イケメン不良より美女に呼び出されたかった
「なあ、テメェが田山(たやま) 圭太(けいた)だろ?」
地味くんが地味に学校生活を送っている一番の理由はこれしかない。
ずばり、目立つ面倒事に巻き込まれたくない、だ。
髪染めや眉剃りをすれば校則違反だのなんだの学年主任から口酸っぱく言われ、反骨精神を見せれば小生意気だと担任に反感を抱かれる。
だからと言って教師と仲良くするようなタイプでもない俺は、相手の反感を買わないよう気をつけつつ、けれど極力関わりも持たないよう穏便に過ごすことを第一としていた。
教師の反感を買ってもロクなことがないと分かっていたし、俺自身、センセイダイスキ! と、騒ぐような人間でもない。
クラスでは日陰人間として位置づけられているのだから、自分から率先して目立つという行為を振る舞いたくないのである。
「そうだよな。お前が田山だろ?」
なのにどうして俺は今、クラスメートから大注目を浴びているのであろう。
それは穏やかに時が流れている昼休みのこと。
友達とガンプラの話題で盛り上がっていた俺は、突然の訪問者に食いかけのタコさんウインナーを弁当箱に落としてしまった。
おずおずと相手を見上げれば、決して今後の学校ライフにおいて俺とは関わりを持たないであろう他クラスの生徒が突っ立っていた。
一言でいえば“目立つ人間”に属されているそいつの身なりは、金髪に前髪赤メッシュとやたらチャラけている。
ピアスといい、乱れた服装といい、俗にいう“不良”に位置づけられる人間は俺を見下げて、片眉をつり上げていた。返事を待っている様子。
「え、あ、田山は俺ですけど」
ぎこちなーい笑みを作ると、
「放課後、体育館裏に来いよ。てめぇに話があるんだ」
用件はそれだけだと片手を挙げ、さっさと教室を出て行く。
ぽかーんとしている俺の顔から見る見る血の気がなくなった。
「うそだろ。あ、あ、荒川(あらかわ) 庸一(よういち)に呼び出されちまった」
◇
荒川庸一。
その名を知らない生徒は学内にはいない。
良し悪し両面で目立つ生徒だと、最初に説明しておく。
まず後者の面を説明させてもらおうと、こいつは俺とタメであり、学校一の問題児だ。
喧嘩に荒れ狂う不良だと教師達に酷評されている。腕っ節が強く、そうそうこいつに太刀打ちできる人間はいない。
喧嘩ばかりして学校の評判を落としているから、悪い意味で目立っている生徒なんだ。
べつに俺の学校は不良校じゃない。
けれどキャツの功績のせいで知名度が下がっていると言っても過言じゃない。
次に前者について説明する。
良い意味で目立っているとはなんぞやもし?
……答えはひとつ、こいつのイケた顔が女子に大人気なんだ。
すんげぇイケメンなんだよ。超イケメン。
男の俺からしたらぺっぺっぺ、と唾を吐きかけたくなる面だけど(嫉妬? おおう、嫉妬だよバカヤロウ!)、女子からしたら黄色い悲鳴の嵐だ。
不良に加えてイケメン。悪メンと呼ばれた奴の存在にファンの女の子も多いとかなんとか。いっそ爆発しちまえばいいのにな!
大体さ。最近のドラマや映画は、昔以上にイケメン俳優ばっかり主役を演じているよな。
恋愛モノでも友情モノでも、イケメン。イケメン。イケメン。エンドレス。
絶対に女をターゲットにしているだろ? ツッコミを入れたいくらいに、イケメンばっか主役を演じている。
いや、そりゃさ。ブサイクがドラマの主役を受け持っても、そう高視聴率は取れないし受けも悪いと思う。
イケメンが主役じゃないドラマもあるけど、ゴールデンタイムに放送される最近のドラマの主役といったら、やっぱイケメンが多いと思うんだ。マジで。
(ふ、所詮世の中は顔なんだよなぁ。世知辛い!)
俺なんて女子からろくすっぽう相手にされたこともない。
可愛らしい女子生徒を見る度に、「あ。タイプ」と胸を躍らせるものの、そういう子は大抵顔のいい奴に取られていく。もしくは顔のいい奴にしか興味がない。
俺の顔ってパッと見の平々凡々。
簡単に言えば普通なんだフツー。頭の良さも運動能力も平均並。
クラスの中で目立つタイプでもないからさ。
女子の皆さんの中には俺の顔を見て「えっと……」と、一生懸命に名前を思い出そうと首を捻ってくれる方がいるほど、地味で平凡なフツーの男子生徒なわけ。女子の皆さんにとって魅力は皆無だろう。
そんな地味男には、じっみーな奴等しか寄ってこない。『類は友を呼ぶ』ってヤツかな。
地味で平凡なフツーくんには、これまた地味で平凡なフツーくんが落ち着く。
文句はないよ。
気の合う奴とつるむのが一番だしさ……そうだよ、俺は今日(こんにち)まで地味に、平和に、教室の片隅でひっそりと生きてきた筈なんだよ!
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