11-18
「――喧嘩にチャリ使うとか、マジどんな喧嘩だろうな。ダセェ。初めての経験だよ」
自分もバイク組が良かった。バイクの後ろに乗せてもらいたかった。
二手に分かれた東西の一手、東組の斬込みを任されたモトだが、まさかチャリで喧嘩に乗り込むとは思いもしなかったと落胆の意を見せる。
しかも使用しているチャリがママチャリって……格好の付く付かないの問題ではない。
取り敢えず、これで喧嘩に乗り込む行為にしては“格好が悪い”の他に感想が思い当たらない。
どんな不良映画、漫画、アニメでも、不良の足といえばバイクではないか。
何が悲しくてママチャリ。ママチャリで喧嘩に乗り込む事例など聞いた事がない。
あ、いや、身近に大尊敬している兄分をチャリの後ろに乗せて、かっ飛ばしている先輩というべき男を知っているが……ママチャリと喧嘩と不良の三拍子。最悪に格好が悪い。
けれど愚痴を吐いてばかりもいられない。
自分達はリーダーのために一肌も二肌も脱がなければならないのだから!
ダイダイ大尊敬している兄分の顔に泥を塗るような失態などできない。
なにかと兄分の舎弟ばかりが活躍しているが、舎弟ばかりが活躍なんて癪ではないか。
自分だって兄分のことを、チームのことを想っているのだ。舎弟に負けやしないさ。
これは舎弟に対する対抗心。
しかしそれは彼自身を認めていないのではなく、彼の実力と努力を認めているからこそ張り合おうとするのだ。
自分は彼を好敵手(ライバル)として見ているのかもしれない。
「(負けてられないよな。オレ、ヨウさんに“後継者”だって言われたんだし)よし、後れを取るなよタコ沢!」
側らにいる同行者、同じグループのタコ沢に小生意気な口をきくと喝破が飛んできた。
「ダァアア! こんのクソガキ! 365日プラス生まれた日数、俺より年下のくせに生意気言いやがって! そして俺は谷沢だ!」
誰がタコだと物申す不良に、タニか、タコかの違いではないか、モトは舌を出す。
見る見る米神に青筋を立てる熱血不良男に、
「ヨウさんのパシリのクセに。ついでに負け負けのくせに!」
相手の怒りを煽った。
よって相手の眼光が鋭くなったのだが、モトは気にせず颯爽とママチャリを漕ぐ。
刹那、後ろから怒号が聞こえた。
モトの脇から暴風が通り過ぎ、
「俺の前を走るんじゃねえ!」
タコ沢がチャリを立ち漕ぎして前を走る。
そのスピードといったら、先頭を走るバイクを越す勢いだ。どうやら向こうの闘争心に火を点けてしまったらしい。
単純な奴だと呆れつつも、モトは表情を崩してペダルを踏んだ。繰り返しペダルを踏み、踏み、ふみ、足を動かし。
やがてブレーキを掛けて、チャリを一時停止。弾かれたように前方に視線を向ける。
東門出入り口前には柄の悪そうな不良達がわんさかわんさか。都丸チームの不良が集っている。
どうやら榊原チームが動き出したことを察知して、チームなりに迎え撃つ準備をしていたらしい。
少人数ながらも乗り物に跨った自分達の出現に、相手のチームから大きな敵対心と警戒心を向けられた。
バイクは勿論、チャリに跨った不良達に些か不審を抱いているようだ。異質なものを見る眼で此方にガンを飛ばしている。
異質に見てしまう点は共感できる。
自分だって喧嘩という大舞台にママチャリで乗り込まれて来たら、なんだこいつ等……という気分になるだろう。
そんな彼等に一言物申したい。
ママチャリは不本意だ、と。
同じグループであり、向こうのチームに属している副頭の涼がシニカルにニッと口角をつり上げた。
相手チームの視線も跳ね飛ばしてタメで挨拶を始める。
「そげんえずい顔せんでちゃ、まちっと歓迎しとってくれてもよかろーもん。心ん狭い奴等(そんなに怖い顔しなくても、もう少し歓迎してくれてもいいじゃないか。心の狭い奴等)。――行くぞテメェ等!」
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