全シリーズ」


実は結構ゲームする方なのだ。ゲーマーというほどでもねぇけどさ。

するとギャーギャー嘆いていたモトが目を皿にして俺の方を見てきた。


ヤバッ、余計なことを言っちまった。

ヨウの舎弟になっている気に食わない俺がソフト持っているなんて、モトにしちゃ腹立たしいよな。

愛想笑いを浮かべながら、話題を逸らすためにワタルさんに話し掛ける。

「朝はメールどうもです。寝ちゃってすみません」

「いいよーいいよー。僕ちゃーんの伝言を覚えてくれていただけで。ケイちゃーん、盛っていたもんね」

「も、盛っていません! ついでに言っちゃなんですが彼女いません!」


「分かっているって。ケイちゃーんはからかい甲斐あるなぁ」


俺は嬉しくねぇから! ワタルさんに反論できず(勿論恐いから)ヤキモキしていると、シズから携帯の着信音が聞こえた。

シズはダルそうに欠伸を噛み締めながら携帯に出ていた。

煩いゲーセンでよく電話なんか出来るな。

感心していると、シズは眉根を寄せてヨウやワタルさんに視線を向けた。


「弥生(やよい)からだ。ハジメと一緒にコンビニに向かっていたら、奴等に喧嘩吹っ掛けられたらしい。今、川岸の廃工場に逃げ込んだらしいがハジメだけじゃ対応できない人数らしい」


奴等? それは一体、誰を指しているのだろうか。

弥生、ハジメ、という奴はヨウ達の仲間だって分かるけど。

俺以外、皆険しい顔を作っている。

ココロは「弥生ちゃん達大丈夫かな」とオロオロし始めていた。盛大な舌打ちをして響子さんは地団太を踏む。

「あいつ等っ、ハジメがあんま喧嘩デキねぇこと知って狙いやがったんだ。ちっせー奴等ッ」

「川岸の廃工場は途中までしか俺様のバイクでも行けねぇぜ。どうする?」


ワタルさんの口調が変わる。

ニヤついた表情が全くない。キレている証拠だ。

「だったら走って行くだけだ」

言うや否やヨウは上り専用のエスカレータを降りて行った。


俺が呼び止めてもヨウの耳には全く届かなかった。

途方に暮れている俺に、ワタルさんはいつもの口調で笑ってくる。


「ヨウちゃーんは誰よりも仲間思いだからジッとしてられないんだよーん。自分のメンバーの誰かが傷付いたら、誰よりも逸早く助けに行こうとする奴だから。さてと、僕ちゃーん達も行こう。バイクに乗れる組は乗ってねん」


ワタルさんが皆に指示している間も、俺は心の中で溜息をついてしまう。

不良って本当に厄介だ。

恐いし逆らえないし、俺達地味日陰組からしたら、不良は眩し過ぎて別世界の人間のように感じるし。

俺はそんな不良の中に嫌々入った。

入らされたって方が的確かもしんねぇ。


だからこういう喧嘩騒動の場合、俺は関わらなくても良いんじゃないかと思う。

ヨウの舎弟と言っても成り行きだし。


皆が行動を開始する。

シズは喧嘩慣れしてねぇ俺を気遣ってココロと一緒にいるよう言って、他の皆と一緒に階段で下りて行った。


その際、モトに睨まれた。

きっと「舎弟のクセに」なんて思っているんだろうな。

ココロは俺をチラチラ見て「大丈夫です」とはにかんでくる。


「みんな、お、お強いんです。ケイさん、あ、安心して下さいね」

「……なあ、川岸の廃工場って言ったよな?」

「え? ……ええ」


「川岸の廃工場。走っても二十分は掛かるぜ。バイクで行けねぇなら……ったく、俺って馬鹿じゃねえ?」


俺自身に悪態付いて、床に転がっている通学鞄を手に取るとエスカレータに向かった。

「あ、ケイさん」

ココロの呼び止めに手を振って俺はエスカレータを転がるように降り始める。


三階から二階、二階から一階、途中客の誰かとぶつかりそうになったけど気にせず段から飛び降りる。


店内にいた学生の集団が「何だコイツ?」という目で見られたけど、痛くも痒くも無かった。


ゲーセンから飛び出した俺は、ワタルさん達の姿を目にしながら自分のチャリに向かう。

ポケットから鍵を取り出し、急いで鍵を外すとチャリを通行路に出して素早くチャリに跨ぐ。

「あれ? ケイちゃーん?」

ワタルさんの声が聞こえたけど、完全に無視して俺はチャリを漕ぎ始める。

俺のチャリの速さなら直ぐにヨウに追いつく。風を切って俺はヨウの後を追った。






「スッゲー速さ……」

去って行ったケイにモトは目を丸くする。

あのチャリの速さ、異常じゃね? そう思うくらいケイのチャリの速さは凄き。あの速さで何処へ向かったのだろうか。

呆然と見送っているとシズからヘルメットを投げ渡された。


「乗れモト」

「あ、ああ」


ヘルメットをかぶりモトはシズの後ろに乗った。


「やるじゃーん。ケイちゃーん。気に入ったよよよん」

「そのウザイ喋り方どうにかなんねぇのか」

「響子ちゃーんったらぁ、僕ちゃーん傷付いちゃうぞ」

「ウルセェんだって。その喋り。けど、一つだけテメェに同感してやるよ」


響子の言葉の意味を理解し、ワタルはニヤニヤ笑いながらバイクに乗った。




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