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女の子を口説くより苦労するけど



◇ ◇ ◇



「そんな。こんなことって。嘘だろ。なあ? 誰か嘘だって言ってくれよ。ああ、くそうっ。涙が出て……泣くな俺。男の子は涙なんて簡単に見せるもんじゃないんだぞ。だけど、でもっ」


こんにちは田山圭太16歳、高校1年で某私立高校に通っている身分の地味っ子男子です。

ただ今、涙が止まらないです。
畜生、これはヘコむどころじゃなく、涙が止め処なく溢れる状況。

吹き抜ける風が目に染みて、またジンワリと視界を潤ませています。

嗚呼……無情。なんてこいったいマドモアゼル。マックス、どうして俺に非道な仕打ちをするんだい? 俺をこんなにも悲しませるなんて神様もいけずなお方。

不良難を恵んでくださるだけでなく、こんな仕打ちまで。

ははっ、つくづく神様から見放された男みたいだな俺って! ほんとうにこれは落ち込むよ。


「くそうっ」


両膝をついてグズグズと涙を流している俺に、

「田山……」

元気出せと肩に手を置いてくる一人の少年。

仮チームメートとして身を置いている利二に優しく励まされるけど、俺の心は粉々々々に打ち砕かれている。
一つひとつ拾って復活できるほど、俺のハートも強くはないぜ!
だってさぁ、元気出せる状況じゃねえって、これ。

こんな、こんな……こんな無残なお姿で再会するなんて!


「ううっ、俺のチャリがこんなところでご臨終していたなんて。ごめん、マイチャリ……ちゃんとお前の最期を看取れなくて。大丈夫、お前の亡骸はちゃんとお持ち帰りするからな。この仇、必ず……必ず……」


どどーん、俺は地面にめり込む勢いで落ち込んでいた。荒川チームたむろ場の倉庫裏でたっぷりと落ち込んでいる真っ最中だった。

というのも先日、たむろ場で見知らぬ不良に奇襲を掛けられて、俺は失神するという情けない事態に置かれたんだけど。

チャリの持ち主の俺が失神したってこともあって、後日チャリを取りに行こうと仲間達は失神した俺を担いでチャリをたむろ場に放置。


目が覚めた俺自身も、


「もう夜だし明日にでも取りに行こう」


能天気なことを思ってチャリを放置。

翌日と翌々日は雨が降ったから、たむろ場に足を運んだのは三日後のこと。

そうしたらどうだい?
前後のタイヤがズタズタに裂かれている上に、サドルのないチャリを目の当たりにしたという。

しかも重量のある何かで殴られたのか、チャリのボディがベッコベコに曲がってやがるという。

おまっ、これは……俺の大事な足なのに、チームの足でもあるのに。


なによりこのチャリは俺の小遣いでご購入した。
正しくは俺の金で購入させられたのに、クソッタレ弁償しやがれー! ……ガチでありえないんだぜ。

三年は乗ろうと決めていたのに。高校はこれで貫くつもりだったのに。一万超えはしたんだぞバカチタレ。


「お前と出会ったのは中三だったな。丁度、習字をやめた頃にお前と出会った。塾に行き始めた頃、お前という素晴らしい相棒に……いやそりゃお前と共に不良を轢きそうになっちまったのが、不良難の始まりでもあるけれど。不良から逃げ惑ったあの日々はお前のおかげで乗り切ることができたんだ。そんなお前に乗れないなんて無念過ぎる。こんなことなら名前くらい付けてやるんだった、俺の愛チャリ」


「……田山、悲しんでいるんだよな? 間違ったって、笑いを取ろうとしているのではないんだよな?」


笑い? 失礼な! 俺は真面目にチャリのために涙を流しているというのに!

ちーんっとポケットティッシュで洟をかみながら、

「笑いが何だって?」

片眉をつり上げてみせる。
利二はたっぷりと間を置いて、「ガチなんだな」それは悪かったとばかりに愛想笑い。

なあ利二さんよ、物に涙を流す。

それの何が悪いと言うんだい?

物にだってな、魂が宿っているってじっちゃんやばっちゃん言っていたぞ! 物は大切にしましょうなんだぞ。
大事にしてたからこそ涙しか出ないんだぞ。あ、溜息も出るけど。

「はぁあ……チャリがこんな目に遭っちまって。どーしよう。俺からチャリを取ったらどうなるか知っていての悪意ある行為だよな、これ」


「可能性は大だな。日賀野は村井と田山の厄介性を早めに摘んでおきたかったんだろう。団体戦は個々人の能力がキーになってくるそうだからな。
だが安心しろ、チャリなら代用できる。自分のチャリを貸してやるから。あまり使用しないから疵付いても大丈夫だ」


「ぶっ壊れるかもしれないぞ。見ろよ、俺のチャリ。見るも無残、聞くも無残、語るも無念なお姿なのに」


すると利二は微笑を浮かべて俺の肩に手を置いた。


「今はそんな小さなことを気にしている場合じゃないだろ。お前はお前のやるべきことに集中しろ。チャリくらい、どうにでもなる」




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あきゅろす。
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