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15-15





「ッ、ハンドルが取られる」



脳みそが右に左に揺れているような感覚に襲われながらも必死にハンドルを握り締めた。

俺が怪我するよりも、ヨウが怪我する方が痛手だ。どうにかの乗り切らないと!

今まさに階段を上ろうとしていた主婦の方がアリエナイ下り方をしてくる俺等に驚き返って、咄嗟な判断で道を開けてくれる。

聡明な判断をありがとう、おばちゃん。助かりましたぜ! さすがに人を轢かないかどうか、判断するまでの余裕はないから!


驚愕している主婦を余所に俺は最後まで階段を下り切ると、ハンドルを切って民家のコンクリート塀に激突しそうになるスピードの出ているチャリを右の足裏で止めた。

ジーンッと痛む足裏に俺は身震い。
一連の流れの中で一番痛かったかも。

今のはナイ。痛い、マジで痛い。

「ヅッ…っ」

右の足裏を地面に擦り付けて身悶えする俺。
一方でヨウがぐったりと凭れ掛かってきた。アウチ……重いぞ、ヨウ。ついでに足の裏が痛いっ、真剣に痛いっ、痛いっ。

だけどヨウはそれどころじゃないらしい。
痛みに悶えている俺を尻目に重々しく溜息をついて、もう二度とごめんだと前髪を掻き上げた。

「じゅ、寿命縮まるかと思った。ケイ、先に相談してくれね? 喧嘩よりやばいって、これ。神経磨り減ったぁ」

「言っただろ? 笑えないって」


「笑えねぇどころじゃねえ。死ぬかと思った。こんなの聞いてねぇ……」


あー確かに何が笑えないかは言っていないけど。  

でもでもでもおかげでバイクの音が上で行き場をなくしている。
どうすりゃいいか分からないんだろうな。

二度としたくないけど、ぜぇえってもうしたくないけど、『バイクは階段を下りることがよっぽどの度胸が無い限り不可です』作戦は成功みたいだ。

此処からの裏道はチャリもしくは徒歩でしかいけない。それに随分、近道にもなった。真っ直ぐ大通りに出て目的地に向かうだけだ。

いやぁ今のアクションはマジで冷や冷やしたぜ。
此処でずっこけたらとんだお笑い種だもんな! 決意した友情の円陣の直後の怪我。笑えねぇ! 仲間には大笑いされそうだけど!

俺はヨウに上体を起こすよう頼んで、ペダルに足を掛ける。

こんなところでアクションの生還に浸っている場合じゃない。俺達の目的は一つしかないんだからな。

ペダルを踏んで力強く漕ぐ。静寂な住宅街を突っ切って、風を頬で感じて、髪を微風に靡かせて、大通りへ。

そこから一直線上に道をなぞる。
通行人が行き交いする中、刺客がいないかどうか警戒心を募らせながら、活気ある商店街を抜けて、ずっと先のさきのさきへ。

店の姿がまちまちに、そしてシャッター通りに差し掛かる頃、俺は商店街外れのとある一角にある地下のバー前でチャリを停めた。

スプレーで落書きされた洒落た壁と小さな衝立看板。
階段と一緒に設置されている手摺を目でなぞっていけば、階段の終尾に重量感ある木造の扉。

地獄の門に見えるのは俺だけじゃないよな。


アノ向こうに……留守じゃなかったら奴等がいる。健太を含む不良チームがいる。


「静かだな……誰もいないけど」

「ちょい待ち。連絡してみっから」


バイク組の姿が無い。既に突撃したのか? 周囲にバイクの姿は無いけど。

俺の疑念はすぐに解消される。
ヨウが弥生に連絡して状況を確認すると、向こうも刺客に襲われているみたいだ。

今、振り払ってこっちに来ているところらしい。
バイク同士じゃなかなか決着を付けるのは難しいからな。

撒くのが一番だろ。

出しゃばらないよう、俺達は皆が来るまで待つことにした。

こうしている間にも日賀野達が出てきたらどうしよう、なんて畏怖を抱いたけど、大丈夫、一人じゃない。
俺には頼もしい仲間がいる。舎兄がいる。怖いのはきっと俺だけじゃない。


(ハジメ、仇……とってくるからな)


心中で一時離脱している仲間を想う。お前の仇は絶対に。あの悪質画像の仕返しは絶対にしてくるからな。



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