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17-05



まさかの事態に息子の俺は唖然。


だって父さんはそういう風な争いごとがあっても他人事だからだと、絶対に口出しはしないのに。平和主義者なのに。ついでに電波な不思議ちゃんなのに。

「此処は病院ですから」

父さんはそう、やんわり止めてヨウに味方。それは俺もヨウも、そして向こうの両親も驚く光景だった。愛想よく挨拶して、息子の怪我について物申す。


「圭太の怪我は庸一くんのせいじゃありませんよ。二人とも男の子だから、ちょっと馬鹿をして入院をしただけです。男の子ですから、やんちゃなくらいが丁度良いんです。馬鹿を見るのも二人ですけどね。入院費は追々は大人になってから親孝行する形で返してもらえればいいと私は思うのです。
それに庸一くんはとても良い子ですよ。圭太と凄く仲良くしてもらっていますし、泊まりに来てくれた時は何かと家の手伝いをしてくれます。ご自慢すべき息子さんだと思いますよ。イケたお顔も含めてね」


相変わらず父さんは場の空気も読まず、マイペースにのほほんと意見を述べる。


「親の我々が子供達にできることは、今の我が子の姿をしっかりと見てやることじゃないでしょうか? それに荒川さん、親に迷惑を掛けない子供はいませんよ。子供は親に迷惑を掛けて育つもの。違いますか?」


俺の父さんの庇いたてに興ざめをしたのか、ヨウのお父さんは「他人の貴方達には分からない」家族はいい迷惑をしている、と暴言を吐いて踵を返す。

病室に一分一秒いたくなかったのか、そそくさと出て行ってしまった。それを追うのはヨウのお母さん。

息子を一瞥もせずに、夫の後を追ってしまった。和解はできなかったみたいだ。


だけど父さんはそういう状況になると分かっていたようだ。
他人が指摘をするだけ、相手の怒りを煽るだけだと察していたらしい。

苦笑いを零し、不慣れなことに首と突っ込むものじゃないな、と本音を漏らして肩を竦めていた。

母さんは父さんの勇姿に笑声を零したけれど、庇われた本人はまったくの想定外だったのか、

「なんでだよ」

父さんに疑問を投げた。
他人の自分を庇い、肩を持ってくれた父さんの行動や気持ちが分からなかったようだ。目を白黒し、ただただ疑念を口にしていた。

すると父さんは何を思ったのか、険しい顔でヨウのベッドに歩むと不意打ち痛烈の拳骨。悲鳴を上げるイケメンくんに対し、息子の俺は愕然。もう父さんのやることなすことについていけなくなっていた。


「今のは当たり前の罰だよ。庸一くん。もう、おじさん達を心配させないでくれ。君はそのままでいい。やんちゃは大いに結構、けれど……おじさん達を悲しませることは感心しない」


力なく頬を崩した父さんは他人の子供に目じりを下げ、両肩に手を置く。

たったそれだけの言葉は、生涯俺の胸に留まる……温かなもので情愛溢れていた言の葉。父さんはヨウを本当に心配していたんだ。それはきっと母さんも同じなのだろう。スツールに腰を掛けて微笑を零していた。

「また気兼ねなく泊まりに来なさい。庸一くんが来たら家はにぎやかになる。煩くなる、の間違いかもしれないけれどね」

「おじちゃん……」

「ただし、田山家のルールは父さんにある。君だって例外じゃない。泊まりに来たら、それに従ってもらうよ」

片目を瞑る父さんがイケメンを抱擁して、頭を荒く撫でたのは直後のこと。

「お、おじちゃ!」

まったくもって行動が読めない父さんにヨウは始終戸惑いを見せ、これはハズイと主張していたけれど、父さんは完全に無視。これも罰にしようかな、と言って何度も頭を撫でていた。


いつも父さんは電波系マイペース、母さんは口喧しい。そんな親を鬱陶しい思うことは多々ある。


でも、ああやってヨウに言葉を掛ける父さんを見て、微笑ましそうに見守る母さんを見て、ちょっとだけ親を敬おうと思った。

ちょっと、いや、友達のことも親身に心配してくれる親のことをちゃんと敬おうと思った。心配やメーワク掛けたことも、いつか親孝行ってカタチで返そう。そう、心中で思った。


その後、両親はひとみさんに挨拶。
解放されたヨウはといえば、ぼさぼさになった髪をそのままに俺にこっそりこんなことを漏らしてくれる。


「大人って上から目線で汚い奴ばっか。正直、大人にはなりたくもねぇと思っていたけど。俺、ケイのおじちゃんおばちゃんみたいにならなりてぇかも。やっぱケイの両親好きだ……んーたださ」


「ただ?」

「さっきの拳骨は親父の張り手より痛かった。加減してもくれなかった。おじちゃんパねぇよ。ハッズイことはしてくれるし……ノリ良く抱擁を返せば良かった」


おどけと苦笑いを口にするヨウは何処となく穏やかな表情だった。

うん、分かる。
俺も父さんに何度も喰らったから。

苦笑いで返し、拳骨の痛さについては親身になって同情してやった。

抱擁については冗談まじりに、「これでお前も田山家の人間だな」と返事する。

「まじなりてぇよ」

苗字を田山にしてしまいと舎兄は諸手を挙げ、自分の父親に垢を煎じて飲ませてやりたいと皮肉っていた。


こうして入院した俺達は、ちょっとした大人と子供のトラブルや交流を経験。これは大敗という現実を少しだけ忘れさせてくれるエピソードだ。



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