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00-06



「いいか、しっかり肩に掴まっていろよ。少々運転が荒くなるから」



言うや否や俺はペダルを踏んでチャリをかっ飛ばした。

人間二人分の重みがペダルにのし掛かってくる。


けど重みを感じる余裕はない。

なんでかって、あいつが追い駆けて来ているからだよ! チャリ相手に根性を見せてくる不良さまは、俺達を捕まえようと全力疾走。


荒川は後ろを振り返って、「頑張るなあいつ」能天気に笑っていた。笑い事じゃないぞ、この状況。


くそう。単にチャリを走らせているだけじゃ、捕まる可能性があるな。確実に撒かないと。


「荒川。路地裏に入る。急カーブにご注意を!」

「うをっつッ!」


右にハンドルを切って路地裏に逃げ込んだ俺は、不良を撒くためにチャリの速度を上げる。

「スッゲェ」

こんな細い道を難なくチャリで通れるなんて、荒川庸一は褒めを口にした。

嬉しいけど、できることなら別の場面で褒めて欲しかったんだぜ!


背後から怒号が聞こえる。

後ろを一瞥すれば見る見る姿形が小さくなっていく不良さま一匹。


いける、確実にあいつを撒ける。


俺は渾身の力を込めてペダルを漕ぎ続けた。

路地裏は日当たりが悪いせいか、視界が悪く、しかも道々に障害物が散乱している。


でもそれを気にしていたら絶対に撒けない。

ハンドルを使って器用にかわし、俺は細い路地裏を颯爽と駆け抜けた。

そのまま大通りに飛び出すと、俺はチャリを漕ぎ続けて近くの川原まで逃走。


さすがについて来れなかったようで、不良の姿形気配はない。

十二分に安全を確認し、俺はブレーキをかけた。


「ふうっ。ここまで来れば、もう大丈夫だと……はぁ、疲れた」


グッタリとハンドルに凭れ掛かる。

同乗している荒川は、「やばかった。マジオモレェよ、チャリの後ろ」大はしゃぎしている様子。

乗っているだけは良いよなぁ。俺は必死でペダル漕いでいたんだけど。


それにしても死ぬかと思った。

まさか不良に追い駆けられる日が平和主義者の俺に訪れるなんて、アンビリバボー。


チャリから降りた荒川は、まーだ絶賛してくれているのか、

「テメェ。チャリの腕スゲェじゃんか!」

あんな路地裏をスイスイ進めるなんて凄いと褒めてくれる。


「伊達にチャリ爆走男じゃねえなテメェ! チャリの後ろ、超楽しかったぜ」

「ぼかぁ、チョー疲れましたヨ。もう駄目っす。終わりましたっす。シンドイっす。青春の全部を今の騒動に費やした気分だ!」


おどけに、「じゃあもう枯れるしかねえじゃん」荒川は笑声を上げ、「枯れるはひでぇよ」俺も笑声を上げた。


なんでこんなに親しくなったかな俺達。

馬の骨が合ったってヤツ? 不良と仲良くするなんて、変な感じ。俺は不思議な気持ちを抱いた。


きっと、あれだよな。

今まで地味な奴等とバッカ接してきたから、日向人間と仲良くするのが俺には眩し過ぎるんだな。


ま、もうこうやって接する機会はないと思うけど。あって欲しくないけど!


「あ、そうだ。荒川、気分直しにもう一枚ガム食べる? 今噛んでいるヤツ、味がなくなっただろ?」


いそいそとブレザーのポケットを探ってガムを探す。

「気に入った」

荒川の意味深な独り言に、「ん?」どうした? 俺は相手を見つめる。チューインガムを取り出して相手に差し出すと、一枚それを抜き取りながら荒川が柔和に綻んだ。

「荒川?」

首を傾げる俺に、

「ヨウだ」

仲間からはそう呼ばれていると返事された。

ますます心情が読めない。

荒川庸一だからヨウだってあだ名は分かるけれど、それを俺に伝えてどうするんだよ。


「このあだ名を呼ばせる人間は少ねぇんだ。テメェにならいいって思えた」

「んー、そりゃどうも? お前の価値観についていけてねぇからよく分からないけど。お前がヨウって呼ばれたいなら、そう呼んでも」


「お前は今日からケイだ」


困惑気味に返答していると、荒川、じゃね、ヨウが更なる混乱に貶めた。

田山圭太だからケイだとあだ名を付けてくれるヨウ。

口角を持ち上げ、


「俺達。初めましてにしては気が合ったし、テメェは見た目に反してオモレェし、このまま逃すのも惜しい。だから俺はテメェと兄弟を結んでみようと思う」


淡々と語る不良に俺は目を点にした。

兄弟を結んでみようと思う? 兄弟? それって兄弟分のことだよな?


――まさか。


「ケイ、俺はテメェを舎弟にする。お前は今日から俺の舎弟だ」


持っていたガムを地面に落としてしまった。

呆けた顔で相手を見やると、自信あり気に笑みを浮かべている不良一匹。断る選択肢は持たせてくれないようだ。


勿論、俺の本音はじょ、冗談じゃない! 俺なんかが荒川庸一の舎弟になんかなったらパシリ決定じゃないか! である。

短いながらも長い高校三年の学校生活をパシリな日々で埋め尽くしたくはない。


だから表向き謙遜してみせた。


「い、いいよ。舎弟なんて大それたこと、俺なんかができるわけないし。喧嘩とかやったことないぞ」

「もう決めた。俺はテメェを舎弟にする。なんか問題でもあんのか?」

 
大有りだよバカヤロウ! お前の舎弟になったら俺の高校生活がめちゃめちゃだ!


毒言したいけれど、不良相手に反論できるほど俺も勇敢な人間じゃない。

始終引き攣り笑いを浮かべ、不良の申し出に首を縦に振るしかできなかった。


この些細で気まぐれな出来事が、後々の俺の人生を大きく変えることになるなんて、その時の俺は知る由もなかった。





to be continued...




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