01-13
「遅ぇ。何していたんだよ」
昇降口には不機嫌顔を作っているヨウが、俺のことを待っていた。
不機嫌顔な不良って、やっぱり恐いよな。
何かちょっとしたことでカチンってきて殴られそう。
俺は両手合わせて必死に謝る。
人間、全身全霊で謝るのが最善の手だと俺は思うぜ。
ヨウは俺に怒っているようじゃないみたいだけど、ブツブツなんか文句を垂れていた。そしてヨウは赤髪の不良さまにガンを飛ばす。
まさか、手を抜いて仕事をしたんじゃ? って目つき。恐ッ。
恐怖心を抱いている俺とは対照的に、赤髪の不良さまは「俺はちゃんとした」とぶっきら棒に腕を組んだ。
ヨウに負けたくせに、なんでこの人は喧嘩腰なんだろうか。またヤラれたいのだろうか。
「どうだか」
ヨウは呆れた。
赤髪の不良さまは口元を引き攣らせながら、「ちゃんとしたっつーの!」って反論してる。
この人、負けたくせに口答えするって度胸はあるよな。
「タコ沢。もう少し使えるようになれよ」
「だぁああっれが、タコ沢だ! 俺の名前は谷沢。谷沢元気だ!」
「谷沢元気?」
「ああ、こいつの名前」
めっちゃ意外。
赤髪の不良さまの名前、元気っていうんだ。
何だか可愛らしい名前。
しかもある意味、本人にぴったりだ。
威勢のイイところとか、メチャクチャ吼えるところ(と言ったら俺、ぶっ殺されそうだけど)とかさ。
で、どうしてタコ沢? 首を傾げる俺に、ヨウの不機嫌面が崩れた。
「頭にタコウインナーが乗っていただろ? あれ、お似合いだったし髪の色的にもあのタコウインナーに似てた。だから、タコ沢」
「あーなるほど。面白いネーム付けるなぁ」
「だろ? こいつにピッタリだ」
「誰のせいでタコ沢になったと思ってやがる!」
吼えるタコ沢が俺を指差す。
十中八九、俺のせいのですね。すみません。
けど、意外と似合っていますよ。タコ沢元気って。
ヨウが「こいつタコ沢だからな」と言うから、俺は何の躊躇いも無く頷いてしまった。
悔しそうにタコ沢が握り拳を作っている。ヨウはニヤリと笑ってタコ沢の肩に手を置いた。
「悔しかったら、俺に喧嘩で勝てよ。タコ沢くん」
「ッ〜〜〜!」
「ま、今のところ。百回やっても俺に負けるだろうけどな」
「クッソーッ!」
「あと、パシリくんなんだから俺の事は“さん付け”だぜ? そりゃそうだよな。この俺に喧嘩売ってきた身の程知らずなんだし、尚且つ負けたんだもんな」
意地の悪い笑みを浮かべているヨウに、俺はさっき感じた“尊敬”とか“感動”はただの勘違いなんじゃないか? と思ってしまった。
というか、タコ沢に喧嘩売られて、ヨウは頭にきたんじゃないか? 自分に喧嘩売るなんてフザケるな! みたいな。
前回、前々回のこともあるし、今回タコ沢をメッタメタにしてやろうって思ったんじゃねぇかな。
しかも今回はそれだけじゃ済まさねぇって、自分のパシリに……やっぱ、俺の分の仕返しはついでのまたついでじゃないか! 尊敬とか感動って思った気持ち撤回!
「ちなみに、舎弟のケイをダシにして俺を倒すなんざ汚い考えは止せよ? そんなの面白くねぇから」
「俺は汚い手を使うつもりはねぇ。堂々真っ向からテメェに勝ってやる! そして舎弟にもな!」
「ゲッ、俺も入るのかよ!」
「テメェのせいでタコ沢になったんだ! いつかこの雪辱を晴らす!」
吼えるタコ沢は俺達を交互に指差し「覚えとけー!」って、吼えながら去って行った。
何だかんだで恨みを買ってしまったぞ。そしてつくづく煩いな。タコ沢って。
俺の隣でヨウが意地悪い笑みを浮かべながら、「俺に勝てるかよ」って自慢げ且つ盛大な独り言。その自信、俺に分けて欲しいぐらいだ。
「そういえば、ワタルさんは? 一緒にコンビニへ行ったんだろ? 昼休み、姿を現さなかったけど」
「ワタルはコンビニ先で喧嘩売られたから買っていた。俺は面倒だったから戻って来たけどな。出席日数、稼がねぇと後々面倒だしな」
「喧嘩売られッ」
やっぱり俺は厄介な人達と一緒にいるんだ。どうしよう。舐められないように明日からキンパにしてみるか?
……いやいやいや、残念ながらそんな度胸は無いぞ! 心の中で慌てふためいていた俺は、ふとあることに気付く。
「なあ、何で俺を待っていたんだ?」
「そりゃ一緒に帰るため。チャリ置き場行こうぜ」
こいつ、まさかのまさかだとは思うけど俺のチャリに乗るつもりじゃ。
今の時代、ニケツは罰せられること知っているのか。この前は特別だったんぜ! とかいっても、結局俺はヨウと一緒にチャリ置き場に行く羽目になる。
どうせ俺に断る度胸なんてないよ。まったく無いよ。
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