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02-05



ボンヤリと昼休みのことを思い出しながら、通学鞄に教科書を詰め込む。

これから、俺、どうなるんだろう。明日、学校に来られるかどうか。

「田山」

「……利二。何だ?」

手を止めて、声を掛けてきてくれた利二の方を見る。

「本当に行くのか? 放課後……大丈夫なのか?」

「明日、俺が此処にいなかったら何かあったと思ってくれ……ッ、利二、俺、死ぬかもしれねぇええ!」

「お、落ち着け田山」


利二の肩を掴んで俺は、溜めに溜めていた気持ちを爆発させる。


「絶対死に行くようなもんだよな! なッ? 俺みたいなジッミーな奴がよ? ジミニャーノがよ?」

「ジミニャーノ……それはなんだその名称は」

「注目して欲しいのはそこじゃねえよ馬鹿。とにかく、俺みたいなジミニャーノが不良と戯れるなんて地獄に行ってきまーすっていうようなもんだろ?!」

「そりゃ……そうだが」


「としじ、せめて葬式には来てくれよ! 線香一本あげてくれたら、俺、マジ泣いて喜ぶから! お前の守護霊になってやるから!」


薄情だけど、いつも心配してきてくれる利二なら守護霊になって一生を見守ってやるぜ!

何かあったら守護霊凡人パワーで助けてやる! けど助けてやれなかったらごめん! って、そんなあからさま迷惑そうな顔するなよ利二。

俺、守護霊になってお前を守ってやるって言っているのに。

お前が結婚したらその奥さんも守ってやるつもりなのに。


利二には俺の熱い友情を感じないのか?


「僕もお線香くらいはあげてあげるよ。圭太くん。ウーン、でも守護霊になってもらっても困るかも」

「化けて出たら俺、霊媒師に頼んでお前が成仏できるよう金出してやるよ」


その声は薄情そのイチ(光喜)、そのニ(透)だな!

振り返ればやっぱりそのイチ、そのニが立っていた。

出たな、俺と同じジミニャーノめ。

他人事だからか面白おかしそうに俺を見てくる。合掌してくる光喜に腹が立って、脛を爪先で思い切り蹴ってやった。


「イッテー!」


悲鳴を上げる光喜にいい気味だと口端をつり上げる。

俺の悲痛な嘆きをその痛みで思い知りやがれ!


ふとポケットから振動が伝わってきた。携帯のバイブ音、恐る恐る取り出してみるとやっぱりヨウからだ。


『SHR終わった』


そんな文面がメールで伝えられる。


俺、終わったらヨウの教室に行くって言ったもんな。

ヤッバ待っているだろうな。

早くヨウのいる教室に行こう。待たせたら焼き入れられるって。

返信をして直ぐに片付けを済ませる。


「じゃあな」


三人に声を掛けて、教室を出て行こうとしたら利二に呼び止められた。振り返れば利二が真顔で俺を見てくる。


「荒川庸一のいる不良グループは、厄介な面子ばかりだそうだ。仮に何か身の危険を感じたら、直ぐに逃げろよ」


お……脅かすなよ、利二。

顔を引き攣らせながらも、俺は利二の助言を素直に聞き入れることにした。

「何かあったら電話してね」

透が茶化しもせず、

「何かあったら逃げるンだぞ!」

光喜が純粋に心配してきてくれる。


やっぱ嬉しいよな、こういう風に心配されるのって。こいつ等、薄情者だけど友情は感じるぜ。了解と片手を上げて俺は教室を出た。


「厄介な面子ばっかり、か」


何か危険を感じたら直ぐに逃げる、逃げる、逃げる……逃げられるのか? 俺。

根本的な問題に直面し、俺の足取りが重たくなる。 

不良から逃げるって体力とかの問題じゃないよな。

不良から逃げる=ヨウからも逃げるということで。

逃げるという手段は今後の学校生活のに対する覚悟と度胸が無いと、絶対に無理だって。

不良って何かと面倒だよな。俺、高校三年間大丈夫なのかな。


溜息をついて廊下を小走りで駆け抜けていると、前方を歩いていた男子生徒と目が合った。


ヤバッ、目が合ったよ。

なんか気まずいな。あれ、多分先輩だ。


そう思いながら、脇を擦り抜けたら「荒川の舎弟」独り言が聞こえてきた。

舎弟って俺のことだよな。

足を止めず男子生徒の一瞥。眼鏡を掛けている男子生徒は口角をつり上げてきた。


うわぁ、あの笑み、何かを目論んでいるような皮肉った笑みだぜきっと。

身震いをしながら視線を戻した。

これ以上、厄介が増えるのはゴメンだ。


何も無かったことにしよう。俺は急いでヨウの待っている教室へと向かった。




「田山圭太。あれが荒川の舎弟、ね」




光で反射する眼鏡のレンズ越しに、男子生徒が走り去っていく俺を見つめていたけれど、本人は気付けずにいたのだった。



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あきゅろす。
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