02-02
ここはキッパリ言ってやる。
「田山くん、聞いていますか」
「え……あー聞いているけど。そのーあの、別に俺だけじゃ」
「何ですか?」
相手の目が据わっている。田山は無言の威圧にダメージを受けた。
「だから……俺だけ」
「言いたいことがあるならハッキリ仰って下さい」
「何でもゴザイマセン」
どーせ世の中、アンフェアだよ。
平等なんて夢だよ夢。
恐い顔を向けられて俺は冷汗ダラダラだし。
横野に愛想笑いを浮かべて頬を掻いていたら、傍観者に回っている透と利二が視界の端に映る。
二人は何やら焦った様子で廊下を指差していた。
廊下の方を見たいのは山々だけど、俺、今、横野から視線逸らしたら瞬殺されそうなんだって。
「以後気を付けますか?」
見据えてくる横野に、どう返事を返そう。出来れば「俺だけに言うな」と反論したいんだけど。横野に反論はキツイな。
「ケイ。おい、ケイ!」
うわっつ、そのお声は。
弾かれたように横野から目を逸らして廊下側に視線をやる。
窓を乗り越えて教室に堂々入って来るのは俺の舎兄。
ヨウの登場にクラスメートの目が俺に注がれる。
嗚呼、ヤな注目。
俺的にはもっとソフトな注目のされ方を望んでいるんだけど。
俺は片手を上げて、どうにか「よっ!」と元気よく挨拶。
「はよ。どうしたんだ? メールしているのにワザワザこっち来ることないんじゃないか?」
「ワリィ。現社の教科書持ってねぇか? 忘れちまった」
意外なお言葉に俺、内心びっくり仰天。
まさかヨウが現社の教科書を求めに来るなんて。
ヨウみたいなタイプ、教科書忘れても平然としてそうなんだけどな。もしくはロッカーに教科書を置いていたりしてると思っていたけど、もしかしてもしかすると根は真面目なのかも?
たまたま現社があって教科書を持って来ていた俺は、引き出しから教科書を出してヨウに放り投げる。
片手でキャッチしたヨウは「ワリィ」って、爽やかに謝罪してきた。
イケメンの顔は今日も輝いているな。
クラスメートの女子が「かっこいい」と密かに囁かれているぜ。
女子の囁き声に気付いているのか気付いてないのか、ヨウは反応を示さなかった。
あれですよね、イケメンはそういうお声に慣れていらっしゃるですよね。
いえ嫌味ではありません。皮肉のつもりです。
決して嫌味ではありません。皮肉のつもりです。
でも少し羨ましい。俺も「キャーッ! カッコイイ!」とか言われてみたい。容姿の時点でアウトだけどさ。
ヨウはといえば、あろうことか学級委員の目の前だというのに平然と俺の机に座ってきた。
「行儀が悪いです!」
横野の注意をスルーして俺に話し掛けてくる。
お前、強いな。羨ましいくらいだぜ。喚いている横野もスゲェと思うけどさ。
「ケイ。今日分かっているよな?」
「分かっているって。ワタルさんから伝言聞いたし。けどさ、なんでワタルさん。あんな時間に電話なんて掛けてきたんだ? 俺、マージ眠い眠い」
「そういやワタルとの電話の途中で寝ちまったんだって?」
「だってよぉ。ワタルさん、四時半に電話を掛けてきたんだぜ? 新聞屋もまだ来てねぇって」
「の、ワリには、よく俺の伝言憶えていたな」
「ワタルさんが直々に『僕ちゃーん伝言一回しか言わない主義だからね♪』ってメールを下さっていたんで。おかげで思い出すのに苦労した」
早朝、目を覚まして俺、マジビビッた。だってワタルさんからメールがあって、『だから二度と言わないからね』とか画面で出てあったんだぜ。
ワタルさんとの電話は夢だと思っていたのに。思い込んでいたのに。
ただでさえ不良に慣れてない(というか恐い)っつーのに、堂々と「伝言? 何それ? 何処のお方の伝言?」なんて聞いてみろって。
俺、ワタルさんに完璧焼きいれられる。
ワタルさんにカツアゲされる。
ワタルさんに殺される。
ついでに伝言を寄越したヨウにも殺されかねない。
朝から半泣きで必死に記憶を巡らせたよ。思い出そうと躍起になったよ。
朝飯、喉を全く通らなかったよ。
傍から見たら俺の顔は相当切羽詰っていてマヌケだっただろうな。
どうにか思い出せた時の、あの、言いようの無い嬉しさと言ったら、もう、言葉に出来ないぜ。
「忘れていたなら、俺に聞きゃ良かったんじゃね?」
お、おまっ、俺の努力と感動に水を差すなよ、なんてツッコめない俺は、顔を引き攣らせながら「そうだな」って愛想笑いを返す。
お前には分からないんだ。
この苦労と恐怖心と闘った俺の気持ち。そりゃお前の言うこと、ご尤もだけどさ。俺はお前に殺されないよう。
「ま、それはどうでもイイとして」
しかもどうでもイイ言いやがったなお前。
「ドタキャンすんなよ? ケイ」
「するかよ。有り難く行かせて頂きます」
俺、放課後にヨウと遊びに行くことになっているんだ。
ヨウは俺に自分のダチを紹介してくれるんだってさ。
はははは、終わった。ヨウのダチって言ったら不良、不良、これまた不良の集まり。
日陰凡人男子生徒が日向組不良に会うんだぜ。
ヨウはきっと俺を舎弟だって言うだろうな。既に舎弟がいると言っているみたいだし。
嗚呼、どんな白けた眼が飛んでくるんだろう。
想像するだけで胃が痛む。
俺の心情を知ってか知らずか「気の良い奴等バッカだぜ」、笑いながら背中を叩いてきた。
そりゃヨウにとって気の良い奴等でも、俺にとって気の良い奴等か分からないじゃないか。
「アイツ生意気。やっちまおうぜ」になんないかなー。憂鬱だ。不安だ。行きたくない。断れない俺、非常に情けないぜ。
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