11-20
「あれはっ、荒川だ! 浅倉の野郎、あの荒川と協定を結びやがった!」
ホーンやエンジン音によって自分達の姿に気付いてくれた両チームは急いで道の両端へと避難してくれる。
おかげで人を轢くこともなく(轢いたら大問題だ!)、悠々スムーズに道を走ることができた。
ついでに浅倉チームが地元では名高い不良の荒川庸一と手を結んだことを察したようで、あからさまに顔色が変わる。
「ずいぶんと有名だな。その人気に嫉妬しちまうぜ」
笑声を零す浅倉に、
「ファンが多くて困るぜ」
おどけ口調で返した。
「だがテメェのおかげで志気が揺らいでいるもの確か。イケメンの知名度には感謝だぜ」
バイクに跨っている向こうのリーダーを一瞥。鼻で笑い、口角を緩める。
「ッハ、嫌味にしか聞こえねぇよ浅倉。それに雑魚には興味ねぇだろうが。俺等が食らうのは榊原チームだ」
ヨウ達は合戦を素通りして無事に仲間達と合流、予定していた人数で南門へと向かう。
途中チャリに乗っている組は助言を守り、脇道に入ると別の道で南門を目指した。
此処までは作戦によって何事も無く終えているが……問題は此処からだ。ヨウは脇道以外のバイクでも通れそうな横道に目を配る。
早速お出でなすったようだ。向こうから見覚えのない面子がバイクに跨っている。
ご丁寧なことに、運転役以外は何かしら武器らしき金属バットやら鉄パイプやら果物ナイフやら。
「また殺し合い……んにゃ死闘ご希望かよ。武器とか反則だろうが」
思わず舌を鳴らしてしまう。
最近の若者は喧嘩を何だと思っているのだろうか(自分も若人という類ではあるが)。
タイマンを張ってこその喧嘩。拳を使っての喧嘩だろうに、凶器を持ち出してくるとは……事を警察沙汰にさせたいのだろうか? それとも脅し程度に持ち出してきたのか? どちらにせよ、この喧嘩状況は良い傾向ではない。
(雑魚にだって油断はしねぇ)
敵を睨みつつヨウは口角をぺろっと舐めると気を引き締める。
脳裏に過ぎるのは池田チームとの喧嘩。
仲間が傷付いた一シーンがヨウの胸を焦がす。
強く手の平を握り締めた。
エリア戦争の覇者になるためには、雑魚を含めた向こうの頭と幹部を全員撃ち取るしかない。最優先に榊原達を潰す予定ではあるが、危険視する相手は徹底的に潰しておく。
「和彦さん! 此処は俺等に任して下さい! だから荒川達と榊原達を!」
浅倉チームの面子数人が協定を結んでいる不良チームや雑魚は自分達が潰すと申し出。
少しでも腕っ節のある者達を榊原チームのところにやりたい一心なのだろう。
そのまま軌道を変え、凶器を持っている不良達のもとへと走った。
人数が人数だ。
勝算は薄いだろう。
それでも面子は勝気に勝負を挑んでいく。勝利のために。
「あんの馬鹿ども」
顔を顰める浅倉だが、
「信じている。あいつ等が簡単にヤラれるタマかよ」
気持ちを切り替えたようで、誰よりも先に南門に突入。
続いてヨウ達も南門陣地に入り、バイクを停車。待ち構えていたチームを見据えた。
場所問わず大笑いたくなる不良の人数と、各々手中には物騒な凶器らしきブツ。
ガチ話、向こうは喧嘩でなく死闘を要望しているよう。
生憎此方は喧嘩を要望しているのだが、どうも意思疎通はできないようだ。
「どいつが榊原だ」
バイクを降り、ヨウは浅倉に質問をぶつける。
同じく滑らかな動きでバイクを降りた浅倉は、髪を紫に染めている奴だと顎でしゃくった。
なるほど、確かに異質の色を放つかのごとく髪を紫に染めている不良が軍団の中に紛れている。
なんとまあ、どっかの誰かさんを思い出す策士なお顔にニヒルな笑みだこと。顔を合わすだけでも感じる、自分とは絶対にソリが合わないだろう、と。
此処まで手の込んだ死闘という舞台を用意してくれたのだ。ソリも馬も気も合わないだろう。ヨウは盛大に舌を鳴らした。
榊原と呼ばれた男が此方に気付き、ニヒルな笑みが濃くなる。
「浅倉ぁ、少しはアタマ使うようになったじゃん? らしくねぇことに協定を結んだみてぇだな。しかも近所で名高い荒川のところとはなぁ? こりゃあ日賀野を呼ばないかんかもなぁ。まあ、今のところは人数が人数だし、様子見だけどな」
余裕綽々。
上から目線で問い掛ける男の態度がなんとも癪に障る。
「じゃあかしい。あんまり褒めるとお前に惚れるぞ、何様のつもりだ」
努めておどけ口調。しかし目はちっとも笑っていない浅倉が忌々しく敵方の頭を見据えた。向こうの面子には見覚えのある元仲間達がいるようだ。
どういう策で仲間を自分の手中に収めてしまったか分からないが、親しかった仲間や……可愛がっていた元舎弟がそこにいる。
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