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16-13



まだ各々メッシュをやめていないことに舌を鳴らしつつ、思い出してしまった黒歴史に苦悶しつつ、出方を窺いながら素早く移動。


一方が駆ければ、一方も駆ける。  


「ああ。くそめんどくせぇ」


ヨウはまどろっこしい戦法は嫌いだと使い道も見えぬ大型機械に飛び乗って上から攻めた。

足場の悪い機械から機械に飛び移って思考を回す間も、息をつく間も与えずヤマトの前に着地。宙を切り裂くように拳を振り下ろした。的中、脇腹に入った。

「単純戦法め」

幾分余裕を消すヤマトは脇腹をそのままに、自由の利く右腕を振った。

リーチの差で軽く首に入ったが、難なくやり過ごした。が、次の飛び膝蹴りは予想外。辛うじて鳩尾は避けたが、腹部に入ったことは変わらず、ヨウは一旦後退せざる得なかった。


さすがは向こうチームの頭、今までの相手とはワケが違うし、身のこなしも違う。

過大評価しているわけではないが、自分は近所で名の売れた不良。

ゴロツキ相手ならばそう簡単に拳や膝を頂かないのだが、自分と肩を並べるように名の売れているヤマト相手だとそうもいかない。

なんと言っても自分の永遠のライバルであるからして……いや、ライバルなんて好(よ)き響きの相手でもないのだが……とにもかくにも自分にとって不倶戴天(ふぐたいてん)の敵。


一筋縄じゃいかないことくらい、容易に想像が付いていた。


けれどこいつにだけは絶対に負けたくない。

相手に負けるイコール、チームの敗北。それだけは絶対にご免だ。
頭のプライドに懸けて、相手を討ち取らなければチームメートに顔合わせもできない。
それにヨウ自身、もう嫌なのだ。大事な仲間が傷付いて消えていくなんて。

最初は小競り合いに仲間が傷付くだけだった。
喧嘩のできる者には喧嘩の強豪と呼ばれた不良が現れ、主に喧嘩のできない者は喧嘩の飛び火を食らい、各々怪我をする。

それが次第にエスカレートしていき、ついには大事な仲間を失ってしまった。

一時離脱も何もカンケーない。
現に仲間がチームから消えてしまったのだ。一時的でも仲間が消えてしまった。

チームメートは今、何処の病院にいるか分からないし、容態も見えぬ一方。

大丈夫、絶対に戻って来ると励まされたし、自身も戻って来ると信じてはいる。しかし完全に不安が拭えたわけではない。

もしかしたら、と脳裏に過ぎることも多々ある。ハジメは戻って来るだろうか(戻って来ると信じていないとやってられない)。

この対立をなあなあにするだけ仲間が傷付き消えてしまう。


だから終わらせる、終わらせるのだ。

中学に始まった対立・衝突・因縁、すべてを終わらせるのだ! 今日で必ず!


直球単純不良と称されてもいい。
自分はなりふり構わず、相手を討ち取る。例えば骨折したとしても、自分の決意を壊すことはできない。

相手が変化球深慮不良であろうと、乱心を誘惑した元セフレであろうと、誰であろうと!

両足首に力を入れ、持ち前の瞬発力を生かすと、風を切るように駆けて相手の懐に入る。

悪い意味で長年の付き合いだ
。向こうもある程度、読んでいたのだろう。

入れる拳を手の平で受け止めてきた。

握り潰さんばかりに握力を入れてくるその手を無視し、額に左肘鉄砲。

「チッ」

今のは効いたとしかめっ面を作ってくる相手は、やや怯みながらも左ストマックブロー(鳩尾を狙うボディブロー)。

先程から連続的に腹部を狙われているヨウは、この攻撃に耐えかねた。

思わず膝を折って腹部を庇う。その隙に相手が蹴りを顔面に入れてくるものだから、口の中が切れた。

尻餅だけは避け、床に手をついて疼く腹部を庇いながら相手の膝裏を足の甲で思い切り叩く。

「ヅッ!」

膝かっくんが似つかわしいその攻撃、ヤマトは見事その場に尻餅をついた。

「ザマァ!」

ぺっと不快な血の味がする唾をその辺に吐き、ヨウは相手に馬乗り。
勢いよく拳を振り下ろし、顔面を蹴ってくれたお返し。相手も負けていない。拳を受けながらも、上体を起こす。

同時に頭突き。その反動を生かして頭突き。激しい攻防戦が続く。

「テメェだけはマジ、最初から気に食わなかった! さいっしょっからな! その辛気臭い面を何度引っ叩きたかったか!」

手早く張り手、乾いた音が三階に響く。

「そりゃこっちの台詞だ! 貴様ほどっ、そのイケた容姿を崩してやりたくなる奴はいなかった! イケメンのくせにこの女ベタ!」

こめかみに右フック、ヨウの呻き声一つ。

「テメッ、言っちゃならんことを言いやがったなっ。帆奈美を寝取った阿呆が! そのイケたキザな性格っ、マジ惚れそうだった! 嫉妬対象もイイトコロだ!」

再び左フック、痛みにヤマトが吐息一つ。

「そーかよそーかよ。だがな、大体俺の欲しいのは貴様が先に掻っ攫っていくんだよ! その単純を振り撒いて仲間に媚び売る。ムカつく!」


お返しのビンタ、乾いた音が再び三階に響いた。


「いっつ俺が媚売ったってヤマト?! 俺を女みてぇな表現で飾るな! 自分こそ仲間を意のままに扱えます、根こそぎ奪えます的な態度取りやがって!」

「あ゛? ンなジャイアニズム取った覚えねぇぞ阿呆荒川が! 貴様の残念な目は大概使えねぇらしいな。眼科に行け!」


「ッハ、俺の目は正常ですー。テメェこそ歪んだ性格、医者に診てもらった方がいいんじゃねーの?! 少しは更生できるんじゃねえか!」

「ケッ、だったら貴様は園児からやり直して来い。もっとも? 園児の方が貴様より断然優秀だろうがな!」



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