11-30
「自転車がない舎弟は使えないと聞く」
どん、効果音にするとこの音がピッタリだろう。
俺等の前に赤い彗星が現れた。あ、ちげぇ赤い副頭が現れた。
髪の色に反してこのクールっぷり! 同じ髪の色を持つタコ沢と大違いだな! ……てか、大ピンチ? 俺等フルボッコカウントダウン入っている?
「携帯の仇はとってね!」
能天気に応援するホシと、眉根を寄せたまま仏頂面で立っている健太の視線を受けながら、向こうの副頭は冷然と俺等を見下ろしてくる。
俺とハジメは顔を見合わせ、肩を竦めた。
「ヤーレヤレなんだぜ。またフルボッコされる羽目になるとはなぁ、ハジメ」
「だねぇ、ケイ。でもほら、今度は一人じゃなくて二人だから。死ぬ時は一緒だよ、と言ってみる」
「ンッマー、惚れちゃいそう。ハジメさん。その前に、ええいっ、そこの副頭さん! 今さっき自転車がないと使えないと仰ったけどな……じ、自転車以外にも俺には習字って必殺武器があるんだぞ! あ、ナニその顔、習字がどうしたって顔しているな? 習字は精神力との勝負なんだぞ! この際だから教えておいてやろう!」
習字とは文字を正しく、美しく書く練習のことを言うんだ。戦闘スタイルはいたってシンプル。
今回は特別に毛筆編を特に教えてあげよう! 次回はないけどさ!
―戦闘スタイル(毛筆編)―
その1:墨汁をたっぷり吸った筆を持つ。
その2:半紙と向き合い、
その3:どれだけ字を綺麗に正確に丁寧に書けるか勝負をする。
文字vs俺の真剣勝負開始!
消しゴムで消すなんて手法がないため一発勝負。
謂わば真剣勝負なのだ!
俺、田山圭太は確かに自転車がなくなると使えない人間になる。それは認める。
だけど取り得としてもう一つ、真剣勝負に強い習字が得意だってことを覚えておいてもらいたい!
ちなみに熱弁している俺だけど、習字が大好きとかそうゆーことないっすよ! 寧ろ習字は親から習わされていたんで夜露死苦!
「どーだ。人間っていうのは何か一つや二つ、必ず取り得がある。俺は習字が得意だからそれも覚えとけ! ……うっし、スッキリした。日賀野と同じことを副頭さんにも言ってやったぜ。不良相手によく言った。がむばった俺。後はなーむになるだけだ。悔いはねぇや。未練はあるけど」
「ぶふっ、あっはっはっはっは! ケイっ、この状況でナニ言っちゃってくれてるの! しかもそれ、ヤマトに言ったわけ? あっはっはっは!」
場所問わず大爆笑してくれるハジメは「ヤマト相手に言ったんだ!」それは今からフルボッコにされる男が言う言葉じゃない。KY過ぎる! ヒィヒィ笑声を上げて、腹を抱える。
おいおいおい、俺の習字伝説をなんだと思っているんだよ、ハジメ。
いや、そりゃーKY発言だって自覚はあるけど、俺だってあの時はテンパって「ククッ」そうそう……こうやって日賀野を笑わせ、ン?
俺は顔を上げて今からフルボッコしようとする不良さんを見上げた。
副頭さんは俺等に背を向けると、スタスタと民家の塀に歩み寄ったと思ったら、しゃがみ込んで身を震わせている。
何をしているんだ、あの人。
口元に手を当てたりなんかしちゃってからに、まさか吐きそう?
……此処で吐くくらいなら、コンビニでトイレを借りることをオススメするぜ! 何事もマナーは大事だろ!
血相変えたのは健太、「始まったよ」呆れているのはホシ。健太が慌てて駆け寄り、しゃがみ込んでいる副頭に声を掛ける。
「ああぁああ! ススムさんっ、大丈夫ですか!」
口元を押さえている相手からは応答は無い。やっぱりあれか? 吐きそうなのか?
「ナニ健太。その人、ガチで吐きそう? 俺、ビニール袋をそこのコンビニから貰ってこようか? エチケットは大事だぜ! こういう時は敵も味方もない!」
「あ、お気遣いどーもどーも。確かに敵味方関係なくエチケットは大事ですよねぇ」
「エチケットは人間社会のマナー! 皆で守ろう、社会マナー! 忘れないでジャック、俺も貴方も敵の前に同じ人間よ!」
「デイビット、忘れていたよ。君も同じ人間だったことを!」
「ちょ……ケンまで、どうしたの?」
どん引きしているホシの一言により、ハッと健太が我に返る。
「しまった。乗せられた」
頭を抱え、どーんと落ち込む健太はやっぱり俺と同じ調子ノリのようだ。
こうやって乗ってくれる健太を見ていると、まだ俺の知っているあいつなんだなと安心できる。
はてさて、忘れられそうになっていた副頭さんは俺等のやり取りを聞いて咳き込み始めた。
ガチで吐きそうなのか?
さっきから身を震わせているけど……フルボッコどうするの? あ、別に望んでるわけじゃないけどさ!
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