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00-02




(ふ、所詮世の中は顔なんだよなぁ。世知辛い!)


俺なんて女子からろくすっぽう相手にされたこともない。

可愛らしい女子生徒を見る度に、「あ。タイプ」と胸を躍らせるものの、そういう子は大抵顔のいい奴に取られていく。もしくは顔のいい奴にしか興味がない。

俺の顔ってパッと見の平々凡々。

簡単に言えば普通なんだフツー。頭の良さも運動能力も平均並。

クラスの中で目立つタイプでもないからさ。


女子の皆さんの中には俺の顔を見て「えっと……」と、一生懸命に名前を思い出そうと首を捻ってくれる方がいるほど、地味で平凡なフツーの男子生徒なわけ。女子の皆さんにとって魅力は皆無だろう。


そんな地味男には、じっみーな奴等しか寄ってこない。

『類は友を呼ぶ』ってヤツかな。


地味で平凡なフツーくんには、これまた地味で平凡なフツーくんが落ち着く。

文句はないよ。

気の合う奴とつるむのが一番だしさ……そうだよ、俺は今日(こんにち)まで地味に、平和に、教室の片隅でひっそりと生きてきた筈なんだよ!


(なのにっ)


放課後、恐々体育館裏に足を踏み入れた俺は待ち人となっている男子生徒に悲鳴を上げたくなった。


学校一の問題児と称されているイケメン不良が携帯を弄りながら俺を待ってやがる。醸し出されているオーラが神々しい、いや魔々しい!

あれで俺とタメ、同じ人種、同じ性別とか嘘だろ。

次元の違う人間に思えるんですけど!

お前、三次元の人間じゃないな! 高校生の分際でキンパに赤メッシュとか、ありえねぇだろうよ! お前は二次元の住人か!


「んっ、来たか? 田山」


校舎の壁に背を預けていた荒川は、気だるそうに携帯を閉じて上体を直立させる。

どーも。遠慮がちに手を振り、「大変お待たせしました」田山は今、到着しましたとぎこちないスマイルを向けてみる。


それに対し、キャツは「ん」と、返すだけである。


えーっと……それはどういう「ん」なの?

別に気にしていないの「ん」なの?

それとも待ちくたびれたの「ん」なの?

はたまた別の意味が含まれている「ん」なの?


一文字で返事されても田山、わかんないんですけど。


ここで地味友相手なら、ごっめーん。待ったぁ? 支度に手間取っちゃって。おデートだから張り切っちゃったのぉ、とかノッてみるんだけど相手はイケた不良。

そんな馬鹿な真似はできっこない。

した日にはグーパンチで向こうまでぶっ飛ばされそうだ。


(見た目からしてもこいつとは馬が合いそうにないな)


よくあるじゃん?

初対面ながら、喋ってみたら「こいつと気が合わなさそう」と思ってしまうあれ。俺も今まさにそれを胸に抱いているところだ。

段を下りた荒川が砂利の絨毯に足をつけ、俺と向かい合ってくる。

数拍の沈黙がおりた。


なに、この沈黙。

胃が痛む静けさなんですけど。それだけ相手が怒ってらっしゃるとか?


いや、それはないだろ。

俺、荒川とは確かに同級生だけど別クラスだし、一度たりとも会話を交わしたことがない。

相手が有名すぎるから存在を知っていただけで、俺とこいつの間に接点はない筈だ。

俺は彼を怒らせるようなことなんて一切合切していない!


では何故に呼び出されてしまったのだろうか。

おかげさまで俺は午後の授業中胃痛に悩まされたし、地味友には心底同情をされたよ。

同情するならついて来てくれる優しさが欲しかったんだけど、俺の地味友はそれ以上のことはしてくれなかった。

お友達ならもっと心配してくれたり、手を差し伸べて一緒に行こうか? と申し出てくれたりしてもいいと思うんだけど。

……それどころかあいつ等、明日にでも話を聞かせろよと言わんばかりの眼を飛ばしてきたという。まじ、あいつらの良心を疑ったぞ。


ああもう、ダンマリしても話は進まない。

ここは勇気を持って、圭太、いっきまーす。 


「あのー」

「あ゛?」


「いえ、何でもないデス。失礼しまシタ」


見事に撃沈。

俺は軽く視線を逸らし、(あいつおかしい!)なんで母音に濁点をつけるんだよ! 正しい日本語使えてねぇんじゃねえの、あの不良! と心中で荒れ狂っていた。

振り絞った勇気も半分にポッキリ折れてしまったじゃないか! 怖ぇよ不良っ、ガチで泣きたいんだけど!


(呼び出したのはそっちじゃないか。なに、この焦らしプレイ。俺はこんなプレイをされても嬉しくない)


生憎田山はそういう趣味を一抹も持っていないんですよイケメン不良さん。



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